お題を消化していくよ

いえろ~

文字の大きさ
1 / 4
いただいた題材の小説

カラス

しおりを挟む
 僧も走る程の大忙しな時期、俺はどこを走っているかわからず、途方に暮れていた。

 頭の何かが「切れた」のは今日の午前中、派遣社員でぞんざいな扱いをされ、何とか繋いでいたのだが、遂に鬱憤を晴らすように怒鳴り散らして会社を出ていったのだ。

 それからと言うもの、小さい野球場と川と不法投棄のゴミ袋しかない殺風景な河川敷の土手で、ずっと寝っ転がっていた。

 空を流れる雲を見つめては、即興の詩をボソボソと呟いている。三流大学の文学部で得た少しばかりの知識と感性は、就職では全く役に立たなかった。

 いつしか、中学生が野球場で練習を始めた。おじさんの怒号が聞こえる。恐らく部活だろう。俺と同じ三流チームの。いや、それだと未来ある少年達に失礼か。

 俺は上体を起こし、野球場を見る。あの頃は、俺はまだ「未来ある少年」だったのだろうか。少なくとも、何かに夢中だった覚えはあるが、それが何だったかは、これもまた忘れてしまった。

 中学生達が帰っていくと、俺はまた寝っ転がった。日はとっくに暮れ、薄暗い。

 風が強く吹いてきた。

 真上を、カラスが翼を広げ止まっている。

 いや、動いている。

 進もうとしている。

 風に抗おうと、翼を動かしている。

 しかし、風に煽られ、なかなか前に進まない。

 辺りは暗かったはずなのに、カラスだけは容易に目視できた。

 かと思えば、風が少しだけ弱くなった一瞬、カラスはタイミングを見計らっていたかのようにもう彼方へ飛んでいってしまった。

「黒な何色でさえも黒にする。黒は絶望の色だ。闇の色だ。だがしかし、微かな希望を持ってさえいる」

 そんな、ありきたりな短文を言ってみる。

 言葉は風に運ばれる。

「人々は黒を恐れる。見ても見ても果てがないから。でも、そこに光があると知っている者は、飛び込むことを臆することはない」

 そして。

 12月中旬の、風が強い夕方5時くらいのことだった。
 


「あん時のあれよかったな...なんだっけ。あぁ、あれだ。カラスだ」

 俺はあの時に会い、目の前にいる妻に話しかける。

「カラスなんて、しょっちゅう見かけるじゃない。それに見た鳥の名前ですらも思い出さなくちゃ言えないだなんて」

「過去との決別だよ」

 あれから、俺はありきたりな小説を書き続けている。この間、独自に小説を刊行した。というのも、妻が勝手にしてしまったのだが、俺に勘づかれることなくできたのは、俺の鈍感さか、妻の行動力か。

 タイトルは、まだ知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...