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仕事をしたくない武士の話
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時は江戸。私は武士の家に生まれた。次男坊だ。兄上と違って剣術が苦手ではあるが、学問は得意になった。論語もそろばんも私にとっては簡単なものである。
そんな私は、家を継ぐ兄上とは違い、幕府の仕事に就くことにした。
「なあに、お前のような者はたくさんいる」
父上はそう言って私を送り出した。そして、江戸での生活が始まった。
江戸の暮らしは大変だった。
まずは言葉がわからない。
しかし、それはすぐに慣れていった。方言なんて私に言わせればなんのそのである。
「今日からここがお前の仕事場だ。」
そう言われた席は狭くて寒そうだった。冬だし。しかし、仕事自体は楽しかった。毎日が新しいことばかりで面白かった。
私が特に好きなのは、幕府の財政に関することだった。
どうすれば支出を減らし、収入を増やすことができるか考えることは、とても楽しい時間であった。
ある日、一人の役人が私に声をかけてきた。「お主は算術が得意らしいな?」
「はい」
「ならば、この仕事をやってみるか?きっと気に入るぞ」
そうして紹介された仕事が『勘定奉行』という役職だった。
今でいうと会計士みたいなものだ。
ただ、この時代ではそういう専門の役職はなく、勘定方と呼ばれていた。
私は早速その職に就いた。
私の上司となった人は、かなり癖のある人物だった。
「おい、金がないなら、貸せ。金を借りるには銭がいるだろうが!」
「はっ!只今用意いたします!」
こんな感じで部下に対して怒鳴り散らすような人だったのだ。しかもだいたい言うことが間違っている。
でも、私には関係のないことだと思っていた。
「お前は俺の部下なんだから、俺の指示通りに動けよ」
「はい……」
まあ、確かに指示された通り動いていれば、怒られることもなかった。
そんなある日のことだった。上司に呼び出された。
「喜べ。俺はこれから京に行くことになった。その間、江戸を頼むぞ」
「え……?」
「江戸を頼んだぞ」「ちょ、ちょっと待ってください!」
上司はそう言い残し、さっさと出て行ってしまった。
残された私は途方に暮れていた。
その時、私の頭に一つの考えが浮かんだ。
(そうだ!うまくサボろう!私の技能を使えばきっとうまくいく。さも仕事をしているかのようにサボるのだ!)こうして、私は江戸でサボることを覚えた。具体的にどうするかと言うと、こうやって毎日のように呼び出しを食らうわけだが、その日は風邪を引いてしまったとか、腹痛が起きたとか嘘をついて休んでしまうのである。
そして、一日中ゴロゴロするのだ。これが最高なのだ。
たまに、上司に見つかって「何をしている!?」と言われることもあるが、「すみません、熱が出てしまいまして」と言えばなんとかなる。実際熱が出たら本当にしんどいのだから仕方ない。
そんなことをしていたせいか、上司にも同僚たちからも煙たがられ始めた。
そして、私の悪い噂が流れ始めてしまった。
「あの男は勘定方のくせに不正をしている」
「幕府に賄賂を渡しているに違いない」
「あいつのせいで、俺たちの給料が減らされたらどうしてくれる」
まあ、そんなところである。
私としては「うるさい奴らだ」くらいにしか思っていなかったのだが、上司は違った。
「貴様!いい加減にしろ!!」
ついにブチ切れたのである。ちなみに彼は1週間で江戸に帰ってきた。
「まったく……。お前のせいで俺まで悪者扱いじゃないか」
「申し訳ありません……」
結局、私は位を一つ落とされた。そして、江戸での出世の道は完全に閉ざされたのであった。
「うーん……」
江戸の街並みを見ながら、私は悩んでいた。
「どうしたんですかい?」
隣にいた男が声をかけてきた。この男の名は小塚原忠助という。絵師をやっている。
「いや、実はね、仕事が失敗したんだ。」
「じゃあうちに来てくださいよ、人が居なくて困っているんです。」
「お~そうさせてもらおうか。」「まいどあり~」
私は小塚原さんに連れられて店に向かった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
そこには見知った顔があった。
「おぉ、これはお久しぶりですな」「お元気そうですね」
そこにいたのは、以前一緒に仕事をしていたことのある人物だった。
名前は石村庄蔵という。今は吉原遊郭にいるはずだが、ここにいるということは、何かあったのか?
