ニセ公女と皇帝陛下の三男坊

真黒豆

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外伝 間諜ナタリーさん

その三 秘密

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『質問してもよろしいでしょうか?』

『どうぞ』

『アネットさんの侍女のアメリさんと仰いましたが、アンジュ公爵家の方なのですか?』

『アネット”様”の侍女です。ええ、私は公爵閣下から直接アネット様付きを命ぜられました』

『アンジュ公爵があなたをアネット”様”の侍女に命ぜられたのですか?替え玉である事がばれた今でも、あなたはアネット”様”の侍女なのですか?正直理解できません』

『ナタリー、これから言う事は決して漏らしてはいけない。アネット嬢の本名はアネット・ド・アンジュと言う。前アンジュ公爵のエリック・ド・アンジュ公の一人娘だ』

 えっ。

『アネット様は4歳の時、お母様のセリーヌ様と一緒に夏の離宮に行く途中で賊に襲われました。セリーヌ様は亡くなり、アネット様は行方不明に。ずっと亡くなられたと思われてたのですが、ミシェル様が亡くなったマリー様の代わりを探されてた時にたまたま見つけらたのです。それでマリー様の代わりに皇帝家に輿入れする事になりました』

『マリー嬢が亡くなった以上アンジュ公爵家の跡取りはアネット嬢しかいない。そのアネット嬢を花嫁として送り出したのだ。アンジュ公爵家が帝室を謀ったと目くじらを立てるほどの事ではないのだ』

『アネット嬢は帝国とアンジュ公爵家が和解するための鍵だ。これは非常に重要な任務と心得てくれ』

『分かりました。秘密は決して漏らしません。それで、もう少しお聞きしても良いでしょうか?』

『何が聞きたい?』

『アネット様は今ケルンに住まわれてるのですか?』

『そうだ』

『どういう経緯でそう言う事になったのでしょう?』

 ランベルト様が顔をしかめた。

『アメリ、君から説明してくれないか?』

『アネット様はヨハン様との結婚式の際、マリー様として結婚を誓うのを拒否されたのです。それでも皇帝家は替え玉である事を隠して政略結婚を進めようとしたのですが、今度はヨハン様が替え玉と結婚する事を拒否されました』

『アネット様が替え玉でもアンジュ公爵家の後継者なら結婚すればよかったのではないですか?』

『それがアネット様自身を含めて皆アネット様の正体を知らなかったのです。私と公爵様だけが知ってました』

 ああ、そう言う事。

『それで皇帝家はアネット様にランベルト様との結婚を提案し、アネット様は同意されました。但しマリー様の死亡を確認してからとの事でしたが』

『マリー様が亡くなってた事をアメリさんはご存じじゃなかったのですか?』

『当然知ってました。マリー様を見取ったのはマリー様の侍女だった私です』

『なんて事だ』

『ランベルト様はわざわざモンスに人を送ってマリー様の死亡を確認しようとしたそうですが。確認できるまでの間アネット様は皇帝家の狩猟用の離宮で過ごしました』

 それって本部……だよね。

『ある日ランベルト様がアネット様がお持ちの”お母さんのペンダント”を開いてしまわれました。裏蓋の紋章からアネット様が王家の血を引いている事が分かります。それでランベルト様は私にアネット様が本当は何者かと問われ、私は答えました。アネット・ド・アンジュ様ですと』

『ちょっと待ってくれ。あのロケットはアネットのお母さんのものだろ。アネットのお母さんって何者なんだ?』

『セリーヌ様はシャルル王の妹君です』

『つまりアネットはアンジュ公の姪だと言うだけじゃなくて』

『国王陛下の姪でもあられます』

 あらら、ランベルト様頭抱えちゃった。

『ランベルト様は私と帝国語で話をしたので、アネット様に伝わってないと思っておられました。それで私にアネット様には黙ってるように言われたのです。ところが私がお教えしてたのでアネット様は帝国語を理解出来きたのです。ご自分が何者であるか分かられたアネット様は”もうここには居られない”と言われて離宮から逃亡されました』

『その後アウクスブルクでカール・ヤンセンが一度接触したけど、また逃亡されたんだ。アネットはアウクスブルクで宝石を売ってその代金がケルンの両替商宛ての為替手形だったからケルンに向かってる事は分かった。アネットは為替手形でその両替商から不動産を買ってるから、逃亡してなければまだそこにいるはずだ』
 
『それでアネット様のお世話と言われますが、具体的に私は何をすればいいのでしょう?』

『アネット様は傭兵の養父に拾われて育てられたそうですが、養母からは何も教わっていないそうです。多分家事は全くお出来にならないかと』

『ではアネット様の所で女中として働けば良いという事ですか?』

『どうやって入り込むかが問題だけどな。カール、何かいい手はないか?』

『アネット様に不動産を売った両替商の話だと、アネット様のお部屋の事で苦情が管理人の所に来てるそうです。両替商を通して管理人にアネット様に女中を雇うよう進言するよう言って貰います。ナタリーさんは管理人の親戚と言う事にしましょ』
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