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第一話 私は飼い猫になったのだが
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『吾輩は猫である』と大先輩は言ったそうだ。しかし、私にはどうもそんなことを言っている余裕はない。
最近何故か和服を着たおっさんに買い取られた。落語家という人間の職業らしい。私は猫だから働かなくていいのだが、これがどうにも奇妙な仕事なのだ。
「おい猫、明日の朝6時に俺を起こしてくれよな。寄席があるんだから。」
なんと朝このおっさんを起こせという仕事を仰せつかってしまったのだ。この家には目覚まし時計くんがいるというのに。まあ仕方がない、明日はこの私が早起きしてやろうではないか。
次の日、予定通り私は6時前に起床した。襖を開けるとまだおっさんは寝ているようだ。布団が盛り上がっている。私はその布団の上に飛び乗った。
「にゃ~~お」そして思いっきり爪を立てた。
「痛え!」
おっさんは勢いよく起き上がった。
「なんだお前か……今何時だ?」
「にゃご(5時半)」
「早いじゃねえか!もっと遅くしろよ!」
そういっておっさんはまた寝込んだ。なんなんだ、この人は。まあ目覚まし時計くんは随分年紀が入っているようだし、彼の長年の疲れを汲んでやろう。私は6時ぴったりにおっさんを起こすことにした。6時きっかり。
「にゃあああおおおん」
「うるさいっ!!」
私は怒鳴られた。ひどいじゃないか。
「やべ、6時だ!顔洗わねえと。」
おっさんは一人暮らしのようだ。まあ私が来たから一人一匹暮らしか。顔を洗い、髭を剃り、着物を着て出ていった。
それから1時間後、私は部屋の隅で丸くなっていた。今日は朝飯を食べるつもりもないのか?全く困ったものだ。
1時間半後、帰ってきた。
「ああ忙しい」
私は昼飯をねだりにゴロゴロ言わせて近づいた。
「ああ、あったあった。これがねえと喋れないんだよ。全く。俺としたことが。」
「ニャー」
「何だお前。仕事には連れてかねえからな。」
そんなことはどうだっていいのだ、早く朝飯を!私に朝飯を!扇子なんか取っている場合じゃないだろう!
「じゃあ行ってくる。」おっさんは出かけてしまった。仕方ない、私は留守番でもするか。テレビをつけてみた。すると、『落語家』なる人間がいかに素晴らしい職業であるかについて語っていた。
「落語とは噺家の語る物語であります。それは我々の生活そのものでもあり、また我々が生きている世界そのものが『噺家の世界』なのであります。」
ほう、なかなか興味深い。少し聞いてみようか。私はテレビの前の座布団に飛び乗り、丸まった。「さて、次は古典落語でございます。これは江戸中期に作られたもので……」
んー眠くなってきたぞ……。ふぁ~あ……うかうか眠ってしまったようだ。どれくらい経っただろうか。
「ただいま~」……あれ、もう帰って来たのかな?まあいいか。私はまた眠りについた。次に目が覚めたのは夕方だった。まずい、何も食べていない。腹が減ってきた。しかしおっさんの姿はなかった。どこへ行ったのだろう。
「客の反応わりいなぁ」
玄関の方から声が聞こえた。帰ってきたようだ。
「おう猫、帰ったぜ。」
「ニャオ」
「何だよ元気ねえな。ほらこれやるよ。」
差し出されたのはカリカリと呼ばれるものだった。これはありがたい!早速食べた。うまかった。久しぶりに満腹になった気がする。「美味しかったか?」
「にゃあん」
「そりゃよかった。また買ってきてやろうか?」
「ニャン」
今日はきっと気分がいいのだろう。私に飼い主面を見せてくれた。
こうして私はおっさんの家で飼われることになった。まあ悪くないな。毎日ご飯ももらえるし。気分次第で。
「おい、明日は7時に起こせ。」
なんだと、時間が変わるのか。面倒な男だ。まあいい、明日もこの私が早起きしてやろうではないか。
朝6時前、襖を開けると既におっさんは起きていた。
「おい、早く起こせよ。」
何を言うかこの男は。まだ6時ではないか。昨日は7時に起こせと言ったくせに。全く、昨日のテレビでやっていた落語家というものの端くれにしては随分と品がない男だ。
「にゃお」
まずは朝飯を今度こそねだらなければ。「ああ、そうだな。ちょっと待ってろ。」
そう言って台所に行ったと思うと、戻ってきた。手に持っていたものはキャットフードであった。
「はい、どうぞ。」
「にゃ?」
「食わないのか?じゃあ俺一人で食べるよ?」
人に食えるもののわけないであろう!おっさんよ、キャットフード知らないのか?「まあ食いたくないなら別にいらないけど。」
「にゃあ……にゃごにゃご(ではいただこう)」
おっさんは私の目の前でキャットフードを食べ始めた。私はそれを見ながら朝飯を平らげた。うまい。
「ごちそうさま。じゃあ俺は行くからな。」
「にゃあ」
おっさんは仕事に出かけて行った。着物姿で。私はまたテレビを見ることにした。今度は時代劇というものだ。
「お主、この顔に覚えはないか」
おお、随分派手な服を着ているじゃないか。それにしてもこの番組は何の番組なのだ?現代の話ではないのか?
