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宮廷編
買い物
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この宿に泊まって3泊目。宿の朝食でジロジロ見られるのもそろそろ慣れてきたよ。最初の朝に隣の人に声を掛けて以来、私の傍で食べようとする人はいないけどね。でもこの3日間朝食を食べてるのは同じ人達なんだよね。食事を持ってきたお姉さんに聞いてみた。
『少し質問があるのですが、よろしいでしょうか』
『なんでしょうか?』
『他のお客様方は長期の御逗留なのでしょうか?』
『ああ、その事。失礼しました。彼らは北方から来た商人達なのです。決闘(フェーデ)と称して誘拐する悪党達のせいでニュルンベルクへの道が通れないらしいのです。それで帰還のための準備の間お泊り頂いているのです。』
私は立ち上がってこの前話した男の人の席に向う。別の男の人と談笑していたのに私が寄っていくと二人とも顔を引きつらせた。
『おはようございます。少しお聞きしたい事があるのですが』
『私共に何か御用でしょうか?』
『あなた方は北方の商人とお聞きしましたが』
『その通りでございます』
『私、ケルンに向かおうとしてるのですが、何でもニュルンベルクへの道が通れないとか』
私が話しかけた男の人は少し安心した様な顔で答えた。
『その通りでございます。その事で私共も難渋しておるのです』
『どうされるのですか?』
『北に向かう者が集まって警護団を雇おうとしておるのですが、なかなか集まらなくて。こんな宿に何日も滞在するはめになっております』
こんな宿とか言うから宿の人がこっちを睨んだような気がするんだけど。
『警護団。募集はどうされてるのですか?』
『アウグスブルグ市の商人ギルドを通して集めているのですが、同じような事をしようとする隊商が多く、人手が足りません』
それだ。
そうか、そうだよね。警護の人手が足りてないんだよね。
食事を済ませて宿屋の人に銃工と刀工、皮職人に古着屋の場所を聞いた。銃工の事を聞いた時はびっくりしてたけど。
驚かれたのは買い物先でも同じだった。
銃と剣は既製品が数日中に入手できそう。勿論弾と火薬も。投擲用ナイフは無かったので作製を依頼したけど、何か嫌そうな顔をしてた。
胸当て、ヘルメットは以前のとほぼ同じ。胸当てはすこし直してもらった。内側に平たい貴重品をこっそり入れられるようにしたんだよね。手形ごと撃ち抜かれたら?その時は多分死ぬから。
衣装の方は少年っぽい男装の古着を買った。背が足りないので大人の男性のは無理。今はお金はあるけど、仕立ててる時間がおしい。
それらを発注して古着以外は後日取りに行く事で話をつけた。結局一周回ってモンスに来た時と同じような恰好になるんだけど、あの時と違って懐は十分温かい。手元にある100グルデンだけで数年は優に暮らせるはず。
古着を入れた布袋を肩に掛けて宿の前まで帰ってきたところ、後ろから声を掛けられた。
「アネット様」
後ろを振り返ると血の気が引いた。この人!
「私を捕まえにきたの?」
「いえ、決してそのような。ランベルト様からのメッセージを伝えに来ただけです」
そんな事言っても腰に剣さしてるじゃん。
カールさんは剣を鞘ごと外して柄をこちらに差し出し、右膝を地面について、左膝を立てた。
止めてよ、こんな公衆の面前で。
カールさんは離宮の使用人頭かと思ってたけど、騎士だったみたい。
仕方がないので、剣を受け取って宿の中に入る。周りの目が痛い。
部屋の中に入ると口を開いた。
「メッセージって何?」
「アネット様にはお戻り頂けないでしょうか?」
やっぱり。
「死んでも戻らない」
「アネット様は誤解されてます。ランベルト様は決してアネット様に対し悪意があったわけではないのです」
「もう口車には乗らないから」
「そのような。ランベルト様は皇帝陛下にアネット様の秘密を伝えられてはおりません」
「じゃ何故あの時馬の準備をしてたの?」
「アネット様が去られて分かったのでございましょう。何が大切なのか」
「兎に角帰りませんから」
「分かりました。そうお伝えします。ランベルト様はアネット様がお帰りにならない場合、今の状況をお知らせしろと言われました」
「今の状況って?」
「まず、マリー様の死亡が確認されました。これは皇帝陛下もご存じです」
「それで?」
「アンジェ公爵様は帝国がマリー様の事を調査している事を察知し、先手を打ってマリー様の死亡とそのため帝国に向かったのは替え玉である旨公表されました」
「帝国側はアンジェ公爵家の表明に対する対応をまだ決定しておりません」
「皇帝陛下は私が逃亡した事をご存じなの?」
「ランベルト様がお知らせしました。流石にその事は隠せないので」
「皇帝陛下は私を捕まえようとしてるの?」
「アンジュ公爵が替え玉と言った以上、失礼ながらアネット様の重要性は失われました」
「あ、しまった。私とんでもない事しちゃったかも」
「どうされました?」
「私、装飾品を売ったのよ。エルマー・フェーン様に」
「商人ギルド幹部のエルマー・フェーンにですか?でもお売りになったものはアンジュ公爵がアネット様にくだされたものですよね」
