転生を繰り返してたら神様に惚れられました

丸太

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1章 

1. はじめのはなし

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ふわりと花の香りが鼻孔をくすぐる。

温かい。

これは誰かの匂いで体温だ。

目が覚める。

目の前には男性とも女性とも言えない、あるいはどちらとも言えそうな、完璧な美貌があった。

青みがかった銀髪のシルバーアイ。

透けそうに白い肌。

私は彼を知っている。

「ガイア様?」

呼び掛けに彼は優しく目を細めてくれる。

周りを見渡すとそこは白亜の豪邸。その邸内。

窓辺の向こう、テラスのその向こうは海のようにエメラルドに輝いている。

明るい陽射し。

暑くも寒くもない快適空間で彼はソファーに座り、私を赤ん坊のように横抱きにしていた。

「私、またここに戻ってしまったのね」

あえて抱っこスタイルは突っ込まずにおく。

「そうだねぇ、君は今回も人生に満足しなかったようだ」

私の髪や額にキスをしながら彼は穏やかに言う。

私がここへ来たのは何度目だろう。





ここは、転生の間。

命を失った者が奇跡の割合でここへ飛ばされる。

そしてここへ来ると別の世界へ魂が転生される。

私のように何度も転生を繰り返す者を『渡り人』と呼ぶらしい。





ガイアは多分神様で、転生を管理している。

私は何故だか過去に何度もここへ飛ばされ、その度に転生を繰り返している。

それでも生き足りないのか、今回もまたここに来てしまった。
どんだけ欲深いんだろう。

「今回の私、結構頑張ったんだけどなー」

私はガイアの膝の上でぐいーっと伸びをして、直前の人生を振り返る。
人にも環境にも恵まれた、相当充実した良い人生だった。

それでもまだ人として生きたいか、私。

「そうだねぇ。今度こそ僕のお嫁さんになってくれると思ったのに」

ガイアは少し残念そうに笑った。





実は何回目かの転生の間で、私は人としての生を終えたら、ガイアのそばでガイアのお手伝いをする約束をしたのだ。

約束をするとガイアのように『生き物』ではない何かへ生まれ変わる権利を得るらしい。
ただ、本心から『生き物』ではない何かへの生まれ変わりを望まなければ、その権利は発動されない。

今、いつものように転生の間にいるということは、私はまた心のどこかで『生き物』として生まれ変わることを望んだのだろう。





「さて、今度はどんな世界に生まれたいかい?」

気分を変えるようにガイアは明るい口調で聞いてくる。

『渡り人』となった最初のうちは、私も何だかんだと希望を出した。

魔法使いになりたい。

妖精になりたい。

長ーい人生を送りたい。

国を治めてみたい。

大金持ちになりたい。アホみたいに強くなりたい。何にもしないで幸せに生きていたい。モフモフしたい。グダグダしたい。バリバリ働きたい。


ーーー、やり尽くした気がする。


それでもまだ本能は生きたいと望んでいるらしい。

私はガイアの膝の上から飛び降りた。

「そうだな。今回は何も要らないし、何も指定しないことにする」

何でもいい。どんな世界でもいい。

やけになったわけではない。

予測されない人生をあえて望んでみた。
人生万事塞翁が馬。
今度はそんな人生を思いっきり生きてやろうじゃないの。





「だめだめだめだめ!」

ガイアが私をぎゅうぎゅう抱き締める。

「もし君が痛かったり苦しかったりしたら、私が耐えられない! また最初の時みたいな辛い思いはさせたくない!」

私の最初の人生。

あまり覚えてないけど、虐待されて苦しみしかない人生を16歳で終えたんだったっけかな。
気づいたらガイアがわんわん泣いていて、ここ転生の間で私の心と身体の傷を必死に癒してくれていた。

それが彼との出会いだ。

「確かにあれはあんまりだったけど、けど、お願い。今回は何も持たないで知らない世界に飛び込んでみたいの。
予定調和のない人生よ」

私はガイアの腕の中で、懸命に上を向いて背の高い彼のその美しい顔を見ながら説得した。

「きっとその方が私は満足するし、満足すればこの転生のループを終わらせることが出来るかも。
そうしたら、きっとガイアと同じ存在として生まれ変われるわね。
それにね、なんでかな、そんなに酷い目には合わないと思うの。
なんといっても既に存在がもうチートだから、人並みに生きて行けそうな気がするわ」

私は何も心配は無いと笑って見せた。

ガイアのもとに生まれ変われる、という言葉に彼は渋々と了承した。
私を抱き締める腕をほどき、肩に両手を置かれ向き合う。

「せめて無限魔力だけでも持っていかない?」

私を覗き込みながらガイアは言う。

「いらない。ふふ。それ、最強じゃない。いらないわ」

「じゃあ、無限アイテムボックスは? 空間移動能力だけでも付ければ何かあった時逃げられるよ?」

「いつもチートだったわね。でも今回はいらないわ」

「じゃあ、じゃあ、せめて僕の加護だけは持っていってよ。お願いだから」

私の肩に置かれた手に力が入るのがわかる。
ガイアの美貌は今にも泣き崩れそうで、ついつい絆されてしまう。

「うーん、じゃあ、それだけね」

私の妥協にガイアの表情がパッと明るくなる。
ガイアは美しい手を私の額に当て、じっくりと私に加護を与えた。

「どうかどうか、この子が無事で、幸せでありますように」

ガイアの小さな声に私は感謝する。
これだけ願ってくれるんだもの、不幸になんてならないはず。

「では、行きますか!」

私がふん切りを付けるように言うと、地面にぽっかりと穴が空いた。

穴の中は海底のように揺らめきエメラルドに輝いている。
そこにはたくさんの細い糸が、光を反射するようにキラキラと漂っている。
この一本一本があらゆる世界線なのだ。

今まではこの糸もガイアが選んでくれて、その世界線に送り込んでくれた。
でも今回は選ばずに行く。

「ガイア様、またね!」

言うと私はおもむろに穴に飛び込んだ。

最後にガイア様の「あああああ」という情けない声が耳に残った。
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