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ある魔法使いの物語
しおりを挟む「ねぇ、今日もとっっても面倒くさがりな魔法使いと掃除好きな少女のお話をしてよ。」
小さな子供が甘えたような声色で父親に物語をねだる。
キラキラした緑色の瞳に抗うことはできなかった父親は観念して部屋の灯りを僅かにつけた。
「いいよ、私の愛しいメディーはこのお話がすごく好きだな。でもこのお話を聞いたらすぐに寝るとパパと約束してくれよ。ママは夜更かしに厳しいからな。」
「はーい。」
昔々、魔法使いが深く茂った森に1人住んでいた。
その魔法使いは孤独を愛し、魔法以外に興味を示さなかった。
そのため、日夜魔法を研究することに没頭していた。
魔法使いにとって富や名誉、地位などは興味も価値もない。
魔法使いの膨大な力を利用したい国王はなんとか魔法使いの力を自分のものにしたいと狙っていた。
いかにして魔法使いを服従させるか国王は日夜頭を悩ませていた。
しかし、遣いを出したその日の夜あっさりとその問題は解決されることになる。
争いや面倒ごとが嫌いな魔法使いは二つ返事で国王が派遣した部下の要請を承諾し、国王と契約したのだ。
国王は偉大な力をもつ魔法使いが二つ返事で快く承諾したことに疑惑を抱いた。何度か探りを入れたがどれもあっけない結果におわった。
魔法使いが契約した理由は一つだけ。それはただ面倒だったからだ。
魔法は研究に没頭できれば同盟を結ぶなり協力関係という名の服従関係になったとしても別に良かった。
自分のテリトリーに入り研究の邪魔をされることだけはないと判断したのだ。
浮世離れしたこの魔法使いは富や地位、名誉には興味がない。
国王の誤算は魔法使いが戦争にも全く興味がないということだ。
そのため国王が思い描いた様に戦争に役に立つ武器の開発には魔法使いは協力しなかった。
魔法使いが使う魔法は強力だったので国王はなんとか利用してやろうと考えていたが、それと同時に恐れを感じていた。
だが魔力の強さから国王は手出しできず、次第に魔法使いの存在は忘れ去られていた。
魔法使いは契約をしたとは言え、その圧倒的な魔力と影の薄さにより自由の身だった。
それから500年ほどがたった。
ある日、誰も入ろうとしない魔法使いが住んでいる森に1人の少女が迷い込んだ。
魔法使いは気まぐれに少女を助け、帰り道を示しさっさと帰るように言ったが少女が家に帰りたくないとか足が疲れたとかうるさく騒ぎ立てたため一晩だけ家に泊めることにした。
少女はいたくびっくりした。
森にいる怪しい男が伝説の中の存在だと思っていた魔法を使う姿を見たからではない。
魔法使いの家がとてつもなく汚かったからだ。
研究に没頭する魔法使いは掃除や洗濯などはしない。
掃除しなくてもどうせすぐに汚れるし、ものであることには変わらないのだから使えるという謎の理論を推奨していたからだ。
それに1番の理由は魔法使いには魔法を日常に使わないという謎のプライドがあった。
少女は尋ねた。
「貴方、あの魔法使いなのよね?言い伝え通りなら最強の魔法使いらしいけどその魔法で掃除できないの?」
「は?阿呆め。そんな面倒なことするわけなかろう。それに魔法で掃除など魔法使いのポリシーに反する。あと掃除などしなくても不便ではない。実際ここ何百年かは掃除してないしな。小娘はそこらへんでさっさと寝ろ。そして明日の朝すぐに出て行くんだ。今から私には研究が待ってる。」
魔法使いは気怠げにそう答えると静かに研究室らしき部屋に戻っていき、机に向かって何か書き込んでは計算していた。
机の周りには山積みになってる紙が部屋中に束ねられており一歩間違えたら雪崩を起こすギリギリのバランスを保っていた。
