起業した人のはなし

サドラ

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起業した人のはなし

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私の名は、大場久吉。年は二十七歳だ。
「えっ? 大場さんておいくつですか」と訊く人がいるが、そんなことはどうでもいいことだ。
このごろ私は、こんなふうに思うようになった。──人間は年齢じゃないよなあ……。
たとえば、二十歳の若者がいたとする。その人はもう立派な大人だし、仕事もしているし、自分の考えを持っている。だが、もし私がその人に、「きみは何歳ですか?」と訊いたら、おそらく彼は答えないだろう。いや、もっとひどいかもしれない。彼はきっとこう答えるだろう。「まだ十九歳ですけど……」。そして、そう言われても、私には彼が十九歳には見えないのである。だから私は言うのだ。「若いねえ……」と。
そういうことはともかく、私は起業することにした。事業内容は……まあ、いろいろあるのだが、要するに何でも屋だ。
まず、私は自宅兼事務所としてマンションの一室を買った。これが、五階建ての三階にある3LDKという物件だった。家賃は月六万円だ。次に、私は不動産業者に行って、一坪ほどの土地を借りた。これは、隣の空き地を買い取ったのである。広さは百坪くらいか。
さらに、私は知人から中古の軽トラックを買い取った。この軽トラックで、私は運送業をはじめることにしたわけだ。
そして最後に、私は古本屋に売りたい本をたくさん持ちこんだ。この本を売るために、私は古本屋になったようなものだ。
こうして、私は事業を開始した。もちろん一人で。最初は、不安もあった。しかし、やってみるとなかなかおもしろかった。それに、毎日いろんなことがわかってきて、どんどん面白くなっていった。
商売というものは、やってみないとわからないものである。
ところで、事業を始めるにあたって、一番困ったのは、銀行へ行けないということであった。つまり、預金がないのだ。私は、銀行の口座にお金を持っていない。それで、借金をした。借りたのは五十万ほどだ。私はこれで事業を始めたのである。
さて、最初のうちは順調にいった。私は忙しかった。朝起きてから夜寝るまでずっと働いていた。休む暇もなかった。一日の仕事が終わると、すぐに眠りについてしまった。食事の時間も惜しんで働いた。
しかし、事業を始めて半年がたった頃、私はちょっと疲れを感じた。身体がきつい感じなのだ。そこで私は、週に一度休みをとることにした。この日だけは仕事をしないで休んだ。といっても、昼まで眠っていたわけではない。午前中は仕事をして、午後からはゆっくり過ごしたのである。すると、身体が楽になった。それからまた半年ほど経った時のことである。私はあることに気づいた。それは、売上が全く伸びていないことだ。これでは、いつまで経っても儲けにならないではないか。私は、焦り始めた。このままではいけないと思い、少しばかり仕事の量を減らすことにしてみた。その結果、仕事は減っても収入が減ることはなかった。
その後、事業はますます順調になって、やがて軌道に乗った。私の事業は、かなりうまくいっているようだ。
ところが最近、気になることがある。何か変なのである。それは、以前と比べて、お客さんの数が減っていることであった。これはどういうことなのか。私は首をひねった。
だが、考えてみればわかることだった。私は、ずっと一人でやっていたのだ。今のように従業員を増やしていたなら、売上は増えたかもしれない。しかし、一人だけでできることには限界がある。結局、事業を拡大するしかなかったのだ。私はそのことを思い知った。そして、これからのことを真剣に考える必要が出てきたと思った。
「…求人ってどうやるんだ?…」大場久吉はつぶやくように言った。
「はい?」と聞き返す声があった。
久吉は視線を上げて、声の主を見た。そこには、小柄だが恰幅の良い中年男が立っていた。男は背広を着てネクタイをしめた紳士風の姿だったが、髪は七・三に分けており、口髭を生やしていた。
「いえ、何でもありません」久吉はあわてて言った。
「そうですか。何か考えごとでもなさっていたようでしたけど」
「はい、まあ……そうです」「仕事のことですか」
「ええ、まあ」
「失礼ながら、あなたは何をやってる方ですか」
「はい、一応……事業家ということになるでしょうか」
「事業家でしたか。なるほど。それで、求職中の人を雇うわけですね」
「えっ……あの……はい、まあそうです」
「わかりました。私でよろしければ、あなたの仕事のアドバイスさせていただきますよ」
「そうですか。ありがとうございます。助かります」「何しろ私は人事担当官なのですから」
「人事担当官!」
「はい。実は私も転職してきたんです。今は、人材コンサルタントをしています。それで、あなたのことも聞いてみようと思って来たんですよ」
「そうでしたか。こちらこそ、よろしくお願いします」
久吉は、目の前の男をまじまじと見つめた。この男も自分と同じように、事業を始めようとしているらしい。
「私の名前は、堀井といいます」
その男──堀井は名刺を差し出した。久吉はその名刺を手に取った。
株式会社エンパワーメント代表取締役 堀井雄二
「エンパワーメント?」
「はい。英語で『力をつける』という意味です。つまり、人を助け、応援する会社ということです。それが社名の理由です」
しかし、この男が提案してきた内容と言うのが高額なもので、しかも実現不可能だった。
「それじゃあ、もし仮に、この方法で一億円儲けることができたとしましょう。しかし、もしこの方法が失敗してしまったら、一億円の損害が出ることになりますよね」
「はい。もしそうなったら、一億の損になります。しかし、もし成功したら、一億の利益が出ます。これは、どちらに転んでも得をするということではないでしょうか。そして、たとえ失敗したとしても、それは投資として回収できるということだと思います。もちろんリスクはあるでしょうが、」
「できません。すいません。」
そう言って帰ったのだが、結局求人を諦めざるを得なかった。
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