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はじめて真っ直ぐに好きになったよ

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今まで本気の恋なんてしたことなかった。モテるやつはだいたい少数。彼らはその他大勢から求められ、必要とされて生きている。そのくせ自分のことを必要としている人がいたら、途端に興味をなくす。そういうもんだと思っていた。でも、それは違うってわかった。俺が求めてるのは、ただひとりだけなんだって。

「はぁ……」溜め息をつく。すると後ろで足音が聞こえた。
「あれ?どうしたんですか?」
振り返るとそこには制服姿の女の子が立っていた。
彼女は確か……
「あ!あの時の」
「はい。あの時はありがとうございました!」そう言って頭を下げる彼女。俺は彼女の言葉には応えず、逆に質問をする。
「どうしてここにいるんだ?」
「えっと、実は私、この高校を受験しようと思ってまして。それで今、学校見学してるところなんですよ」
「そっか。じゃあ俺と同じだね。ここの高校受験しようと思っているんだ。」「そうなんですか!?私も同じです!」嬉しそうにする彼女を見て思わず笑みがこぼれる。
「へぇー、奇遇だな。まぁ、お互い頑張ろう」
「はい!よろしくお願いします!」そう言うと再び頭を下げて去っていく彼女。そんな彼女に手を振った後、俺は学校の中へと入っていった。
どうやら塾が同じらしい。コースが違うけれど。だから見覚えがあったのか。でもまさか同じ高校の志望者だったとは……。
「よしっ!絶対合格するぞ!」
昔から勉強が好きではなかった。かといって他にやることが多いわけでもなく、俺はただ淡々とやっていただけだった。おかげでかなり成績は良くなったし、苦痛でもないけれど、面白味に欠けていた。だが今は違う。目標がある。それに俺のやる気を掻き立てるような子がいる。それだけで不思議とモチベーションが上がるのだ。
「さて、帰ろっと」
明日も塾だ。いつか彼女と同じコースで学べる日が来るのかもしれない。そう思うだけで胸が躍った。
そして翌日、俺はいつも通り授業を受け、教室を出る。そのまま駅に向かって歩いていると、ふとあることを思いつく。
(そうだ。今日は少し寄り道してから帰ろう)
そう思った俺は来た道を引き返し、本屋に向かった。そこで参考書を買い、ついでに漫画を買う。それを持って近くの公園に行き、ベンチに座って読み始めた。
しばらくすると、目の前を通り過ぎる女子生徒の姿が目に入る。長い黒髪が特徴の美少女。その子を見た瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。この間見学で会った子だ。名前は確か……
「……水無瀬さん?」
つい声に出してしまった。すると彼女がこちらを振り返る。目が合った瞬間、恥ずかしさが込み上げてきた。向こうも同じなのか顔を赤くしている。
「こ、こんにちは……」彼女はおずおずといった様子で言う。
「うん。こんにちは」
「何を読んでいたんですか?」
「これだよ」と言って買ってきたばかりの参考書を指差す。
「あ、私もこれ買いました」
「へぇ~そうなんだ。どう?」
「はい!すごくわかりやすいです!」彼女は目を輝かせながら言った。
「あ、そろそろ敬語解いてもらっていいよ。」
「わ、私は水無瀬凛華っていうの」
「凛華ちゃんか。綺麗な名前だね」
「えっ!?」急に慌てる彼女。どうしたのだろう。
「あ、いえ、何でもない……」
「?変なの」
「あの、あなたの名前は?」
「俺は佐藤陽太。」
「はい。これからよろしく!」
「こちらこそよろしく。」こうして俺達は出会った。
それからというもの、放課後になると毎日のように彼女と会うようになった。最初は緊張していた彼女だったが、だんだん慣れてきて今では普通に接することができるようになっている。相変わらず敬語は抜けていないけど。
