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可能性

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 「ええええええぇぇぇ!?」

 『そんなに驚くなよ恥ずかしい!』

 「酔いも覚めたわ畜生! 今日はいい夢見れそうだったのに!
  どうしてくれるんだ!」

 ムカッ

 『どうもできねぇよ。
  だがこのタクシーに乗った時点でお前も俺のお客だ。
  目的地には絶対送り届けるから安心しな。』

 「いや…まさか……お前ぇぇぇ!!」

 タクシーは空を飛び、時空を越える。
 宇宙に出て宇宙の果てを目指す。
 
 『ホゲェェェェェ!!潰れる!潰れるゥゥ!!』

 どうやら高速の移動で重力がかかりすぎて潰れる寸前らしい。
 あ、そういやこいつ酒飲んでんじゃん!

 「吐くなら外にしろよー!」

 『そっちの心配じゃなくて俺の体の心配しろよォ!? ウッ!? オrrrrrrrrrrrr!!』

 うわーお手本みたいな吐き方。
 じゃなくて。
 運転に集中しないと。
 
 「うぇっぷ……す、すまんかった! も、もう一生酒飲んでタクシーとか乗らないから許してくれ! な? このとおり!
  地球に戻してくれ! なあ! 聞いてんのか! 【タクシーの神様】!」

 プッチン

 『誰が! タクシーの! 神様じゃーーい!!』

 アクセルを思いっきり踏む。
 ま、車で行く必要もないんだけどね。
 神の力で行けば一瞬だし。
 だけど断罪のため、致し方なし。
 気絶してるけど知ったこっちゃない。
 


 それから30分ぐらいたった。
 そろそろいいかな。
 ブレーキを踏む。

 人間ってなさけないな。
 弱いなりに知恵を絞って生きてきたんだろうけど今の日本の人間は傀儡だ。
 知恵を捨て、ただ社会に従い、自分の頭で考えもせず現実逃避を続けてるだけだ。
 今までの人類史が泣くぞ!
 この男も酒を飲んで現実逃避してたんだろう。
 
 今まで神は人間の可能性を信じてきた。
 だから神は人間に手出ししなかった。
 だけどこの腐敗具合は……いや、でも、それでこそ人間なのかもしれないな。
 腐敗もするし、失敗もするけど、それも可能性があるからこそなのかもしれない。
 そして、失敗をした人間がとる行動は……この男みたいになさけなく現実逃避をするか、この失敗をバネにして成功するかぐらいなもんだろう。

 失敗は成功の母とはよく言ったものだね。

 可能性……俺たち神は不変の存在だから可能性というものはないが、人間にはある。
 それに神は注視してるのか!
 神様、わかりましたよ。
 人間の可能性が。
 人間の素晴らしさが。
 なさけないけど素晴らしい、人間の実態が!
 
 そうと決まればこの男にも可能性をつくってやるのが神としてのつとめ。
 体を揺らす。
 ピクッと動いて男が起きた。
 よし。
 これを伝えたらこいつは地球に戻して、俺は天に帰るか。
 
 「うん……? 俺は……」

 『人間。
  お前は俺に、人間の可能性を見せてみろ。
  神の啓示だ。
  生き足掻き、奮闘し、可能性を見せてみよ。』

 「は、はぁ……」

 よし、じゃあ記憶はそのままに、俺のタクシーに乗る前まで巻き戻して。

 天から見せてもらうぞ。
 人間の可能性を。

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 

  
  
 
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