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番外編:『君は最高の親友だと言い張っていた夫』
5.友情と愛情
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会場を後にしたアデリーナがフィリクスの部屋に向かうと、その扉の前で側近二人が室内のフィルクスに必死に声を掛けていた。
だがアデリーナに気付くと、縋る様な視線を向けてくる。
「フィリクス殿下は、ここにいらっしゃるの?」
「はい……。先程の件で陛下より殿下を早急にお連れするよう承ったのですが、室内に籠ってしまわれて……」
そう言って二人共、視線を床に落とす。
いつもは親しみを込めながら嬉々としてフィリクスを揶揄っていた側近二人だが、今はかなり深刻な表情を浮かべている。
その様子から先程の息子の友情破棄宣言の件で、国王がかなりご立腹なのだと感じたアデリーナは、焦る気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸をした。
そして側近二人を扉の前から、少し下がらせる。
「フィリクス殿下、アデリーナでございます。少々お話がしたいので、どうかこの扉を開けてくださいませんか?」
ノックをしながら出来るだけ優しい声で呼びかけるが、反応がない。
その状況に側近二人が、大きく肩を落とす。
「先程から我々もずっとお声がけさせて頂いているのですが、ずっとこのような状態で……」
「そう……」
二人の様子から国王からは、かなり厳しめな口調でフィリクスを連れてくるように指示されたのだろう。このままフィリクスが室内に籠り続けると、この二人の立場も悪くなってしまう。
そう思ったアデリーナは、もう一度室内に向かって声を掛けようとした。
すると――――ガチャリと鍵が外される音がする。
その瞬間、側近二人がすぐに室内に乗り込もうとしたのだが、それをアデリーナが制止した。
「まずはわたくしがお話をします。あなた方は、この場で待機して」
「かしこまりました。ですが……扉は少し開けたままでお願いできますか?」
「ええ。分かったわ」
そう言ってアデリーナはゆっくりとフィリクスの部屋へと足を進める。
フィリクスの部屋は、執務室と衣裳部屋と寝室の三つが連なっている。
アデリーナが足を踏み入れた部屋は、その一つでもある執務室だったのだが、何故か部屋には明かりは一切灯っておらず、仄かな月明かりだけが室内を照らしていた。
「フィリクス殿下?」
淡い月明かりを頼りにアデリーナが慎重に室内を見回しながら目を凝らす。
すると、執務机と書棚の間の辺りに家具とは違う黒い塊が確認出来た。
そこへゆっくりと近づくと、膝を抱えるようにして蹲るフィリクスの姿があった。16歳とは言え長身であるフィリクスが、そのように小さく蹲っている姿は、何とも滑稽である……。
しかし、それだけ本人も先程の自分の振る舞いを恥じ、後悔しているのだろう。その事を察したアデリーナは、優しく語りかけるように声を掛けた。
「殿下……先程された友情破棄の理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「…………」
「理由も分からず、殿下との友情を断ち切られてしまっては、わたくしも納得が出来ません。ましてやこのまま婚約解消にまで発展した場合、わたくしはずっとこの件を引きずってしま――――」
「君との婚約は絶対に解消などしない!!」
アデリーナの言葉を遮るように急に顔を上げて叫んだフィリクスの反応にアデリーナが、大きく目を見開く。だが、すぐに先程の労る様な優しい笑みを浮かべ直した。
「では何故、わたくしとの友情を破棄されるのですか? 殿下はわたくしに対して、何らかの不満をお持ちだから友情を断ち切ろうとなさったのでは?」
「君に不満など一切ない! 君は……私が初めて得た最高の友人だ! だが、君が言ったのだ。男女での友人関係では、過剰な触れ合いは出来ないと……」