「拙者武蔵の国の武士、名乗るほどの者ではない。」
おっさんと似た柄の着物姿だが、腰に刀を携えている。ほう、これが武士なるものか。「こいつです!」
「やはりな、貴様のような下郎に思い当たる節があったわ。覚悟せい」
それからしばらく戦いが続いた。
「これで終わりだー!!」
「ぐっ……」
どうやら敵を倒したようだ。素晴らしい殺陣だ。私もこのように鮮やかな立ち回りをしたいものだ。
座布団の上で二足歩行を図るが、どうにも不安定で私には習得不可能のようだ。
ボーン♪ボ~ン♪
どうやら時刻は12時。昼飯が欲しい時刻だが、おっさんは帰ってこない。カレンダーを見ると二つ寄席の予定が入っていた。なるほど、現場を掛け持ちというわけだ。おっさんは意外と売れている方の落語家なのだろうか。
「にゃ~」
しかし、呆れたものだ。飼い猫を目覚まし時計代わりに使った挙句、昼飯の用意を忘れるとは。思わずため息が出る。
私が落ち着いて紳士的な飼い猫だったから良いものの、これが元気でやんちゃな子であれば家を荒らしてキャットフードを探すか、帰ってきた途端におっさんの顔を引っ掻き回すだろう。勿論私はそんなことはしない。良識と忍耐力を兼ね備えた立派な猫にペットショップで育てられたのだ。私はまた寝転んだ。すると、外から声が聞こえた。
「師匠~!どちらですか~」……ん?この声はあのおっさんの声か?いや違う。
「あ、違ったや師匠は今日、寄席に行っているんだ。」
まさかとは思ったが、どうやらあのおっさんの弟子のようだ。
最近何故か和服を着たおっさんに買い取られた。落語家という人間の職業らしい。私は猫だから働かなくていいのだが、これがどうにも奇妙な仕事なのだ。
「おい猫、明日の朝6時に俺を起こしてくれよな。寄席があるんだから。」
なんと朝このおっさんを起こせという仕事を仰せつかってしまったのだ。この家には目覚まし時計くんがいるというのに。まあ仕方がない、明日はこの私が早起きしてやろうではないか。
次の日、予定通り私は6時前に起床した。襖を開けるとまだおっさんは寝ているようだ。布団が盛り上がっている。私はその布団の上に飛び乗った。
「にゃ~~お」そして思いっきり爪を立てた。
「痛え!」
おっさんは勢いよく起き上がった。
「なんだお前か……今何時だ?」
「にゃご(5時半)」
「早いじゃねえか!もっと遅くしろよ!」
そういっておっさんはまた寝込んだ。なんなんだ、この人は。まあ目覚まし時計くんは随分年紀が入っているようだし、彼の長年の疲れを汲んでやろう。私は6時ぴったりにおっさんを起こすことにした。6時きっかり。
「にゃあああおおおん」
「うるさいっ!!」
私は怒鳴られた。ひどいじゃないか。
「やべ、6時だ!顔洗わねえと。」
おっさんは一人暮らしのようだ。まあ私が来たから一人一匹暮らしか。顔を洗い、髭を剃り、着物を着て出ていった。
それから1時間後、私は部屋の隅で丸くなっていた。今日は朝飯を食べるつもりもないのか?全く困ったものだ。
1時間半後、帰ってきた。
「ああ忙しい」
私は昼飯をねだりにゴロゴロ言わせて近づいた。
「ああ、あったあった。これがねえと喋れないんだよ。全く。俺としたことが。」
「ニャー」
「何だお前。仕事には連れてかねえからな。」
そんなことはどうだっていいのだ、早く朝飯を!私に朝飯を!扇子なんか取っている場合じゃないだろう!
