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1章
13. 母嵌る
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「おお、おかえり。何か目ぼしい物はあったかい?」
倉庫から戻り玄関を入ると、階段からお父様が下りてきた。
「ソフィア様の指示で倉庫内の保管品リストが作られ、ソフィア様の指示で修復出来るものは修復されていましたので、バザーにはそれなりの数を出品できそうです。」
すかさずセバスチャンが答える。
お父様はひたと私を見る。
なんか、目が据わっていますよ。
「・・・私の娘は素晴らしいな」
いや、お父様、人を褒める顔じゃありませんよ、それ。
「ところでレオン。ソフィアの言っているチャリティーバザーとかお掃除とかの意味はわかるかな?」
目を据わらせたままお父様はレオン様に聞く。
「だいたいは」
レオン様、ちょっと戸惑っております。
「ならばソフィアとエリーの説得に当たってくれ。私は少し領地を見ておかなければならないので馬で廻ってくる。アレクとアドもおいで」
いそいそと出掛けてしまうお父様。
お兄様お二人もチラチラとこちらを振り返りながらも付いて行ってしまいました。
残された私とレオン様。
「説得?」
お母様は会議室にいるというので行ってみると、メイドたちがタンスやらベッドやらの家具を運び込んでいる最中だった。
美術品や衣装なども運ばれ、敷かれた布の上に広げられている。
私たちに付いていた従者が数名、力仕事をしているメイドたちの元へ駆けつけてお手伝いに回った。
うん、紳士でよろしい。
ところでここに集められた物はお母様のお部屋の物?
「あら、ソフィアにレオン様も。お帰りなさいまし」
突然タンスの前にいたメイドたちの中からお母様の声がした。
驚いたことにお母様はドレスを着替え、メイドたちと同じような服を着ている。
そこにいらしたとは気付きませんでした!
「どうなさったの、お母様。この家具はお母様のお部屋から運んだのですか?」
私はお母様に近付いて訳を聞く。
「ええ、断捨離よ。いらないの」
なんと!
シルエット家歴代の奥様達が使われた家具をいらないと!
「あなたに断捨離を教わって、まずは私の部屋からと思ったのよ。もう着ない衣装を選んでいるうちに、この古い家具もいらなく思えてしまったのよ」
それでお着替えまでして、メイドたちと部屋の物を運び出していたと。
「お母様、いいのですか? これらの家具は物凄い価値がございますのよ」
確かめるとお母様は頷きました。
「こんな古い、価値だけが高くて使いづらい家具、もう使いたくないの」
「お母様・・・」
私が言葉を詰まらせると
「確かにこれはヘタッていますね」
とレオン様がそこにあったソファーに腰かける。
「これでは埋もれてしまって立ち上がるのもお辛いでしょう。腰も痛くなりそうだ」
「そう、そうなんですのよ! わかっていただけて嬉しいわ! 確かに素晴らしい家具かも知れませんが、ベッドも柔らか過ぎますし、タンスの建て付けも悪くなっているのです!」
ほら、ほら、と言いながらお母様はタンスの扉をキーキー鳴らして開け閉めしています。
「日常でお使いになるものが不便だと小さなイライラが溜まりますね」
気遣わしげなレオン様の声に
「そうなのよ!」
と、お母様は同情いただけて嬉しそうです。
あっという間にレオン様がお母様の心を掴みました。
なんですか?
マダムキラーですか?
でも確かに価値あるアンティーク品でも使うお母様が不便を感じるなら使う意味がないわ。
「そしてわたくし、ひとつの光明を得たのです! 長年の問題が解決されるのよ!」
お母様は私の手を握って力説します。
何がお母様を悩ませていたというのでしょう?
「ソフィア。あなたは北棟へ行ったことはある? 」
お母様のお美しいお顔が怖いくらい真剣です。
北棟、セバスチャンも話していた。
「行ったことはありません。セバスチャンが使わなくなった衣装が大量に保管されていると言っていました」
「ふふ、衣装だけじゃないのよ。見ればわかるわ。そこに私が長年目を反らし続けた問題があるの。ついてらっしゃい」
私とレオン様はど迫力のお母様に連れられて、普段は立ち入らない北棟へ足を踏み入れた。
そこは主に使用人たちの使う部屋や、家事室、事務室、休憩室、業者たちの出入りする搬入口など、邸での生活の裏方が詰まった場所だった。
すれ違う使用人たちが驚いて廊下の壁際に引き下がっていく。
モーゼ?
だっけ?
