もっと愛してくれているかと思っていた

サドラ

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もっと愛してくれているかと思っていた

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私には、恋愛の失敗がまだない。彼氏とも順調だし、親もベタベタだ。でも、もし私が、今の彼と別れて、別の人と付き合ったらどうなるんだろう? と、ふと思った。結婚して子供ができても、私は夫や両親を変わらずに愛せるのかな……? 考えてみると、私の両親は、私を愛してくれていると思うし、私も二人をとても好きだけれど、二人同士は果たして異性としてまだ意識しているのだろうか。夫婦だから当然、同じ屋根の下に暮らしているわけで、それはそれで家族としてはうまくいっているけど、そこに恋とか、ときめきといった感情はないような気がする。
彼氏とは異性同士の関係ではあるが、深い愛なんていう感じではない気もする。愛より恋に近い。しかし、その恋が実って結婚したとしたら、もうそこには恋という気持ちはなく、ただの「同居」になってしまうのではないか……。
そんなことを考えていたら、なんだか怖くなってしまった。そして、自分がこの先誰かと結婚して、その先に何があるんだろう。全く分からないな。
まだそれでいいんだろう。だから、今日は彼とイチャイチャラブラブしてみたいな。『君と一緒にいたい』
昨日、彼が言った言葉を思い出してみる。あれは、どういう意味だったんだろうか。いつも一緒にいるから、「毎日会わないと寂しいね」ということなのか、それとも「一生離れたくない」という意味なんだろうか。どちらにせよ、私は彼に愛されているのだ。それが分かっただけで十分だ。今度、二人で旅行に行ってみようかな。きっと楽しいに違いない。そういえば、彼はどこか行きたいところはあるのかな?
『君と一緒にいたい』
この言葉の意味を知りたくなって、早速彼の部屋を訪ねてみた。すると、ちょうど彼が出掛けるところで、玄関まで送っていった。
「あ、あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「うん?」
「昨日のことだけど……」
「ああ、『君と一緒にいたい』ってこと?」
彼は照れくさそうな顔で答えた。やっぱり、そういう意味で言ってくれたのか。
「そうだよ。どうしてあんなこと言ったの?」
「だって、本当にそう思ったから。それだけじゃダメなの?」
「うーん、別にいいけど」
「何か問題でもあるの?」
「いや、別にないよ。嬉しいだけだもん」
「なら良かった。じゃ、行ってきます!」
「はい! お気をつけて~」
彼は笑顔を見せて出て行った。
彼って愛がない人だ。昨日の夕方頃、突然電話があった。
「もしもし。俺だよ。元気にしてるかい?」
その声の主は彼ではなく、彼の父親だった。私は驚きながら受話器を取った。
「はい。元気です。お父さんこそ大丈夫ですか?」「ああ、まあまあってとこだな」
「そうですか」
しばらく沈黙が続いた後、父が言った。
「おまえさんは、あいつと結婚するつもりなのか?」
いきなり直球を投げられた。もちろんイエスだ。しかし、その返事をする前に、父はこう続けた。
「実はな、俺は反対なんだ」「えっ!?」
意外な一言に驚いた。なぜ? 一体どこが気に入らないというのだろう。
「あいつには君への愛が、まだ何か足りない気がするんだ。このままの結婚は君に悪い。」「そんなことはありません。私達はお互い愛し合っています。」
私は強い口調で反論した。だが、父の言葉は変わらなかった。
「確かに、君達の関係はうまくいってるかもしれない。でもな、もしあいつが浮気なんかしたらどうなると思う?」
彼からの愛ーまだよくわからない。
「どういうことですか?」「例えばの話だが、君以外の女を好きになって、そいつと結婚すると言い出したら、君は許すのか?」
「まさか……そんなことはないと思います」
自信はなかったが、否定しておいた。
「そうか。ちょっと言いづらいな…でも、仕方ないか。はっきり言おう。その時、君は耐えられるか?」
正直、耐えられないと思った。彼が他の女性を愛するなんて考えられない。しかし、だからといって、彼の幸せを奪う権利はないはずだ。
「分かりません。でも、それは私が決めることではないので……」
「そんなことはないよ!恋人ってそのくらいのマウント取っても全然問題ないと思うぞ。」
「そうでしょうか……」
「そうだとも。」
「はい……あの、結局なにが言いたいんですか?」
「あいつ、浮気しているらしいんだ。」
「えっ!?」
衝撃的な発言だった。
「信じられないでしょう。俺も信じたくない。だから、君に確かめて欲しいんだ。」
「それは……嫌ですよ。そんなこと言われたらショックだし。それに、そんな証拠もないんでしょう?」
「ある。君のお母さんが見たんだ。昨日の夜、二人が抱き合っているところをな……」
「嘘です!ありえない。」
私は叫んだ。しかし、父は冷静に言った。
「本当なんだよ。君達のマンションの前で二人はキスをしていた。」
「……」
何も言葉が出なかった。
「それで、どうなんだ。別れるつもりなのか?」
「……」
「黙っているということは、そういうことだと思っていいんだな。」
「い、いや…別れたくないです…けど…」
「そうか。分かった。じゃあ、後は君が決めてくれ。」
「はい。」
「よし。じゃあ、切るよ。」
「もっと…」
「え?」
「もっと…愛してくれているかと思ってたな…」
電話は切れた。私はよくわからない感情を押し殺せずにいた。
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