フィリクスのその言葉にアデリーナが、一瞬だけ息をのむ。
「君は私にとって、一番近くに感じていたい存在なんだ……。喜びも、悲しみも、私はその全てを君と手を取り、抱き合ったり、励まし合ったりして、常に君と分かち合っていきたいと思っている。私はそれを最高の親友である君だからこそ、望める関係なのだとずっと思っていた。だが、君は違うと言う……」
「で、殿下! それは……」
「深い信頼で繋がっている友人関係でも男女同士ではそれは許されない……。だが私が君に求めている関係は、そういう関係なんだ。君は私にとって常に側にいて欲しい存在であり、それは君にとっても私がそうであって欲しいと願うくらいに……。だが、男女間の友情では私のその欲求は満たされない……。友情は何人とでも育める関係だ。だが、私は君が他の人間と……特に男性とその友情を育もうとする事に堪えられない。他の男が君の中で私と同じ『友人』という立場になってしまうのは嫌だ……。とても傲慢で狭量な考えだと自覚しているが、それでも私は君にとって自分が特別で……一番一緒にいたいと思って貰えるような存在であって欲しいと言う欲求が止まらない……」
切なげにそう語るフィリクスに対して、アデリーナは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせる。そんなアデリーナの様子に気付かないフィリクスは、更に言葉を続けた。
「だから友情を破棄しようと思った……。少なくとも『友人』と言う関係では、私が君に望んでいる関係は築けないと判断したからだ。だが、それならばどういう関係だったら、私の望む君との関係が成せるのか分からない……。友情以上に親しみある深い関係があるのか? 私は将来の側近候補達と、それなりに心の内を話せるくらいの友情を築けたと思う。その彼らは、私に安心感と居心地の良さを与えてくれる存在だ。だが、君はその中でも別格で……。私はそれを『最高の親友』と言うのだと思っていたが、君の言い分ではそれでも私が求める関係は許されない。ならば……最高の親友以上の存在になってしまった人をどう称すればいい? 私は……自身が君と望んでいる関係の種類が全く分からないが、それでも友情ではその関係に該当しないという事だけは分かる。だから先程のような宣言をしようと……」
そこまで語り尽くしたフィリクスは、がっくりと肩を落として項垂れた。
その様子にアデリーナは、呆れと同時に赤面する。
この王太子は、自分の感情と向き合う事に関して、あまりにも不器用過ぎる。
だが、今の話で自分がフィリクスから求められている関係を嫌でも知ってしまったアデリーナは、それを彼に教えてあげなければならない。
その行動は自意識過剰とも言える内容なのだが……。
だが、そのフィリクスが求めている自分との関係の種類を教えなければ、フィリクスは一生アデリーナに抱いているその感情が何か気付けないだろう。
その為、アデリーナは羞恥心に耐える覚悟で少し顔を赤らめながら、改めてフィリクスと向き合う。
「殿下……。殿下がわたくしに抱いてくださっているその感情は、恐らく友人に抱く感情ではございません。それは『友情』ではなく『恋心』という感情では、ございませんか……?」
そう告げた瞬間、フィリクスが大きく目を見開いた。
正直なところ、アデリーナ自身がこの事をフィリクスに告げる事は、かなり恥ずかしい行為である。何故ならば相手に「多分、あなたは私に恋をしているのよ?」と自ら宣言しているような行動になるからだ……。
だが、恐らく今ここでその事を認識させないと、フィリクスはこのアデリーナに対する感情をずっと『友情』という捉え方しかしない。
ここは、羞恥心に耐えてでもフィリクスに自覚させた方がいいと判断した。
「恋……心……?」