そしてひとつの部屋に通される。
「ここは・・・」
思わず絶句してしまった。
押し込められた家具の山。
人1人が通れる隙間を残し、奥からびっしりと家具が並べられている。
そしてどれも素晴らしく手の込んだ意匠が施されている。
「レジルナ・ルッカルナ工房の家具だ。王室御用達の。我が家もこちらの家具を愛用していますよ」
近場の家具の一つ一つを丁寧に見やりながらレオン様は有名な家具工房の名を当てた。
「そうなのです。毎年、新シリーズの家具が一式届くのです」
ため息混じりにお母様が言います。
「こちらの家具をどうすべきか毎年悩みつつ、この物置部屋に放置していたのです。でも、どれも素晴らしいでしょう? 本音を言えば価値ある使い古しより、豪華な新しい家具が使いたいわ」
よくよく聞けばレジルナの家具だけでなく、邸には様々な業者から様々な物が贈られて来るらしい。
「食品なんかは調理場に流しているし、化粧品とかはメイドたちに配ったりして何とか使おうと努力しているのよ。でも処理しきれず貯まっていくものもたくさんあるの」
我が家の食器が二回使われないのがわかってきた。
こうやって伯爵家と懇意にしたい業者が次々と新作だ、サンプルだ、といって献上してくるのですね。
「だからね、断捨離ついでにこれらを使うことにしたわ! 家具も新しくして、しばらくしたらバザーで売る。そうやって回転させるのよ。もちろん売り物には推薦文などをつけるわ。そうすれば体裁も保てるでしょう?」
なるほど。
これは、たしかに悩みの種だったでしょう。
そして新旧を回転させる解決案に辿り着いたのですね。
「ソフィア、あなたのお部屋も模様替えよ。好きなシリーズを持っていきなさい。使えるアンティークは客室に残して、他はみーんな模様替えよ! あ、カーテンもカーペットも山のようにあるから家具に合わせて変えてちょうだい!」
おほほほほ!
と、高笑いなさるお母様。
「断捨離、気持ちいい!」
と叫んでおります。
ちょっと思ったのと違いますが、お掃除としては、うん、ありです。
ごめんなさい、お父様。これは止められません。
バザーの準備に加え模様替えが始まってしまいました。
古い家具はちゃんと修復師に頼んで修理させ、アンティークとして倉庫で管理させておかなければ。
そして、忘れずに布石も打っておかなければなりません。
「お母様、今度のバザーは主に食器と衣装を出品するのです。でも来年には、家具も出品出来ますわね。」
チラリと視界の端にレオン様の呆れ顔がありました。
倉庫から戻り玄関を入ると、階段からお父様が下りてきた。
「ソフィア様の指示で倉庫内の保管品リストが作られ、ソフィア様の指示で修復出来るものは修復されていましたので、バザーにはそれなりの数を出品できそうです。」
すかさずセバスチャンが答える。
お父様はひたと私を見る。
なんか、目が据わっていますよ。
「・・・私の娘は素晴らしいな」
いや、お父様、人を褒める顔じゃありませんよ、それ。
「ところでレオン。ソフィアの言っているチャリティーバザーとかお掃除とかの意味はわかるかな?」
目を据わらせたままお父様はレオン様に聞く。
「だいたいは」
レオン様、ちょっと戸惑っております。
「ならばソフィアとエリーの説得に当たってくれ。私は少し領地を見ておかなければならないので馬で廻ってくる。アレクとアドもおいで」
いそいそと出掛けてしまうお父様。
お兄様お二人もチラチラとこちらを振り返りながらも付いて行ってしまいました。
残された私とレオン様。
「説得?」
お母様は会議室にいるというので行ってみると、メイドたちがタンスやらベッドやらの家具を運び込んでいる最中だった。
美術品や衣装なども運ばれ、敷かれた布の上に広げられている。
私たちに付いていた従者が数名、力仕事をしているメイドたちの元へ駆けつけてお手伝いに回った。
うん、紳士でよろしい。
ところでここに集められた物はお母様のお部屋の物?
「あら、ソフィアにレオン様も。お帰りなさいまし」
突然タンスの前にいたメイドたちの中からお母様の声がした。
驚いたことにお母様はドレスを着替え、メイドたちと同じような服を着ている。
そこにいらしたとは気付きませんでした!
「どうなさったの、お母様。この家具はお母様のお部屋から運んだのですか?」
私はお母様に近付いて訳を聞く。
「ええ、断捨離よ。いらないの」
なんと!
シルエット家歴代の奥様達が使われた家具をいらないと!
