転生者の日常

たかやま。

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僕と邂逅

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 朝日がさす部屋で僕は目覚めた。重たい瞼をどうにか開けていつものように目覚まし時計を探すが見当たらない。

彼はしばらく辺りを見渡していたが、諦めたように目を瞑り、先ほどまで横たわっていたベッドに再び倒れ込んだ。典型的な二度寝であった。


「ストーップ!!!なにもう一回寝ようとしてんの!そもそも私、あんたが来てから10時間も待ってんの!!寝すぎだっつうの!」


 僕の耳に飛び込んできたのは聞き覚えのない声。とうとう春がきたといったところだろうか。なんだか怒り口調な気がしないでもないが、そこには目を瞑ろう。僕の得意分野だ。

 声の主の方に目をやると、そこにいたのは可愛い女の子。金髪セミロングで白いフリルワンピースを纏った姿はさながら天使のようだ。春を通り越して夏が来た可能性まである。お祭り男でも呼んでしまおうか。
しかしやはり怒り顔のようなのは気になるところだ。一応謝罪しておくべきだろうか。謝罪は日本の文化だし。


「あの、たくさん寝ちゃってすみま……」

「うるさい!時間押してんだから!ペラペラの謝罪文並べてる暇あったらさっさと前職を、ほらこの紙に書きなさい!」

「前職……?ああ、ここはハローワークなんですね。僕は今のところ仕事に困っているわけではないので、大丈夫です」

「私はここに漫才しに来てるんじゃないの!仕事中なの!わかったらそんなくだらないボケするのやめて!早くこの書類を埋めなさい!」

「いや!そもそも僕はなんでここに?」








ん?時間止まった?
もしかして僕、朝起きたら能力目覚めちゃった?もし今僕が超能力かなんかで時止めてるんじゃなければ、存在してはいけないレベルの長さの間ができてるけど。

「は?」

無限とも思われた静寂を破ったのは天使ちゃん(仮称)だった。どうやら僕は能力者ではなかったらしい。残念。
彼女がゴミを見るような目で僕を見ているが、それはあり得ない長さの静寂に終焉を告げてくれたことを考えれば些細な問題だ。

「あんた、昨日のこと、本当に覚えてないわけ?」

呆れ顔の天使ちゃん(仮称)はそう呟いた。

昨日のこと……?なにかあったっけ?
僕は記憶を呼び戻そうと脳の海馬のドアを叩いてみる。


『すみません、海馬さん。昨日って僕、何してましたっけ?』

『………』


反応なし。留守のようだ。


「うーん、ごめんなさい。覚えてないです」

「覚えてないんかい!」


漫画みたいに天使ちゃん(仮称)はずっこけた。美しい容姿の女の子がオーバーリアクションをするのは可愛らしい。ギャップ萌えってやつだ。

「もういいわ。あんたが嘘つく理由なんてないしほんとに忘れてるみたいだから。じゃあ次行くわね。」

「いやいやそんな気になる言い方しなくても」


昨日僕に何があったっていうんだ。全く覚えてない。

………というか、よく考えたら覚えてないのは昨日のことだけじゃない。


 そもそも、僕は誰だ?
自分に関する一切が思い出せない。あ、いや名前だけは覚えてるな。進藤歩夢。それが、僕の名前。
でもそれ以外は何も思い出せない。家族構成とか。学生時代の思い出とか。何一つ。


「とにかく!あんたはこれから今まで過ごしてたのとは違う世界で新たな人生を生きることになるわ。簡単に言えば第二の人生を歩むってことね。まあそんな難しく考えなくても、普通に生きてくれればそれで大丈夫だから」

「いやなんかスムーズに話進んでるけどまだ聞きたいことが山ほど………!」

「いずれ分かるわ。とりあえずあんたは好きなように生きなさい」

「そんなバカな……」

「つべこべ言わず、いってらっしゃい!」


ため息をつきながら手を振る天使ちゃん(仮称)。ようやく肩の荷が降りたといった表情だ。というかよく口を見たらぱくぱくさせている。うーんと……?

『つ』
『か』
『れ』
『た』

いやいや僕をお荷物扱いしてんじゃないよ!僕だって来たくて来たわけじゃないのに!



 ………僕の記憶はここで終わっていた。
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