「はい。その……恋心は確かに友情に非常に似た好意や親しみを相手に抱く感情ではありますが、その深さが違います。友情の場合、共に過ごす事での心地良さを感じるのみですが、恋心の場合だと共に過ごす事にかなり執着するような感情を抱きやすいです。何と言うか……友情は惰性的に一緒にいる事への心地良さを感じ、恋心の場合だと相手を独占してでも一緒にいたいと言う強い感情を抱く感じでしょうか……」
「相手を独占……。それは常に側にいて欲しいと感じたり、ずっと見つめ続けたいと思ったり、過剰に触れたいと感じたりもするのか?」
「え、ええ。そのような感情を抱きやすいですね……」
「頬に口付けしたい衝動に駆られたりもするものだろうか……」
「で、殿下はそのように感じた事がおありなのですか!?」
「ある。だが、流石に友人に対する接し方としては非常識な行為だとは認識していた」
「…………」
衝撃的な告白内容にアデリーナが顔を赤らめて深く俯く。
しかしフェリクスの方は、何故か安堵の表情を浮かべた。
「そうか。私がアディに対して抱いていたのは『友情』ではなく『恋心』だったのか……。なるほど。それならば納得出来る。私が君を常に側に置きたいと望むのも、過剰に触れたいと感じるのも、深く抱きしめたいと求めてしまうのも全て君に深い恋愛感情を抱いていたからだったのだな!」
「殿下……。そのような恥ずかしい事を堂々と宣言なさるのは、おやめ頂きたいのですが……」
「恥ずかしい? とても素晴らしい事じゃないか! 政略的結婚が当たり前の王侯貴族の婚約だが、私はしっかりと恋愛結婚出来るのだから」
「それは……そうなのですが……」
「もしやアディは、私に友情しか感じられないのか……?」
急に捨てられた子犬のように庇護欲をそそられる表情で見つめ返して来たフィリクスの反応にアデリーナが慌てて否定する。
「そ、そのような事は!!」
「良かった……。ならば今後は今までのように遠慮せず、君との過剰なスキンシップを行っても問題ないな」
「はい?」
「友人同士では不適切な接し方に捉えられてしまうが、将来の伴侶となる婚約者同士の接し方ならば、微笑ましい交流の仕方になるのだから不適切にはならないだろう?」
「そ、それは違います! いくら婚約者同士でも殿下のような身分の高い方は、他貴族のお手本になるよう振る舞わなければならないので、公の場では婚約者相手でも節度ある接し方をされないと品位に問われるかと!」
「それは人目がない場所でなら、過剰なスキンシップは可能という事だな」
「ち、違います! そもそも何故そこまでわたくしとの過剰スキンシップに拘るのですか!?」
「何故って……そんなの君が愛らし過ぎる事が原因じゃないか……」
「なっ……!!」
サラリと放たれたフィリクスの言葉にアデリーナは耳まで真っ赤になった状態で絶句した。しかし、当のフィリクスの方は、先程までの絶望感などどこかに放り投げた様に幸福感溢れる笑みを浮かべている。
「そう考えると、先程の私の友情破棄宣言は良い結果をもたらす行動だったな。何故ならば私は君と友情ではなく、愛情を育みたかったのだから」
そう言って、自身が抱いていた恋心を自覚した事で満たされた気持ちに浸っていたフィリクスだが……その余韻をぶち壊す一言が、部屋の扉の向こうに控えている側近二人から飛んできた。
「殿下、ご歓談中のところ誠に申し訳ないのですが……」
「先程から陛下がお呼びです。しかも、かなりお怒りのご様子で……」
側近二人から放たれたその一言で、フィリクスの顔色は一瞬で色を無くした。
そして翌日から、一カ月間。
フィリクスは夜会で騒ぎを起こした責任として、アデリーナと面会すらさせて貰えず、ずっと執務室に監禁状態で、ひたすら公務をこなすと言う罰が下された……。
ちなみに例の『友情破棄宣言』に関しては、二年後に成人するのと同時にアデリーナとの挙式が決まった事に歓喜したフィリクスが先走ってしまい、自分達は友情ではなく愛情で深く繋がっている事を皆に宣言をしようとして失敗してしまった、というかなり無茶な設定で片付けられた……。
だがそのお陰で、フィリクスの婚約者の座を狙っていた令嬢達は激減する。