「ねぇ、どうしてそんなに真面目なの?」ある日のこと。彼女は唐突に聞いてきた。
「うーん、全然真面目なんかじゃないけど、そう見えているなら、昔から、ゲームしなかったし、インドアなやつだったから、勉強くらいしかまともにやることがなかったからかな。」
「そっか……。でも、すごいと思う」
「え?」
「だってこんなに頑張っているんだもん」彼女は眩しい笑顔を見せる。その表情がとても可愛くて、思わずドキッとしてしまう。俺にもこういう感情、あったんだな。
「いやいや、こんなの全然ダメだよ。」
彼女といると、幸せだ。すごく興奮するわけじゃないけど、基本的にハッピーでいられる。こんなことは中々ない。
彼女は真面目なんだけれど、結果がついてきていない。これが彼女の悩みだった。
「大丈夫!絶対に受かるって!」
「ありがとう……私頑張るね」そう言って微笑む彼女。ああ、なんて可愛いんだ。もっと一緒に居たいなぁ。そう思っていると、突然携帯が鳴る。誰だ?と思い画面を見ると、そこには母の名前が表示されていた。
「もしもし」
「あ、陽太!今どこ!?」
「今?公園にいるよ。どうかしたの?」
「ごめん、今日お母さん仕事入っちゃった。夜一人でお願い!」
「OK。」「ごめんなさいね。じゃ、よろしく!」
「うん。わかった」電話を切る。すると隣にいた彼女が話しかけてくる。
「どうしたの?」
「いや、母さんがさ、今日仕事で遅くなるから一人でお願いって。」「そうなんだ……」
「じゃあそろそろ帰るか」
そう言い立ち上がると彼女も立ち上がり、「駅まで送っていくよ」と言う。
「いいの?」
「もちろん。それに家まで結構近いんだよね?」
「まぁそうだけど……。じゃあお言葉に甘えて。お願いします!」
「了解!」
そうして二人で駅まで歩く。その間も会話は途切れなかった。ずっと話していたかったけれど、電車が来たため、仕方なく別れる。
「また明日!」
「うん!ばいば~い!」手を振る彼女に手を振り返す。そして改札を通り、ホームに行く。するとちょうど来た電車に乗り込む。そしてドアの近くに立ち、窓の外を眺めた。もうすっかり暗くなってしまっていて、外には街灯が点いているだけ。それを見ていると、少し寂しさを感じた。
「……帰りたくねえな」つい本音が出てしまう。すると後ろの方で声が聞こえてきた。
「あれ?陽太じゃん」
振り向くとそこにいたのは幼馴染みの界斗の姿があった。
「おっ、久しぶりだな~」「おう!元気にしてたか?」
「当たり前だろ~?」彼は得意げに言う。俺は彼の肩に手を置き、言った。
「お前は相変わらずバカだな~!」
「おい!それどういう意味だよ!」
「そのままの意味だよ!」
久々の再会、嬉しい。
「お前、彼女できた?」
「は、は?何だよ急に。」
ぎくりとする。確かに凛華ちゃんとはそういう関係に近づいている。しかしそれは誰にも言っていない。
「やっぱりな~。実は俺も最近、彼女が出来たんだぜ!」
「えっ!?マジで!?」
「ああ!しかも超絶美人の彼女だぞ!羨ましいだろう?」
「はいはい、そうだね」
「ちょっと!そこは『おお!』とか反応してくれよ!」
正直、かなり驚いた。まさか彼女がいたなんて。いや、でも俺だって凛華ちゃんがいるし、別におかしくはないのか?ってなに凛華ちゃんを手に入れた気になっているんだ?そんなことを考えていると、ふとあることを思い出す。
「あっ、そういえば、今日の放課後、女子と一緒に帰ったんだけどさ……」
「へぇ~。楽しかったか?」
「いや、それがな、急に母さんから連絡来て、帰らなきゃいけなくなってさ。」
「なんだよ、つまんねぇなぁ」
「まあ時間遅くなってたしいいんだけどさ、」
「まあお互い頑張ろうぜ」
そんな感じの一日の終わりだった。
そして自覚した。やっぱり俺は凛華ちゃんのことが好きだ。人気な人のことををみんなと同じように見ていた日もあったけれど、今の気持ちは違う。まっすぐな気持ちだ。真っ直ぐに、凛華ちゃんが好きだ。
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