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警護編
華やぎの中の孤独
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男爵のテントから出ると10人ほどの兵がテントの入口から少し離れた所で地面に座っている。一番前にいたフランソワさんが王国語で声を上げた。
「アネット様にお願いがあります。そのヘルメットを取っていただけないでしょうか?」
男爵が何か言いそうになるのを手で制して私はヘルメットを取る。数人の兵士が口々に歓声を上げた。
「アネット様、我々は元アンジュ公爵領民です。お願いです。アンジュ公爵領にお帰り頂けないでしょうか?そしてミシェル様を排して公爵家をお継ぎいただけないでしょうか?」
「ミシェル様を排して?何故です」
ミシェル様を排してってそんな事出来るわけないでしょう。
「ミシェル様が公爵家を継がれて以来、王家や周辺の領家との関係が悪化し度々戦となっております。民は兵に取られ、農地は荒れました。我々はそのため郷里を捨て流民となった者です。王家との関係が改善され戦が無くなれば我々も郷里に帰る事が出来るのです」
「国王陛下の姪でエリック様のお子様であるアネット様が公爵家の主となれば、王家との確執も解消されるでしょ。どうか我々の願いをお聞き下さい」
「私は状況が分かっておりません。アンジュ公爵領の様子を調べる事に致します」
義父さんの事、両親の事、一度こっそり公爵領に帰って確かめないと。
『お前ら、さっさと持ち場に帰れ』
男爵の大声で兵達はフランソワさんを残して解散した。
「フランソワさんは騎士だったのですか?庶民にはあのような事は思いもよらないでしょう」
「出奔いたしました」
『アネット様も我々に分かるように言ってもらえませんか?あれでは他の兵達が不信を抱きます』
『フランソワさんが私の事を彼らにバラしたので、アンジュ公爵領出身者が私の姿を見たいと集まってただけです。何だか見世物になったみたいです』
『あなたは人気者ですな。正直うらやましい』
『男爵も兵から慕われてるのではありませんか?』
『給金が慕われてるのだと思いますな』
男爵は周りの警護を指さして続けた。
『私なんぞ給金が滞ったり食料が不足すれば、兵士たちに詰め寄られ場合によれば生命の危険さえあります。だから一般兵と別に警護を連れているのです』
傭兵団の陣地は小さな丘のような所に構築されていて周りの様子が見渡せる。男爵は私を一番高い場所に案内して戦況を説明した。
『正面に見える街が反逆者が立て籠もってる街です。我々は帝室に雇用されてますが、その他は周辺の領邦からの兵。包囲開始後1月ですが、包囲戦では長期間食料を現地調達出来ないので、酒保業者が食料を買い集められなければ、飢えるのは我々です。補給は本当に有り難い』
夕食は男爵と一緒に食べる事になった。
『あの様子ではあなたの話が広まるのは避けられないでしょうな』
『どうも商人の間でヨハン様との事が噂になってるみたいです。それをアンジュ領の者が聞けば容易にフランソワさんと同じ結論を出すでしょうね』
『どうされるのですか?』
『その件で男爵様にすこしお願いがあります。私は一度密かにアンジュ公爵領に戻り様子を探ってみようと思うのです。男爵様の言われた件を養母に聞いてみたいとも思います。アンジュ領の端の方なのでマリー様を見たことのある者はいないと思います』
『それで?』
『その際、アネット・ロンの名前を使うわけにはまいりません。そこでコンツ男爵のお名前をお借りさせていただけないでしょうか?帝国男爵のジャジャ馬娘という事にしたいのです』
『つまりコンツ男爵令嬢というわけですか?それは光栄ですな。名前はどうされます?』
『コンツ男爵令嬢であれば、コンツ男爵様に名付けていただけませんか?』
『そうですな。エレナなどはどうでしょう?』
『エレナ・コンツですか?』
『エレナ・フォン・コンツでお願いします。男爵とはいえ爵位を持っておりますので』
『これは失礼いたしました。ではアンジュ公爵領ではエレナ・フォン・コンツと名乗る事に致します』
外に出ると、兵士達が酒保業者の物資に含まれていた酒を飲んでる。男爵が今日の飲酒を許可したから。敵は厳重に包囲された街の城壁の内側に閉じこもってるし、直ぐに戦闘が起きる可能性はほとんど無いと思う。
戦場に似つかわしく無い華やいだ雰囲気の酒保から少し離れた場所に輸送隊が野営してた。男爵が傭兵団のテントを提供すると言うのを断り、輸送隊の野営から少し離れた場所で一人野宿。
フランソワさんがあんな事言い出すなんて全く予想していなかった。突き付けられた現実、為政者の一族としての責任に当惑してた。