同時にアデリーナの方は、王太子から一心に愛情を注がれている存在として社交界で有名となり、フィリクスと公の場に出ると常に周りから微笑ましい笑みを向けられるようになってしまったのだった……。
だがアデリーナに気付くと、縋る様な視線を向けてくる。
「フィリクス殿下は、ここにいらっしゃるの?」
「はい……。先程の件で陛下より殿下を早急にお連れするよう承ったのですが、室内に籠ってしまわれて……」
そう言って二人共、視線を床に落とす。
いつもは親しみを込めながら嬉々としてフィリクスを揶揄っていた側近二人だが、今はかなり深刻な表情を浮かべている。
その様子から先程の息子の友情破棄宣言の件で、国王がかなりご立腹なのだと感じたアデリーナは、焦る気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸をした。
そして側近二人を扉の前から、少し下がらせる。
「フィリクス殿下、アデリーナでございます。少々お話がしたいので、どうかこの扉を開けてくださいませんか?」
ノックをしながら出来るだけ優しい声で呼びかけるが、反応がない。
その状況に側近二人が、大きく肩を落とす。
「先程から我々もずっとお声がけさせて頂いているのですが、ずっとこのような状態で……」
「そう……」
二人の様子から国王からは、かなり厳しめな口調でフィリクスを連れてくるように指示されたのだろう。このままフィリクスが室内に籠り続けると、この二人の立場も悪くなってしまう。
そう思ったアデリーナは、もう一度室内に向かって声を掛けようとした。
すると――――ガチャリと鍵が外される音がする。
その瞬間、側近二人がすぐに室内に乗り込もうとしたのだが、それをアデリーナが制止した。
「まずはわたくしがお話をします。あなた方は、この場で待機して」
「かしこまりました。ですが……扉は少し開けたままでお願いできますか?」
「ええ。分かったわ」
そう言ってアデリーナはゆっくりとフィリクスの部屋へと足を進める。
フィリクスの部屋は、執務室と衣裳部屋と寝室の三つが連なっている。
アデリーナが足を踏み入れた部屋は、その一つでもある執務室だったのだが、何故か部屋には明かりは一切灯っておらず、仄かな月明かりだけが室内を照らしていた。
「フィリクス殿下?」
淡い月明かりを頼りにアデリーナが慎重に室内を見回しながら目を凝らす。
すると、執務机と書棚の間の辺りに家具とは違う黒い塊が確認出来た。
そこへゆっくりと近づくと、膝を抱えるようにして蹲るフィリクスの姿があった。16歳とは言え長身であるフィリクスが、そのように小さく蹲っている姿は、何とも滑稽である……。
しかし、それだけ本人も先程の自分の振る舞いを恥じ、後悔しているのだろう。その事を察したアデリーナは、優しく語りかけるように声を掛けた。
「殿下……先程された友情破棄の理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「…………」
「理由も分からず、殿下との友情を断ち切られてしまっては、わたくしも納得が出来ません。ましてやこのまま婚約解消にまで発展した場合、わたくしはずっとこの件を引きずってしま――――」
「君との婚約は絶対に解消などしない!!」
アデリーナの言葉を遮るように急に顔を上げて叫んだフィリクスの反応にアデリーナが、大きく目を見開く。だが、すぐに先程の労る様な優しい笑みを浮かべ直した。
「では何故、わたくしとの友情を破棄されるのですか? 殿下はわたくしに対して、何らかの不満をお持ちだから友情を断ち切ろうとなさったのでは?」
「君に不満など一切ない! 君は……私が初めて得た最高の友人だ! だが、君が言ったのだ。男女での友人関係では、過剰な触れ合いは出来ないと……」
フィリクスのその言葉にアデリーナが、一瞬だけ息をのむ。
「君は私にとって、一番近くに感じていたい存在なんだ……。喜びも、悲しみも、私はその全てを君と手を取り、抱き合ったり、励まし合ったりして、常に君と分かち合っていきたいと思っている。私はそれを最高の親友である君だからこそ、望める関係なのだとずっと思っていた。だが、君は違うと言う……」
