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1章
18. もったいない
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「もったいないから」
「ちょうだい」
レオン様の声が私の頭の中に木霊した。
「レオン様!」
壁際に控えていたレオン様の従者が窘めの声を出した。
貴族ともあろう者が、しかも侯爵家の令息が、他人の物を欲しがるなど前代未聞の醜聞だ。
そう。本来ならば。
「お礼だよ。今日は重い家具をたくさん運んだからね。お礼にちょうだい(ハートマーク)」
レオン様は悪びれず最高の笑顔を振り撒きます。
「お礼は欲するものではありません」
従者は更に厳しい声を出す。
「そうか、お礼か」
「うん、お礼、お礼」
アレク兄様とアド兄様は、お礼ならいいのでは?と次々にレオン様に似合いそうな衣装を探し出す。
「ほら、君にもお礼(ハートマーク)」
とアド兄様が、しかめ面でレオン様に苦言を呈している従者の1人に、お父様のグレーのスーツを宛がう。
「似合うじゃん(ハートマーク)」
アド兄様ったら、レオン様から何を学んだのだか。
りっぱにハートマークが出せるようになっています。
そしてアド兄様のにっこり笑顔は、レオン様のお顔を見慣れた従者たちにも有効だったようで、いかつい従者は顔を真っ赤にして慌てている。
レオン様とアド兄様では美形の種類が違いますからね。
そんな男子のわちゃわちゃを見守って理解する。
先程、ドレスに鋏を入れた際の侍女たちの反応。
あれは「もったいない」と思っているのね。
さらに言えば「もったいない」は「欲しい」に直結することもあるわけね。
「これは、ありかしら?」
私の小さなつぶやきを聞きつけたレオン様が、品評会と化したお兄様と従者たちの元を離れて近づいてきた。
やっぱり少し緊張します。
「あり、だと思うよ」
先程のおちゃらけたハートマークとは違い、柔らかい笑顔です。
「縁もゆかりもない者たちではないのだし、日頃の感謝でも、これからの応援でも、何でもいい。序列を間違えずに『お礼』するのはおかしなことではない。それにシルエット家の方々が愛用した衣装なら、おさがりでも表に出せる一級品だよ」
私の思いついたことがレオン様には正確におわかりのようです。
いや、むしろレオン様に促されたアイデアだわ。
「私たちの衣装を麾下の者に下ろすことを習慣化する・・・」
アイデアが体裁と形を整えてくる。
「婦女子の嗜みは裁縫でしょう? 自分サイズに仕立て直すなんてお手の物だ。旦那や息子の服ぐらいちゃちゃっと手直し出来るだろう」
レオン様がさらに外堀を埋める。
例えばサイズが合わなくても直す技術はあるのだ。
婦女子の嗜みとしてソフィアも幼いころから刺繍や裁縫を叩き込まれた。
今日、どれだけの人数がお手伝いに来たのかしら?
皆、日頃からシルエット辺境伯の下で苦楽を共にしている仲間だ。
バザーで売るより彼らに還元するのが先よね。
「お父様、いえ、これはお母様の案件だわ。シャロン、行くわよ!」
私は侍女にお母様への先触れを頼む。
お母様のお許しを頂けたら、彼女たちも喜んでくれるかしら。
「レオン様」
私はアイデアの足掛かりをくれたレオン様に向き合った。
「ありがとうございます」
今日初めて忌憚なくその美しいお顔を正面から見つめた私は、エプロンドレスのスカートを上品に摘まみ上げ、最上級のご挨拶を送った。
「いい、それ良いわ!」
「え、良いのですか?」
あっさりとお母様の了承が下りたので聞き返してしまった。
「だって我が家の麾下にどれだけの貴族がいると思うの? 10はくだらないわ。彼らの社交での装いが上がるならそれに越したことはないじゃない」
「なるほど」
「そうね、1人につき3着、与えましょう」
下級とはいえ貴族ならばそれなりの付き合いもある。社交のシーズンには最低3着は衣装を新調するはずという計算ですね。
「それぞれ自分たちに合わせて仕立て直しても相当良い物になるはずよ。ふふ・・・我が家の麾下たちが良い衣装を着ていると、シルエット家の評判も上がるのよね」
お母様のいいね!ポイントはそこでしたか。
ぶれません。
私は自分の「もったいない」という思いを解消する方法として衣装を下ろす提案をしましたが、お母様はシルエット家の評価を上げる方法として捉えたのですね。
流石です。
「今後は定期的に使わなくなった衣装を我が家に仕える者たちに下ろしましょう」
お母様から快く許可を頂けました。
それを受け、私は今日手伝いに来てくれた方々を集め、明日から3日間の『伯爵家衣装譲渡会』の開催を宣言したのでした。
私がドレスをチョン切る様を見て悲嘆に暮れていた侍女たちも、笑顔で喜んでくれています。
先程は高価なものに鋏を入れるという、辛い現場を見せてしまってごめんなさい。