「ああ、仕事に失敗してしまってね。今度こそは、しっかり働こうと思ったんだよ。」
こうして、絵師の元、私は働き始めたのだが、どうにもこうにも手に就かず、結局地元に帰ったのだった。
そんな私は、家を継ぐ兄上とは違い、幕府の仕事に就くことにした。
「なあに、お前のような者はたくさんいる」
父上はそう言って私を送り出した。そして、江戸での生活が始まった。
江戸の暮らしは大変だった。
まずは言葉がわからない。
しかし、それはすぐに慣れていった。方言なんて私に言わせればなんのそのである。
「今日からここがお前の仕事場だ。」
そう言われた席は狭くて寒そうだった。冬だし。しかし、仕事自体は楽しかった。毎日が新しいことばかりで面白かった。
私が特に好きなのは、幕府の財政に関することだった。
どうすれば支出を減らし、収入を増やすことができるか考えることは、とても楽しい時間であった。
ある日、一人の役人が私に声をかけてきた。「お主は算術が得意らしいな?」
「はい」
「ならば、この仕事をやってみるか?きっと気に入るぞ」
そうして紹介された仕事が『勘定奉行』という役職だった。
今でいうと会計士みたいなものだ。
ただ、この時代ではそういう専門の役職はなく、勘定方と呼ばれていた。
私は早速その職に就いた。
私の上司となった人は、かなり癖のある人物だった。
「おい、金がないなら、貸せ。金を借りるには銭がいるだろうが!」
「はっ!只今用意いたします!」
こんな感じで部下に対して怒鳴り散らすような人だったのだ。しかもだいたい言うことが間違っている。
でも、私には関係のないことだと思っていた。
「お前は俺の部下なんだから、俺の指示通りに動けよ」
「はい……」
まあ、確かに指示された通り動いていれば、怒られることもなかった。
そんなある日のことだった。上司に呼び出された。
「喜べ。俺はこれから京に行くことになった。その間、江戸を頼むぞ」
「え……?」
「江戸を頼んだぞ」「ちょ、ちょっと待ってください!」
上司はそう言い残し、さっさと出て行ってしまった。
残された私は途方に暮れていた。
その時、私の頭に一つの考えが浮かんだ。
(そうだ!うまくサボろう!私の技能を使えばきっとうまくいく。さも仕事をしているかのようにサボるのだ!)こうして、私は江戸でサボることを覚えた。具体的にどうするかと言うと、こうやって毎日のように呼び出しを食らうわけだが、その日は風邪を引いてしまったとか、腹痛が起きたとか嘘をついて休んでしまうのである。
そして、一日中ゴロゴロするのだ。これが最高なのだ。
たまに、上司に見つかって「何をしている!?」と言われることもあるが、「すみません、熱が出てしまいまして」と言えばなんとかなる。実際熱が出たら本当にしんどいのだから仕方ない。
そんなことをしていたせいか、上司にも同僚たちからも煙たがられ始めた。
そして、私の悪い噂が流れ始めてしまった。
「あの男は勘定方のくせに不正をしている」
「幕府に賄賂を渡しているに違いない」
「あいつのせいで、俺たちの給料が減らされたらどうしてくれる」
まあ、そんなところである。
私としては「うるさい奴らだ」くらいにしか思っていなかったのだが、上司は違った。
「貴様!いい加減にしろ!!」
ついにブチ切れたのである。ちなみに彼は1週間で江戸に帰ってきた。
「まったく……。お前のせいで俺まで悪者扱いじゃないか」
「申し訳ありません……」
結局、私は位を一つ落とされた。そして、江戸での出世の道は完全に閉ざされたのであった。
「うーん……」
江戸の街並みを見ながら、私は悩んでいた。
「どうしたんですかい?」
隣にいた男が声をかけてきた。この男の名は小塚原忠助という。絵師をやっている。
「いや、実はね、仕事が失敗したんだ。」
「じゃあうちに来てくださいよ、人が居なくて困っているんです。」
「お~そうさせてもらおうか。」「まいどあり~」
私は小塚原さんに連れられて店に向かった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
そこには見知った顔があった。
「おぉ、これはお久しぶりですな」「お元気そうですね」
そこにいたのは、以前一緒に仕事をしていたことのある人物だった。
名前は石村庄蔵という。今は吉原遊郭にいるはずだが、ここにいるということは、何かあったのか?
「ああ、仕事に失敗してしまってね。今度こそは、しっかり働こうと思ったんだよ。」
こうして、絵師の元、私は働き始めたのだが、どうにもこうにも手に就かず、結局地元に帰ったのだった。
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