そして男爵の話の正しさが私を苛む。信じてきた事がゆらぎ、頼るべき物が無くなったように感じる。
孤独だった。
「アネット様にお願いがあります。そのヘルメットを取っていただけないでしょうか?」
男爵が何か言いそうになるのを手で制して私はヘルメットを取る。数人の兵士が口々に歓声を上げた。
「アネット様、我々は元アンジュ公爵領民です。お願いです。アンジュ公爵領にお帰り頂けないでしょうか?そしてミシェル様を排して公爵家をお継ぎいただけないでしょうか?」
「ミシェル様を排して?何故です」
ミシェル様を排してってそんな事出来るわけないでしょう。
「ミシェル様が公爵家を継がれて以来、王家や周辺の領家との関係が悪化し度々戦となっております。民は兵に取られ、農地は荒れました。我々はそのため郷里を捨て流民となった者です。王家との関係が改善され戦が無くなれば我々も郷里に帰る事が出来るのです」
「国王陛下の姪でエリック様のお子様であるアネット様が公爵家の主となれば、王家との確執も解消されるでしょ。どうか我々の願いをお聞き下さい」
「私は状況が分かっておりません。アンジュ公爵領の様子を調べる事に致します」
義父さんの事、両親の事、一度こっそり公爵領に帰って確かめないと。
『お前ら、さっさと持ち場に帰れ』
男爵の大声で兵達はフランソワさんを残して解散した。
「フランソワさんは騎士だったのですか?庶民にはあのような事は思いもよらないでしょう」
「出奔いたしました」
『アネット様も我々に分かるように言ってもらえませんか?あれでは他の兵達が不信を抱きます』
『フランソワさんが私の事を彼らにバラしたので、アンジュ公爵領出身者が私の姿を見たいと集まってただけです。何だか見世物になったみたいです』
『あなたは人気者ですな。正直うらやましい』
『男爵も兵から慕われてるのではありませんか?』
『給金が慕われてるのだと思いますな』
男爵は周りの警護を指さして続けた。
『私なんぞ給金が滞ったり食料が不足すれば、兵士たちに詰め寄られ場合によれば生命の危険さえあります。だから一般兵と別に警護を連れているのです』
傭兵団の陣地は小さな丘のような所に構築されていて周りの様子が見渡せる。男爵は私を一番高い場所に案内して戦況を説明した。
『正面に見える街が反逆者が立て籠もってる街です。我々は帝室に雇用されてますが、その他は周辺の領邦からの兵。包囲開始後1月ですが、包囲戦では長期間食料を現地調達出来ないので、酒保業者が食料を買い集められなければ、飢えるのは我々です。補給は本当に有り難い』
夕食は男爵と一緒に食べる事になった。
『あの様子ではあなたの話が広まるのは避けられないでしょうな』
『どうも商人の間でヨハン様との事が噂になってるみたいです。それをアンジュ領の者が聞けば容易にフランソワさんと同じ結論を出すでしょうね』
『どうされるのですか?』
『その件で男爵様にすこしお願いがあります。私は一度密かにアンジュ公爵領に戻り様子を探ってみようと思うのです。男爵様の言われた件を養母に聞いてみたいとも思います。アンジュ領の端の方なのでマリー様を見たことのある者はいないと思います』
『それで?』
『その際、アネット・ロンの名前を使うわけにはまいりません。そこでコンツ男爵のお名前をお借りさせていただけないでしょうか?帝国男爵のジャジャ馬娘という事にしたいのです』
『つまりコンツ男爵令嬢というわけですか?それは光栄ですな。名前はどうされます?』
『コンツ男爵令嬢であれば、コンツ男爵様に名付けていただけませんか?』
『そうですな。エレナなどはどうでしょう?』
『エレナ・コンツですか?』
『エレナ・フォン・コンツでお願いします。男爵とはいえ爵位を持っておりますので』
『これは失礼いたしました。ではアンジュ公爵領ではエレナ・フォン・コンツと名乗る事に致します』
外に出ると、兵士達が酒保業者の物資に含まれていた酒を飲んでる。男爵が今日の飲酒を許可したから。敵は厳重に包囲された街の城壁の内側に閉じこもってるし、直ぐに戦闘が起きる可能性はほとんど無いと思う。
戦場に似つかわしく無い華やいだ雰囲気の酒保から少し離れた場所に輸送隊が野営してた。男爵が傭兵団のテントを提供すると言うのを断り、輸送隊の野営から少し離れた場所で一人野宿。
フランソワさんがあんな事言い出すなんて全く予想していなかった。突き付けられた現実、為政者の一族としての責任に当惑してた。
そして男爵の話の正しさが私を苛む。信じてきた事がゆらぎ、頼るべき物が無くなったように感じる。
孤独だった。
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