棚には怪しげな薬品が何個も置いてあり、瓶のラベルに古代文字のようなものと数字が書かれていた。
少女はそれ以上何も聞かずにおとなしく唯一比較的汚さがマシな椅子にじっと座っていたが、次第に目の前の光景に耐えきれなくなった。
「ありえない、こんな汚いなんて一体どれくらい掃除をしていなかったらこうなるわけ!?いくら魔法使いでも健康を害するレベルよ」
ものの数秒後少女はとてつもない勢いで掃除を始めた。
太陽が沈みきり、研究に没頭していたせいで少女のことなどすっかり忘れていた魔法使いが研究室から出てくると部屋は見違えるほど綺麗になっており少女は寝息を立てて寝ていた。
魔法使いはようやく一連のことを思い出し、比較的家の中で1番綺麗な毛布をかけて寝かせてやった。
それからというもの、少女は時々魔法使いの家へとやってきて掃除や洗濯をしたり、料理を作ってあげるようになった。
少女が女性になるほどの十分すぎる月日が経った。
相変わらず彼女は魔法使いの家へと向かい、世話を焼く。
「ねぇ、貴方はなんでそんなに大層な魔法を研究しているのに掃除や洗濯はできないのかしら。」
「掃除なんてしなくても生きていける。現に私はこうして生活してるだろ。君もこんな廃れた家に来ないでさっさと自分の家へ帰ったらどうなんだ。」
バッサリと魔法使いに返事をされても、彼女は魔法使いが彼女が危険な森を通り抜けられるよう保護魔法をかけた道に光を灯してくれたり、彼女が不便だと不満をこぼしたオーブンを謎のポリシーを破り、使いやすい様に改良したり、彼女の作ったシチューを残すことなくペロリと食べてくれることを知ってるので静かに微笑んだ。
そうしているうちに彼女は自分の家で過ごすよりも魔法使いの家で過ごす時間の方が多くなっていた。
魔法使いにとっても彼女と過ごす日々がかけがえのない物となった。
魔法使いの寿命は普通の人間よりも長く、時がゆっくり過ぎ去る。
だが普通の人間の時間経過も慈しむように魔法使いは彼女との時間を過ごした。
春がきたら普段部屋から一切外に出ない魔法使いは彼女に連れ出され野いちごを摘み、夏がきたら彼女に魔法をかけて湖の上を歩けるようにして湖の中心部にしか咲かない珍しい花を共に眺めた。
秋がきたらほっそりとした手に棘がつかないように魔法で棘をとった栗を拾ってそれでパイを作り、冬が来たら暖かい暖炉の側で一緒に窓から雪を眺めた。
長い年月をかけて自然と2人は家族になっていた。
「この部屋、他の部屋よりもなんだか殺風景じゃない?いっそのこと壁紙をパッと明るいものに変えましょうよ。」
「めんどくさい。壁紙なんてどれも同じだろ。」
その話をした翌日、壁紙は派手な色とりどりの花が描かれている柄に変わっていた。
「貴方って本当に私のこと好きよね。」
「……。資料をみてくる。」
ふふふ、素直じゃないんだからと彼女が笑うと真っ赤な耳をした魔法使いは罰が悪そうに研究室へと向かった。
しかし穏やかな日々は長くは続かなかった。
戦争が始まったのだ。
戦況が思わしくなかった現国王は昔々に現国王の祖先の国王が書かせた契約書を偶然見つけたことにより魔法使いを戦争に利用させようと企みを企てた。
大昔に契約した国王の時代は魔法使いの魔力に敵うものはなかったが、今の国王は密かに魔法使いを従わせられることに特化した魔道具の完成を進めた。
そして彼女以外は踏み入れなかった魔法使いの森へ大量の兵と魔道具を扱う魔術師を派遣して押し掛けた。
魔法使いは危険を察知し森全体に結界を張った。
するとすぐに洗濯を干そうとしていた彼女を急いで担ぎ、家の中へ向かう。
「ちょ、何するのよ。今干さないと乾かないわよ!?午後は雷雨だって貴方言ったじゃない!」
「落ち着いてよく聞くんだ。もうすぐこの国の腐りきった野望をもつ国王からの兵と魔術師がくる。結界を張ったが長くは持たないだろう。だが安心しろ。必ず君には指一本触れさせない。」
