落語家に飼われた猫のはなし

サドラ

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第三話 私にも友ができたのだが

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前回までのあらすじ
落語家のおっさんにある日買い取られた猫は、おっさんと一人一匹暮らしをする内に、日中の暇な時間が退屈になった。しかし、隣の家のベランダを窓越しに見てみると、一匹の犬がこちらを覗いていた。

私は紳士的な猫であるから、もちろん「おいそこの犬!」などと怒鳴ったりはしない。
「向かいの犬殿、ごきげんよう。」
と猫の言葉で話しかけた。すると向こうは驚いた様子で、「ナ、ナゼ”コトバ”ガワカルノダ!?」と言うものだから、少し教えてやった。
「私は猫であります故、言葉を話せるのです。あなた様のお名前は?」
「ワタシハ、ポチダ。」
「ほう、良い名前ですな。ところでどうしてこちらを見ていらっしゃったのです?」
「キミガ、ミエルカラデス。」
「ほぅ、それはまた何故に?」
「キミノナマエヲ、シッテイマス。」
「おお、そういえばまだ名乗ってませんでしたな。失礼した。私は三毛猫の雄でございます。以後お見知りおきを。」
「ヨロシクオネガイシマス。」
「して、なぜ私を見ていたのでしょう?」
「アナタニ、トモダチニナッテホシカッタカラデス。」
慣れない敬語を使って犬殿は交友を迫ってきた。「友達に?別に構いませんが……」
「アリガタクサンシャシマス!!」
こうして、隣に住むポチ殿と友になった。正直、私の暇を潰してくれるのは、テレビ番組のドラマと昼寝くらいだったので助かる。この家の目覚まし時計くんはやはり語り掛けても反応してくれない。無生物との交友は難しいのだ。こうやって話し相手がいればある程度退屈からは抜け出せるだろう。私はこの日から、朝起きる度に窓の外を確認しては、隣家から姿を現す犬殿と少しおしゃべりしてからおっさんを起こすようになった。
「こんにちは、三毛猫殿。元気かな?」
「私は元気ですよ。そちらこそお変わりなく。」
「ああ、」
ポチ殿は習得が早く、随分流暢に言葉をしゃべるようになった。まあ人間からすればワンワン、にゃんにゃん、にしか聞こえないだろうが。それでも意思疎通ができるというのはいいものだ。特に会話のキャッチボールが出来るというだけで、私の心は満たされる。ちなみにおっさんは今日は夜まで帰ってこないらしい。どうせまた飲み会だろう。
「今日は何の話をしましょうか。」
「ポチ殿はテレビは見られますかな?」「テレビ?ああ、ニュースのことですか。一応見たことはありますが……それがどうかしたのかな?」
「いえね、実は今朝のニュース番組で面白いものを見つけたんですよ。」
「ほう、どんな内容だったんだ?」
「なんと、株価というものについて特集していたんです。」
「株?なんだそれは?」
「ご存じないかな?簡単に言うと、その会社が生み出す利益の一部を、株式という形で誰かに譲渡しているのです。」
「ほう、つまり金儲けのために会社を作っても、その売り上げの一部は誰かのものになるというのか。実に興味深いですな。それで、株価とは一体どうやって決まるのだ?」
「企業の業績や市場の動向によって上下しますが、基本的には『需要』と『供給』のバランスによって決まります。例えば、商品を買う人が多ければ株価が上がりますし、逆に少なければ下がります。」
「なるほど、では我々は猫として、この先どういう風に生きていけば良いと思うかね?」
「うーん、難しい質問ですね……。私は猫なので経済には詳しくありませんが、一つ言えるのは、猫の平均寿命は約15年ということでしょうか。」
「ほう、犬とそう大して差はないのですな。」
「この15年間でどのくらい経済を回していきたいかなのですよ。」
「ふむ、ではもし私が猫だとしたら、猫の平均寿命である15年間、毎日欠かさず散歩をしよう。」
「なるほど、確かに良い考えかもしれません。しかし、もっと効率の良い方法もあると思いますよ。」
「ほう、それは?」
「ずばり、『猫カフェ』を開くことです。」
「猫カフェ?何だそれは?」
「猫好きが集まる喫茶店のようなもので、そこでは猫を愛でながらお茶や食事をすることが出来ます。」
「ほう、それは楽しそうだ。だが、それなら猫を集めてしまえば良いのではないだろうか?」
「残念ですが、猫を集めるためには莫大な資金が必要になります。それに、集めた猫の管理にもお金がかかるでしょう。店を開くのもきっと大変だ。」
「ふむ、なるほど。そう易々とはいかない訳ですな。」
「おっと、そろそろ主人を起こさなければなりませんので、ここで失敬。」
「私も散歩の時間なので、失敬。」
そして、私はおっさんの部屋に入り、いつも通り起こすために声をかけた。
「にゃぁぁお!」
「うるさいぞ!!あと5分だけ寝かせてくれ!!」
「にゃお!!」
「えっ!?嘘だろ!?7時30分じゃねえか!」おっさんは慌てて飛び起きて、支度を始めた。私に構っている暇などないようだ。まあ、別に構わないが。
「行ってきます!!」
おっさんは慌ただしく家を飛び出していった。またしても朝飯を私に与えなかったな。
全く。困ったものだ。私をただの猫と認識するとは。まあ仕方がない。人間は皆忙しい生き物なのだから。落語家がどのように忙しいのかは知らないが。私は仕方なく、台所へ向かい、冷蔵庫の中にあった魚肉ソーセージを取り出して食べた。これはこれで美味しかったが、やはり人間の作ったご飯の方が好きだ。私は再びリビングに戻り、テレビをつけた。丁度ニュース番組をやっていたので、その内容を見てみる。猫でもテレビのニュースはチェックするのだ。リモコンのボタンを押すのはかなり苦労するが。『本日はお天気コーナーから!今日は全国的に晴れとなります。日中は気温が高くなっていますが、夕方以降は涼しくなるとのことです!』
「ほぉ、天気予報というものは便利なものだな。」
私は感心しながら、ニュースを見続けた。
「次はこちらのコーナーです。」女性アナウンサーが次の話題に移る。『最近流行りのペット事情』というテーマらしい。
「ここ数年、犬猫ブームが再来していますね。」
「はい。それに伴い、様々な種類の犬猫用グッズが販売されています。そこで今日は、最近人気のアイテムを紹介します。」
「まずはこの『ねこじゃらし』です。一見普通の棒ですが、振ってみると先端についたふさふさの毛が揺れ動きます。猫ちゃんがこれを夢中になって追いかけているうちに、自然と遊び始めてしまうということで、大ヒット商品となっております。」
「では、実際に試してみましょう。……おお、確かに凄いです。」
「ふむ、これならば退屈している猫も遊んでくれるだろうな。」
私はつい、猫の本能が出てそれに近づこうとしてしまった。そういえば先程、ポチ殿と経済の話をしたではないか。これは上手くあのおっさんにこの『ねこじゃらし』とやらを買ってもらおう。経済を回せるではないか。
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