「で、殿下! それは……」
「深い信頼で繋がっている友人関係でも男女同士ではそれは許されない……。だが私が君に求めている関係は、そういう関係なんだ。君は私にとって常に側にいて欲しい存在であり、それは君にとっても私がそうであって欲しいと願うくらいに……。だが、男女間の友情では私のその欲求は満たされない……。友情は何人とでも育める関係だ。だが、私は君が他の人間と……特に男性とその友情を育もうとする事に堪えられない。他の男が君の中で私と同じ『友人』という立場になってしまうのは嫌だ……。とても傲慢で狭量な考えだと自覚しているが、それでも私は君にとって自分が特別で……一番一緒にいたいと思って貰えるような存在であって欲しいと言う欲求が止まらない……」
切なげにそう語るフィリクスに対して、アデリーナは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせる。そんなアデリーナの様子に気付かないフィリクスは、更に言葉を続けた。
「だから友情を破棄しようと思った……。少なくとも『友人』と言う関係では、私が君に望んでいる関係は築けないと判断したからだ。だが、それならばどういう関係だったら、私の望む君との関係が成せるのか分からない……。友情以上に親しみある深い関係があるのか? 私は将来の側近候補達と、それなりに心の内を話せるくらいの友情を築けたと思う。その彼らは、私に安心感と居心地の良さを与えてくれる存在だ。だが、君はその中でも別格で……。私はそれを『最高の親友』と言うのだと思っていたが、君の言い分ではそれでも私が求める関係は許されない。ならば……最高の親友以上の存在になってしまった人をどう称すればいい? 私は……自身が君と望んでいる関係の種類が全く分からないが、それでも友情ではその関係に該当しないという事だけは分かる。だから先程のような宣言をしようと……」
そこまで語り尽くしたフィリクスは、がっくりと肩を落として項垂れた。
その様子にアデリーナは、呆れと同時に赤面する。
この王太子は、自分の感情と向き合う事に関して、あまりにも不器用過ぎる。
だが、今の話で自分がフィリクスから求められている関係を嫌でも知ってしまったアデリーナは、それを彼に教えてあげなければならない。
その行動は自意識過剰とも言える内容なのだが……。
だが、そのフィリクスが求めている自分との関係の種類を教えなければ、フィリクスは一生アデリーナに抱いているその感情が何か気付けないだろう。
その為、アデリーナは羞恥心に耐える覚悟で少し顔を赤らめながら、改めてフィリクスと向き合う。
「殿下……。殿下がわたくしに抱いてくださっているその感情は、恐らく友人に抱く感情ではございません。それは『友情』ではなく『恋心』という感情では、ございませんか……?」
そう告げた瞬間、フィリクスが大きく目を見開いた。
正直なところ、アデリーナ自身がこの事をフィリクスに告げる事は、かなり恥ずかしい行為である。何故ならば相手に「多分、あなたは私に恋をしているのよ?」と自ら宣言しているような行動になるからだ……。
だが、恐らく今ここでその事を認識させないと、フィリクスはこのアデリーナに対する感情をずっと『友情』という捉え方しかしない。
ここは、羞恥心に耐えてでもフィリクスに自覚させた方がいいと判断した。
「恋……心……?」
「はい。その……恋心は確かに友情に非常に似た好意や親しみを相手に抱く感情ではありますが、その深さが違います。友情の場合、共に過ごす事での心地良さを感じるのみですが、恋心の場合だと共に過ごす事にかなり執着するような感情を抱きやすいです。何と言うか……友情は惰性的に一緒にいる事への心地良さを感じ、恋心の場合だと相手を独占してでも一緒にいたいと言う強い感情を抱く感じでしょうか……」