それからの3日間は、辺境伯麾下の貴族や使用人たちが家族を連れてシルエット邸を訪れては、大量の荷物を持ち帰る光景が見られました。
「ちょうだい」
レオン様の声が私の頭の中に木霊した。
「レオン様!」
壁際に控えていたレオン様の従者が窘めの声を出した。
貴族ともあろう者が、しかも侯爵家の令息が、他人の物を欲しがるなど前代未聞の醜聞だ。
そう。本来ならば。
「お礼だよ。今日は重い家具をたくさん運んだからね。お礼にちょうだい(ハートマーク)」
レオン様は悪びれず最高の笑顔を振り撒きます。
「お礼は欲するものではありません」
従者は更に厳しい声を出す。
「そうか、お礼か」
「うん、お礼、お礼」
アレク兄様とアド兄様は、お礼ならいいのでは?と次々にレオン様に似合いそうな衣装を探し出す。
「ほら、君にもお礼(ハートマーク)」
とアド兄様が、しかめ面でレオン様に苦言を呈している従者の1人に、お父様のグレーのスーツを宛がう。
「似合うじゃん(ハートマーク)」
アド兄様ったら、レオン様から何を学んだのだか。
りっぱにハートマークが出せるようになっています。
そしてアド兄様のにっこり笑顔は、レオン様のお顔を見慣れた従者たちにも有効だったようで、いかつい従者は顔を真っ赤にして慌てている。
レオン様とアド兄様では美形の種類が違いますからね。
そんな男子のわちゃわちゃを見守って理解する。
先程、ドレスに鋏を入れた際の侍女たちの反応。
あれは「もったいない」と思っているのね。
さらに言えば「もったいない」は「欲しい」に直結することもあるわけね。
「これは、ありかしら?」
私の小さなつぶやきを聞きつけたレオン様が、品評会と化したお兄様と従者たちの元を離れて近づいてきた。
やっぱり少し緊張します。
「あり、だと思うよ」
先程のおちゃらけたハートマークとは違い、柔らかい笑顔です。
「縁もゆかりもない者たちではないのだし、日頃の感謝でも、これからの応援でも、何でもいい。序列を間違えずに『お礼』するのはおかしなことではない。それにシルエット家の方々が愛用した衣装なら、おさがりでも表に出せる一級品だよ」
私の思いついたことがレオン様には正確におわかりのようです。
いや、むしろレオン様に促されたアイデアだわ。
「私たちの衣装を麾下の者に下ろすことを習慣化する・・・」
アイデアが体裁と形を整えてくる。
「婦女子の嗜みは裁縫でしょう? 自分サイズに仕立て直すなんてお手の物だ。旦那や息子の服ぐらいちゃちゃっと手直し出来るだろう」
レオン様がさらに外堀を埋める。
例えばサイズが合わなくても直す技術はあるのだ。
婦女子の嗜みとしてソフィアも幼いころから刺繍や裁縫を叩き込まれた。
今日、どれだけの人数がお手伝いに来たのかしら?
皆、日頃からシルエット辺境伯の下で苦楽を共にしている仲間だ。
バザーで売るより彼らに還元するのが先よね。
「お父様、いえ、これはお母様の案件だわ。シャロン、行くわよ!」
私は侍女にお母様への先触れを頼む。
お母様のお許しを頂けたら、彼女たちも喜んでくれるかしら。
「レオン様」
私はアイデアの足掛かりをくれたレオン様に向き合った。
「ありがとうございます」
今日初めて忌憚なくその美しいお顔を正面から見つめた私は、エプロンドレスのスカートを上品に摘まみ上げ、最上級のご挨拶を送った。
「いい、それ良いわ!」
「え、良いのですか?」
あっさりとお母様の了承が下りたので聞き返してしまった。
「だって我が家の麾下にどれだけの貴族がいると思うの? 10はくだらないわ。彼らの社交での装いが上がるならそれに越したことはないじゃない」
「なるほど」
「そうね、1人につき3着、与えましょう」
下級とはいえ貴族ならばそれなりの付き合いもある。社交のシーズンには最低3着は衣装を新調するはずという計算ですね。
「それぞれ自分たちに合わせて仕立て直しても相当良い物になるはずよ。ふふ・・・我が家の麾下たちが良い衣装を着ていると、シルエット家の評判も上がるのよね」
お母様のいいね!ポイントはそこでしたか。
ぶれません。
私は自分の「もったいない」という思いを解消する方法として衣装を下ろす提案をしましたが、お母様はシルエット家の評価を上げる方法として捉えたのですね。
流石です。
「今後は定期的に使わなくなった衣装を我が家に仕える者たちに下ろしましょう」
お母様から快く許可を頂けました。
それを受け、私は今日手伝いに来てくれた方々を集め、明日から3日間の『伯爵家衣装譲渡会』の開催を宣言したのでした。
私がドレスをチョン切る様を見て悲嘆に暮れていた侍女たちも、笑顔で喜んでくれています。
先程は高価なものに鋏を入れるという、辛い現場を見せてしまってごめんなさい。
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