まだ完成していない魔法だが。いや、必ず成功させる。と魔法使いはぶつぶつ言いながら魔法式を必死で床に描き続ける。
魔法使いに話しかけようとしたが一旦魔法使いが集中すると周りの声が聞こえなくなることを知っている彼女は黙って魔法使いがこちらを見るまで待つことにした。
魔法使いがなにやら魔法式を描き終えると急いで小さなスノードームを持っていき、彼女にそれを持って魔法陣の真ん中に立つように言った。
その時ドーンと森の入り口から大きな音がした。結界が解けたのだ。
「もう時間がない。必ずまた戻ってくると約束する。だから、待っていてくれ。」
そう絞り出した魔法使いは彼女を優しく抱きしめ、ローブを着せると呪文を唱え始めた。
その途端彼女は目が回っていく様な不思議な感覚を感じ、思わず目を閉じた。
次に目を開けるといつも通りの家の中にいた。
暖かな暖炉の近くのソファに腰掛けていたようだ。
すぐに魔法使いを探した。家中隈なくみたが見つからない。
彼女は必死になって外に出てみた。外は一面雪が降っている。
「おかしいわ。さっきまで雪なんて降ってなかったし、物干し竿だってそのままにしていたのに。それに季節は春だったはずよ。」
彼女が空を見上げてみるといつも見ている家の天井が見えた。
いつも見慣れているはずの時計が見えたのだ。
彼女は驚いた。じっくりと考えようとパチンと頬を叩き、しばしの間考えを整理した。
考えを整理した結果一つの結論にたどり着いた。魔法使いは彼女をスノードームに閉じ込めたのだ。
外の様子を見てみようと目を凝らしてみるが辛うじていつも見慣れている大きな時計があること一緒に作った温かなオレンジ色のソファがあることぐらいしかわからない。
雪が邪魔して細かいところは見えなかった。
雪は本物の雪とそっくりだったが、彼女の体はいつまで経っても冷えなかった。むしろ彼女を気遣う様にそっと体を包み込んでいるようだった。
スノードームの中にある家は本物の家と見違えるほどそっくりで、暖炉もソファーも本棚の配置も全て同じだった。庭の土を耕そうとさしたスコップも同じ位置にあった。すべて本物同様だったがそんなことは彼女にとって特別ではなかった。唯一魔法使いだけがどこを探してもいなかったのだ。
魔法使いがあのあとどうなったのかまったくわからなかった。
彼女はひたすら待った。
魔法使いが約束したことを信じて。
幾時の春がきただろう。幾時の時がたったのだろうか。
もう彼女には季節が4つ存在し、それが繰り返して1年が成り立つことを忘れてしまっていた。
なぜなら彼女のいる場所の季節はいつも暖かな冬だったのだから。
季節の感覚を覚えているにはあまりの時間が経ちすぎた。
自分が誰なのか、ここは何処なのか、そして誰をこんなにも待っているのか、何一つ分からなかった。
ただ自分が誰かに会いたいと強く願っていることだけはわかっていた。
ずっと待ち続け焦がれ続けているのは何なのか知りたいその一心で彼女は待ち続けた。
*********************
「今戻った。」
ふと優しくてぶっきらぼうな声が聞こえた。
「彼だ」彼女はなぜかそう思うと涙が次から次へと止めどなく流れ続けていた。
なにか呪文が聞こえたかと思うとすぐに視界がぐらぐらゆれ懐かしい感覚が彼女に駆け巡る。
目をゆっくり開けると目の前に魔法使いが佇んでいた。
魔法使いを見た途端、全ての記憶が彼女の頭の中を駆け巡る。
声の出し方すら忘れてしまった彼女はひたすら涙を流し続けた。
「な、んで、こんな、に、遅くな、た、やく、そく」
辿々しく喋る彼女を魔法使いは強く抱きしめる。
「すまない。本当にすまない。迎えに来るのが遅くなってしまった。」