「それが問題じゃなくて、後日のため私が売ったって覚書が欲しいと言われて」
「それが何か?」
「私サインしちゃったのよ。アネット・ド・アンジュって」
『少し質問があるのですが、よろしいでしょうか』
『なんでしょうか?』
『他のお客様方は長期の御逗留なのでしょうか?』
『ああ、その事。失礼しました。彼らは北方から来た商人達なのです。決闘(フェーデ)と称して誘拐する悪党達のせいでニュルンベルクへの道が通れないらしいのです。それで帰還のための準備の間お泊り頂いているのです。』
私は立ち上がってこの前話した男の人の席に向う。別の男の人と談笑していたのに私が寄っていくと二人とも顔を引きつらせた。
『おはようございます。少しお聞きしたい事があるのですが』
『私共に何か御用でしょうか?』
『あなた方は北方の商人とお聞きしましたが』
『その通りでございます』
『私、ケルンに向かおうとしてるのですが、何でもニュルンベルクへの道が通れないとか』
私が話しかけた男の人は少し安心した様な顔で答えた。
『その通りでございます。その事で私共も難渋しておるのです』
『どうされるのですか?』
『北に向かう者が集まって警護団を雇おうとしておるのですが、なかなか集まらなくて。こんな宿に何日も滞在するはめになっております』
こんな宿とか言うから宿の人がこっちを睨んだような気がするんだけど。
『警護団。募集はどうされてるのですか?』
『アウグスブルグ市の商人ギルドを通して集めているのですが、同じような事をしようとする隊商が多く、人手が足りません』
それだ。
そうか、そうだよね。警護の人手が足りてないんだよね。
食事を済ませて宿屋の人に銃工と刀工、皮職人に古着屋の場所を聞いた。銃工の事を聞いた時はびっくりしてたけど。
驚かれたのは買い物先でも同じだった。
銃と剣は既製品が数日中に入手できそう。勿論弾と火薬も。投擲用ナイフは無かったので作製を依頼したけど、何か嫌そうな顔をしてた。
胸当て、ヘルメットは以前のとほぼ同じ。胸当てはすこし直してもらった。内側に平たい貴重品をこっそり入れられるようにしたんだよね。手形ごと撃ち抜かれたら?その時は多分死ぬから。
衣装の方は少年っぽい男装の古着を買った。背が足りないので大人の男性のは無理。今はお金はあるけど、仕立ててる時間がおしい。
それらを発注して古着以外は後日取りに行く事で話をつけた。結局一周回ってモンスに来た時と同じような恰好になるんだけど、あの時と違って懐は十分温かい。手元にある100グルデンだけで数年は優に暮らせるはず。
古着を入れた布袋を肩に掛けて宿の前まで帰ってきたところ、後ろから声を掛けられた。
「アネット様」
後ろを振り返ると血の気が引いた。この人!
「私を捕まえにきたの?」
「いえ、決してそのような。ランベルト様からのメッセージを伝えに来ただけです」
そんな事言っても腰に剣さしてるじゃん。
カールさんは剣を鞘ごと外して柄をこちらに差し出し、右膝を地面について、左膝を立てた。
止めてよ、こんな公衆の面前で。
カールさんは離宮の使用人頭かと思ってたけど、騎士だったみたい。
仕方がないので、剣を受け取って宿の中に入る。周りの目が痛い。
部屋の中に入ると口を開いた。
「メッセージって何?」
「アネット様にはお戻り頂けないでしょうか?」
やっぱり。
「死んでも戻らない」
「アネット様は誤解されてます。ランベルト様は決してアネット様に対し悪意があったわけではないのです」
「もう口車には乗らないから」
「そのような。ランベルト様は皇帝陛下にアネット様の秘密を伝えられてはおりません」
「じゃ何故あの時馬の準備をしてたの?」
「アネット様が去られて分かったのでございましょう。何が大切なのか」
「兎に角帰りませんから」
「分かりました。そうお伝えします。ランベルト様はアネット様がお帰りにならない場合、今の状況をお知らせしろと言われました」
「今の状況って?」
「まず、マリー様の死亡が確認されました。これは皇帝陛下もご存じです」
「それで?」
「アンジェ公爵様は帝国がマリー様の事を調査している事を察知し、先手を打ってマリー様の死亡とそのため帝国に向かったのは替え玉である旨公表されました」
「帝国側はアンジェ公爵家の表明に対する対応をまだ決定しておりません」
「皇帝陛下は私が逃亡した事をご存じなの?」
「ランベルト様がお知らせしました。流石にその事は隠せないので」
「皇帝陛下は私を捕まえようとしてるの?」
「アンジュ公爵が替え玉と言った以上、失礼ながらアネット様の重要性は失われました」
「あ、しまった。私とんでもない事しちゃったかも」
「どうされました?」
「私、装飾品を売ったのよ。エルマー・フェーン様に」
「商人ギルド幹部のエルマー・フェーンにですか?でもお売りになったものはアンジュ公爵がアネット様にくだされたものですよね」
「それが問題じゃなくて、後日のため私が売ったって覚書が欲しいと言われて」
「それが何か?」
「私サインしちゃったのよ。アネット・ド・アンジュって」
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