「相手を独占……。それは常に側にいて欲しいと感じたり、ずっと見つめ続けたいと思ったり、過剰に触れたいと感じたりもするのか?」
「え、ええ。そのような感情を抱きやすいですね……」
「頬に口付けしたい衝動に駆られたりもするものだろうか……」
「で、殿下はそのように感じた事がおありなのですか!?」
「ある。だが、流石に友人に対する接し方としては非常識な行為だとは認識していた」
「…………」
衝撃的な告白内容にアデリーナが顔を赤らめて深く俯く。
しかしフェリクスの方は、何故か安堵の表情を浮かべた。
「そうか。私がアディに対して抱いていたのは『友情』ではなく『恋心』だったのか……。なるほど。それならば納得出来る。私が君を常に側に置きたいと望むのも、過剰に触れたいと感じるのも、深く抱きしめたいと求めてしまうのも全て君に深い恋愛感情を抱いていたからだったのだな!」
「殿下……。そのような恥ずかしい事を堂々と宣言なさるのは、おやめ頂きたいのですが……」
「恥ずかしい? とても素晴らしい事じゃないか! 政略的結婚が当たり前の王侯貴族の婚約だが、私はしっかりと恋愛結婚出来るのだから」
「それは……そうなのですが……」
「もしやアディは、私に友情しか感じられないのか……?」
急に捨てられた子犬のように庇護欲をそそられる表情で見つめ返して来たフィリクスの反応にアデリーナが慌てて否定する。
「そ、そのような事は!!」
「良かった……。ならば今後は今までのように遠慮せず、君との過剰なスキンシップを行っても問題ないな」
「はい?」
「友人同士では不適切な接し方に捉えられてしまうが、将来の伴侶となる婚約者同士の接し方ならば、微笑ましい交流の仕方になるのだから不適切にはならないだろう?」
「そ、それは違います! いくら婚約者同士でも殿下のような身分の高い方は、他貴族のお手本になるよう振る舞わなければならないので、公の場では婚約者相手でも節度ある接し方をされないと品位に問われるかと!」
「それは人目がない場所でなら、過剰なスキンシップは可能という事だな」
「ち、違います! そもそも何故そこまでわたくしとの過剰スキンシップに拘るのですか!?」
「何故って……そんなの君が愛らし過ぎる事が原因じゃないか……」
「なっ……!!」
サラリと放たれたフィリクスの言葉にアデリーナは耳まで真っ赤になった状態で絶句した。しかし、当のフィリクスの方は、先程までの絶望感などどこかに放り投げた様に幸福感溢れる笑みを浮かべている。
「そう考えると、先程の私の友情破棄宣言は良い結果をもたらす行動だったな。何故ならば私は君と友情ではなく、愛情を育みたかったのだから」
そう言って、自身が抱いていた恋心を自覚した事で満たされた気持ちに浸っていたフィリクスだが……その余韻をぶち壊す一言が、部屋の扉の向こうに控えている側近二人から飛んできた。
「殿下、ご歓談中のところ誠に申し訳ないのですが……」
「先程から陛下がお呼びです。しかも、かなりお怒りのご様子で……」
側近二人から放たれたその一言で、フィリクスの顔色は一瞬で色を無くした。
そして翌日から、一カ月間。
フィリクスは夜会で騒ぎを起こした責任として、アデリーナと面会すらさせて貰えず、ずっと執務室に監禁状態で、ひたすら公務をこなすと言う罰が下された……。
ちなみに例の『友情破棄宣言』に関しては、二年後に成人するのと同時にアデリーナとの挙式が決まった事に歓喜したフィリクスが先走ってしまい、自分達は友情ではなく愛情で深く繋がっている事を皆に宣言をしようとして失敗してしまった、というかなり無茶な設定で片付けられた……。
だがそのお陰で、フィリクスの婚約者の座を狙っていた令嬢達は激減する。
同時にアデリーナの方は、王太子から一心に愛情を注がれている存在として社交界で有名となり、フィリクスと公の場に出ると常に周りから微笑ましい笑みを向けられるようになってしまったのだった……。
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