魔法使いは彼女の喉に優しく触れると彼女の喉に感じていた詰まっていた様な感覚を取り除きうまく話せるようにしてやった。
「酷いわ、酷い。私、貴方のこと、ずっと、ずっと待っていたのよ。貴方があの後どうなったのか不安でしょうがなかったし、貴方があのまま……」
彼女は魔法使いの胸をドンドンと叩きながら泣き崩れる。
魔法使いはすまない、の一言を口にしながらひたすら彼女が泣き止むまで抱きしめた。
「あれから貴方に一体何が起こったの?全部教えて。」
「君に転移魔法をかけた後、あれから兵士に捕まった。自慢じゃないが私は戦闘魔法の方はからっきしだからな。だが君のことを隠せたから満足だ。それからのことは…。すまない、上手く話せない…。」
魔法使いはそういうと震える手で自らの腕を強くにぎりながら涙を流していた。
彼女は魔法使いの傷だらけの手をみた。
よく見ると魔法使いは全身ボロボロだった。
手は傷跡だらけであり、おそらく全身もそうだろう。
一緒に過ごすうちに柔らかくなっていた瞳は出会った頃よりも厳しさと憂いをたたえ、とても疲れた顔をしていた。
魔法使いと彼女はとりあえずご飯を食べて眠ることにした。
久しぶりに食べるシチューを食べた後、彼女と魔法使いは眠りについた。
夜中、彼女は魔法使いの苦しそうな声で目が覚めた。
魔法使いは想像を絶する苦しみを味わったに違いなかった。
魔法使いの体中には火傷や切傷、痣や爛れた箇所があり、あらゆる傷がついていた。
魔法使いのぶっきらぼうだが心優しい性格を知っている彼女には魔法使いが戦争でどの様なことをしなければならなくどんな目にあってそれによってどれほど魔法使いが心を痛めたのかをよく理解できた。
「もうやめてくれ」と強く懇願する魔法使いを「大丈夫。私がいるわ」と彼女は優しく声をかけ震える魔法使いを抱きしめながら眠った。
それから魔法使いは少しずつ彼に起きたことをぽつりぽつり話した。
戦争で沢山人を殺したこと。
何度も殺されたこと。
またその度に何度も生き返ったこと。
狂いそうになりながらも生きることを諦めなかったこと。
人々の苦しみ声がずっと耳に残っていること。
国王との契約を白紙に戻し、魔法使いの存在そのものを全ての人の記憶から消したこと。
魔法使いは精霊に愛されているため寿命が長く、滅多なことでは死なない。そのため殺されたとしても生き返るのだ。
魔法使いが寿命以外で死ぬには心を殺すしかない。
そこに目をつけた強欲な国王は膨大な魔力を持った魔法使いを兵器として利用し次々と周りの国に戦争を仕掛け、何十年、何百年にもわたって魔法使いを利用し続けた。
戦争が一時終わっても人々は争うことをやめなかった。
国王が死に、また新しい国王になり、繰り返してまた新たな国王が誕生した。
そのたびに国内外で戦争を起こし、魔法使いは戦いに駆り出された。
彼女だけを心の支えにしていた魔法使いは一度自ら命を絶とうとした。
その時、時期外れの雪が降り、雪の世界に閉じ込めた彼女のことを思い出してなんとか思いとどまったという。
彼女は魔法使いがこうして隣で生きていることに感謝した。
「貴方が生きてくれてありがとう。私の元へ帰ってきてくれてありがとう。あの時の約束を守ってくれてありがとう。」
魔法使いの震える肩を彼女はただ抱きしめた。
魔法使いの深い悲しみはすぐには癒えないが時間をかけて溶かしていこうと彼女は誓った。
それからというもの、彼女と魔法使いはまた平穏な生活を送っていた。
春がきたら野いちごを摘み、夏がきたら湖の上を歩き、湖の中心部にしか咲かない珍しい花を共に眺めた。秋がきたら栗を拾ってパイを一緒に作って食べ、冬が来たら暖かい暖炉の側で共に窓から雪を眺めた。
そしてある春の日、彼女と魔法使いの間には新たな命が誕生した。
そこからは魔法使いにとって人生でもっとも忙しいく、温かで幸せな日々だった。
