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全ての終わりと全ての始まり

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彼はアレクサンダー・アレクシスは全てにおいて恵まれていた。

人より優れた容姿、人より要領よくこなすこと、一度覚えたことを忘れないということに才能があった。

彼はその才は伯爵家からその国中へと轟いた。

いわく、伯爵家には神童がいると

逞しい父と美しい母、そして少しやんちゃだが、兄のことを尊敬している弟と、兄のことを誇らしく思う妹

そして、格上の公爵家の次女と婚約することになった。

だが、アレクサンダーは神童と持て囃されても、慢心はしなかった、決して驕らずに周りとの交友を深めていった。

数多くの友人が彼の周りへと自然と集まるようになっていった。




だけど、彼が12歳の頃に流行病で元々体の弱った妹は亡くなった。

父や母、彼も弟もその死を悲しんだ。



13歳の頃、母が亡くなった。

父がいない時に暗殺者が差し向けられ、母を人質にとって、戦争を有利に進めようとして、母はそれが分かっていたのか自害した。



14歳の頃、父が亡くなった。

隣国との戦争で相手の流れ矢が当たって、その矢先には新種の毒が塗られてあったのだそうだ。



15歳の頃、弟が家臣に先導され、お家騒動が起こった。

彼が庇える範囲の限界を超えたことをやっていて、弟は示唆した家臣共々処刑された。



彼は頑張った。

頑張っていた。

そうとしか言えないくらいに辛い状況だった。

たかだか数年で家族の全てを失った彼には

神童と持て囃されていようと、その心は幼い少年だったのだから



父や母、先祖が守ってきた土地を守っていこうと




土地で突然流行病が流行った、それは農作物にも感染し、未曾有の被害をもたらした。

飢えた領民は隣人同士で殺し合い、その肉を食ったという

その症状は父と同じような症状だったという。

彼の父がそれを持ち込んだのだと、疫病神だと、どこからともなくそんな噂が流れ、反乱が起きた。

彼は国にその土地や財産を渡し、長年暮らしていた家を離れた。

もちろん、婚約な話なんて白紙に戻った、いや、外聞のためか公爵の手の暗殺者が殺しにかかった、だが、彼は強かった、難なくとその暗殺者達を無力化していった。


そうして、彼はただのアレクとして隣国へと旅立った。

元の国には彼は酷く知られ、そして迫害されるだろうということは目に見えていたからだ。




彼は冒険者アレクとして第二の人生を歩みだした。

隣国は豊かだった。

黄金の麦畑がどこの村にも広がっていた。

神童ユキトという名前がそこら中から聞こえ、姿絵なども売られていた。

男の姿絵を買う趣味などなかったのだが、そのユキトという存在に酷く心惹かれた。

神童と呼ばれるというものがどんなものかということに・・・



そうして、アレクは冒険者で活躍をし、若き天才として名を馳せた。


10級あるうちの3級へとなって、異例の早さでのスピードの昇級だからか、酷く彼を人々は讃えた。



そんな彼にも恋人ができた、同じ3級のリナという女性だ。

それからはあまり危険な仕事は行かず、安全マージンを取って、仕事を取り、住民権をとり、そして2人で家を買って暮らそうと語り合っていた。



ある日突然リナに別れたいと告げられた。

なんで?どうして?誓い合ったのに、そう彼は思っただが、愛した人がそう告げてしまったのだ。

「俺は今でもお前を愛している」

「ごめんなさい」

彼女は彼の前から姿を消した。




ある日彼は近場で盗賊が発生したとギルド員からお願いをされ、討伐しに向かった。

その盗賊だったのが、かつて一緒に仕事をしていたりした、ギルドメンバーだった。

動揺している彼は見向きもせず、幾重にも罠を仕掛け、彼を追い詰め、彼らは彼を捕らえた。

「……すまない」

沈みゆく意識の中でただ悲しそうな声音が彼の耳に残った。





次に起きたのは牢獄だった。

1日食事も与えられず、手足を縛られたまま過ごした。

出されたと思ったら、身を綺麗にされ、豪華な格好をした男の前に出された。

彼は男の事を知っていた。

「……ユキト」

「へぇ、僕のこと知ってるんだ、隣の元神童君、あと」

「ユキト様だろ!このクズ」

思いっきり腹を蹴られてた。

「あぁ、汚いので靴が汚れちゃった、舐めろよ、犬」

それを舐めていたのはかつての恋人だったリナだった。

「……なんで」

「ねぇ?知りたい?知りたいのかな?ねぇ、それが人に物を教えを乞う態度かな、頭が高いんじゃない?」

「でも、特別に僕は優しいから教えちゃうよ、この雌犬でしょ?この子妹が僕の奴隷でさ、ねぇ?妹が可哀想なことされたくなかったら、分かるよね?でもさ、この子の両親首を縦にふらなくてさ、うっかり反逆罪で殺しちゃったんだよね」

その言葉を聞いた時、彼は飛びかかろうとした、周りに数十人の兵士が彼を押さえているのだから、到底不可能な話だが

「それに君の家の人らもバカだよね、妹の侍女は僕の送り込んだ間者で毎回薬に毒混ぜてたのに気づかないで死んでさ」

「母親の方もちょっと麻薬やっちゃえばべらべら色んなこと話してさ、最後は狂っちゃってさ、あれは最高に笑えたよ」

「父親もそのことを手紙で渡したら、戦争でバカみたいに突っ込んできてさ、毒付きの弓矢当てるのなんて楽だったよ」

「弟君も兄への劣等感を煽って煽てれば操られてさ、君の家族はバカでお人好しばっかで笑っちゃうよね」

ベラベラと彼は楽しそうに他にも彼の領地のこと、毒のこと、ギルド員のことと楽しそうに話していた。

「んー楽しかった、あとこの雌猫とついでその妹も兵士にあげるよ、もう飽きちゃったし」

「……コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル」

「もう、さっきから同じことしか呟やわなくて、つまんない、まだ瞳は壊れてないけど?まぁ、どうせ君は明日には処刑だけどね」

「バイバイ、元神童君」

彼の瞳には愉快そうに笑った彼の姿が目に焼き付いていた。


そして、翌日の昼にアレクの首と胴体は別れた。






アレクは冒険者の格好をしていた、ちょうど彼の横にはゴードン・アレクシス、彼の者の父と酒を酌み交わしていた。
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