「じゃあ行ってくる。」おっさんは出かけてしまった。仕方ない、私は留守番でもするか。テレビをつけてみた。すると、『落語家』なる人間がいかに素晴らしい職業であるかについて語っていた。
「落語とは噺家の語る物語であります。それは我々の生活そのものでもあり、また我々が生きている世界そのものが『噺家の世界』なのであります。」
ほう、なかなか興味深い。少し聞いてみようか。私はテレビの前の座布団に飛び乗り、丸まった。「さて、次は古典落語でございます。これは江戸中期に作られたもので……」
んー眠くなってきたぞ……。ふぁ~あ……うかうか眠ってしまったようだ。どれくらい経っただろうか。
「ただいま~」……あれ、もう帰って来たのかな?まあいいか。私はまた眠りについた。次に目が覚めたのは夕方だった。まずい、何も食べていない。腹が減ってきた。しかしおっさんの姿はなかった。どこへ行ったのだろう。
「客の反応わりいなぁ」
玄関の方から声が聞こえた。帰ってきたようだ。
「おう猫、帰ったぜ。」
「ニャオ」
「何だよ元気ねえな。ほらこれやるよ。」
差し出されたのはカリカリと呼ばれるものだった。これはありがたい!早速食べた。うまかった。久しぶりに満腹になった気がする。「美味しかったか?」
「にゃあん」
「そりゃよかった。また買ってきてやろうか?」
「ニャン」
今日はきっと気分がいいのだろう。私に飼い主面を見せてくれた。
こうして私はおっさんの家で飼われることになった。まあ悪くないな。毎日ご飯ももらえるし。気分次第で。
「おい、明日は7時に起こせ。」
なんだと、時間が変わるのか。面倒な男だ。まあいい、明日もこの私が早起きしてやろうではないか。
朝6時前、襖を開けると既におっさんは起きていた。
「おい、早く起こせよ。」
何を言うかこの男は。まだ6時ではないか。昨日は7時に起こせと言ったくせに。全く、昨日のテレビでやっていた落語家というものの端くれにしては随分と品がない男だ。
「にゃお」
まずは朝飯を今度こそねだらなければ。「ああ、そうだな。ちょっと待ってろ。」
そう言って台所に行ったと思うと、戻ってきた。手に持っていたものはキャットフードであった。
「はい、どうぞ。」
「にゃ?」
「食わないのか?じゃあ俺一人で食べるよ?」
人に食えるもののわけないであろう!おっさんよ、キャットフード知らないのか?「まあ食いたくないなら別にいらないけど。」
「にゃあ……にゃごにゃご(ではいただこう)」
おっさんは私の目の前でキャットフードを食べ始めた。私はそれを見ながら朝飯を平らげた。うまい。
「ごちそうさま。じゃあ俺は行くからな。」
「にゃあ」
おっさんは仕事に出かけて行った。着物姿で。私はまたテレビを見ることにした。今度は時代劇というものだ。
「お主、この顔に覚えはないか」
おお、随分派手な服を着ているじゃないか。それにしてもこの番組は何の番組なのだ?現代の話ではないのか?
「拙者武蔵の国の武士、名乗るほどの者ではない。」
おっさんと似た柄の着物姿だが、腰に刀を携えている。ほう、これが武士なるものか。「こいつです!」
「やはりな、貴様のような下郎に思い当たる節があったわ。覚悟せい」
それからしばらく戦いが続いた。
「これで終わりだー!!」
「ぐっ……」
どうやら敵を倒したようだ。素晴らしい殺陣だ。私もこのように鮮やかな立ち回りをしたいものだ。
座布団の上で二足歩行を図るが、どうにも不安定で私には習得不可能のようだ。
ボーン♪ボ~ン♪
どうやら時刻は12時。昼飯が欲しい時刻だが、おっさんは帰ってこない。カレンダーを見ると二つ寄席の予定が入っていた。なるほど、現場を掛け持ちというわけだ。おっさんは意外と売れている方の落語家なのだろうか。
「にゃ~」
しかし、呆れたものだ。飼い猫を目覚まし時計代わりに使った挙句、昼飯の用意を忘れるとは。思わずため息が出る。
私が落ち着いて紳士的な飼い猫だったから良いものの、これが元気でやんちゃな子であれば家を荒らしてキャットフードを探すか、帰ってきた途端におっさんの顔を引っ掻き回すだろう。勿論私はそんなことはしない。良識と忍耐力を兼ね備えた立派な猫にペットショップで育てられたのだ。私はまた寝転んだ。すると、外から声が聞こえた。
「師匠~!どちらですか~」……ん?この声はあのおっさんの声か?いや違う。
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