何百年孤独だった魔法使いに愛すべき妻だけでなく守るべき家族ができたのだから。
それでも時間というのは平等に進んでいくものである。
魔法使いは時間が進んでいくことに悲しみよりも喜びの方が大きかった。
月日は経ち、子供たちは育ってそれぞれ旅立っていった。
魔法使いと彼女は仲睦まじく暮らしていた。
ある穏やかな春の日、とうとう彼女に死神からのお迎えがきた。
彼女は魔法使いに初めてあった頃と全く変わらないキラキラした瞳で初めて会った時と変わらない姿のままである魔法使いに向けて静かに言った。
「そろそろみたい。」
「嫌だ。君のいない人生なんてもう考えられない。」
「大丈夫。姿が見えなくても貴方の近くにいる。それに貴方は何百年も私1人だけ安全なスノードームに閉じ込めていたのだから少しは寂しい思いをすればいいわ。」
「……。」
「ごめんなさい。意地悪を言ってしまったわね。」
「いや、いいんだ。」
「私がいなくなってもちゃんと掃除して部屋の整理整頓をするのよ。シーツも毎日替えて、お皿も使ったらすぐ洗うのよ。貴方は面倒くさがりだから、きちんと生活しないとすぐに部屋が埃だらけになってしまうわ。朝はしっかり起きて庭の畑や花に水をやってね。そして、自分の命が尽きるまでしっかり生きて子供や孫たちのことを見守ってちょうだい。」
「わかってる。君との約束は必ず守るよ。」
「まったく、貴方ってば相変わらず惚れ惚れするほどのかっこよさね。初めて会った時と全く変わらないわ。それなのに、私なんて手の先までしわしわのお婆さんになってしまって。」
「君だって初めて会った時から変わらないさ。その生き生きとした新緑の瞳も、優しげな声色も初めて会った日がついさっきのようだ。それに……………君がどんな姿であろうとも私にとって他の誰よりも美しいことは永遠に変わらない。」
「ふふ、初めて会った頃よりもうんと素直になったわね。わかってる。……貴方って本当に私のこと好きよね。」
彼女が幸せそうに言ったその言葉を最後に2度と目を覚ますことはなかった。
それから魔法使いの日課には毎朝彼女が好きだった花を両手いっぱい持っていきお墓に話しかけることが加わった。
彼女の遺言通り自身の子孫を見守り続けて魔法使いの孫そのまた孫の孫の代まで数百年見守り続けた。
魔法使いは最期に、彼女への燃え尽きることのない永遠の愛の炎と子孫が幸せな日々を過ごせるよう加護の魔法を全ての魔力を注いでペンダントに封じ込め子孫に託し、その長い長い生を終えたとのことだ。
話によると、ペンダントにはキラキラとした光の粒子のようなものが入っており、夏には溶けない氷のようにひんやり冷たく、冬には消えない炎のようにじんわりと温かく、つけていると心地良い気持ちに包まれるらしい。
永遠の愛の証と子孫の幸せを願った"愛と幸福象徴"であるそのペンダントは幻の存在とされており、その所在はもちろん、それ自体が実在するものであるかは明らかにされていない。
ただ一つ確かなことは魔法使いの彼女に対する愛の炎は今もなお永遠に消えることはないということである。
「…おしまい。あれ?もう寝てしまったか。」
すうすうと規則正しい寝息を立てる愛しい我が子におやすみのキスを落とした父親は子供の首元にあった暗闇の中でも優しく光る暖かなペンダントを外し、そばにあるタンスに仕舞い込む。
そして、子供が風邪をひかないようにそっと布団をかけた。
目がチカチカするほどのカラフルな花柄の壁紙に視線をやると最後にもう一度子供の幸せそうな寝顔を満足げに見た。
この子が明日も幸せな日々を過ごせますように。
そんな願いを込めて父親は部屋の灯りを消した。
空には優しい光を放つ月が輝いていた。
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