「あなたに断捨離を教わって、まずは私の部屋からと思ったのよ。もう着ない衣装を選んでいるうちに、この古い家具もいらなく思えてしまったのよ」
それでお着替えまでして、メイドたちと部屋の物を運び出していたと。
「お母様、いいのですか? これらの家具は物凄い価値がございますのよ」
確かめるとお母様は頷きました。
「こんな古い、価値だけが高くて使いづらい家具、もう使いたくないの」
「お母様・・・」
私が言葉を詰まらせると
「確かにこれはヘタッていますね」
とレオン様がそこにあったソファーに腰かける。
「これでは埋もれてしまって立ち上がるのもお辛いでしょう。腰も痛くなりそうだ」
「そう、そうなんですのよ! わかっていただけて嬉しいわ! 確かに素晴らしい家具かも知れませんが、ベッドも柔らか過ぎますし、タンスの建て付けも悪くなっているのです!」
ほら、ほら、と言いながらお母様はタンスの扉をキーキー鳴らして開け閉めしています。
「日常でお使いになるものが不便だと小さなイライラが溜まりますね」
気遣わしげなレオン様の声に
「そうなのよ!」
と、お母様は同情いただけて嬉しそうです。
あっという間にレオン様がお母様の心を掴みました。
なんですか?
マダムキラーですか?
でも確かに価値あるアンティーク品でも使うお母様が不便を感じるなら使う意味がないわ。
「そしてわたくし、ひとつの光明を得たのです! 長年の問題が解決されるのよ!」
お母様は私の手を握って力説します。
何がお母様を悩ませていたというのでしょう?
「ソフィア。あなたは北棟へ行ったことはある? 」
お母様のお美しいお顔が怖いくらい真剣です。
北棟、セバスチャンも話していた。
「行ったことはありません。セバスチャンが使わなくなった衣装が大量に保管されていると言っていました」
「ふふ、衣装だけじゃないのよ。見ればわかるわ。そこに私が長年目を反らし続けた問題があるの。ついてらっしゃい」
私とレオン様はど迫力のお母様に連れられて、普段は立ち入らない北棟へ足を踏み入れた。
そこは主に使用人たちの使う部屋や、家事室、事務室、休憩室、業者たちの出入りする搬入口など、邸での生活の裏方が詰まった場所だった。
すれ違う使用人たちが驚いて廊下の壁際に引き下がっていく。
モーゼ?
だっけ?
そしてひとつの部屋に通される。
「ここは・・・」
思わず絶句してしまった。
押し込められた家具の山。
人1人が通れる隙間を残し、奥からびっしりと家具が並べられている。
そしてどれも素晴らしく手の込んだ意匠が施されている。
「レジルナ・ルッカルナ工房の家具だ。王室御用達の。我が家もこちらの家具を愛用していますよ」
近場の家具の一つ一つを丁寧に見やりながらレオン様は有名な家具工房の名を当てた。
「そうなのです。毎年、新シリーズの家具が一式届くのです」
ため息混じりにお母様が言います。
「こちらの家具をどうすべきか毎年悩みつつ、この物置部屋に放置していたのです。でも、どれも素晴らしいでしょう? 本音を言えば価値ある使い古しより、豪華な新しい家具が使いたいわ」
よくよく聞けばレジルナの家具だけでなく、邸には様々な業者から様々な物が贈られて来るらしい。
「食品なんかは調理場に流しているし、化粧品とかはメイドたちに配ったりして何とか使おうと努力しているのよ。でも処理しきれず貯まっていくものもたくさんあるの」
我が家の食器が二回使われないのがわかってきた。
こうやって伯爵家と懇意にしたい業者が次々と新作だ、サンプルだ、といって献上してくるのですね。
「だからね、断捨離ついでにこれらを使うことにしたわ! 家具も新しくして、しばらくしたらバザーで売る。そうやって回転させるのよ。もちろん売り物には推薦文などをつけるわ。そうすれば体裁も保てるでしょう?」
なるほど。
これは、たしかに悩みの種だったでしょう。
そして新旧を回転させる解決案に辿り着いたのですね。
「ソフィア、あなたのお部屋も模様替えよ。好きなシリーズを持っていきなさい。使えるアンティークは客室に残して、他はみーんな模様替えよ! あ、カーテンもカーペットも山のようにあるから家具に合わせて変えてちょうだい!」
おほほほほ!
と、高笑いなさるお母様。
「断捨離、気持ちいい!」
と叫んでおります。
ちょっと思ったのと違いますが、お掃除としては、うん、ありです。
ごめんなさい、お父様。これは止められません。
バザーの準備に加え模様替えが始まってしまいました。
古い家具はちゃんと修復師に頼んで修理させ、アンティークとして倉庫で管理させておかなければ。
そして、忘れずに布石も打っておかなければなりません。
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