生徒会長は不登校!?

中村健一

文字の大きさ
9 / 11

憂鬱

しおりを挟む


 月曜日。午前6時。
 いつものように起床すると、水道水を飲み干して目を覚ました。

 部屋が異常に暗いと思って窓に目をやると、ぽつぽつと雨が降り始めていた。

 俺は少し憂鬱な気分になりながら朝食を作っていると、めずらしく飾莉が起きてきた。

「おはよう、飾莉」
「……」
「どうした? 学校の支度しなよ」
「……行きたくない」

 はあ、と思ったが──ああ雨だからか、と俺は理解した。
 飾莉は寝癖頭にいつものパーカー姿で、ぼーっと立っている。
 寝ぼけているのかな……? と思いつつ、台所で料理を続けた。


 テレビの天気予報では、やはり全国的な雨のようで、傘が必須だと気象予報士が言う。
 朝食を口に運びながら画面に目を向けていると、箸に手をつけていない飾莉の様子に気づいた。

「もしかして、具合わるい?」
「ううん」

 おでこに手をやる。
 熱はないようだ……。

 結局、飾莉は朝食を少し残したまま、学校の支度を始めた。

「あれ、ランドセルのぬいぐるみはどうした?」

 以前まで大事そうに付けてていた、ランドセルのキーホルダーがないことに気づいた。

「…………友達にあげた」

 ……あげた?
 あんなに気に入ってたものなのに、そう簡単にあげられるのなのだろうか。

 ──まあ、友達ができたのは良いことだ。
 友人同士なら、物の交換とか、そういったやり取りもあるのだろう。

 飾莉が、ランドセルの前でかたまっていた。

 どうしたのかな、と中を覗き込むと、筆箱が見当たらなかった。

「筆箱どうしたの?」
「……学校に忘れた」

 そう言うと、教科書やノートをしまい込む飾莉。

 なんだか様子がおかしいな……。
 そう思いつつ、時刻が7時30分を過ぎていることに気づき、自分も急いで制服を着ることにした。



「今日は雨だから、傘を持っていきなよ」
「うん」

 そういって、ビニール傘を手渡す。

 アパートの廊下を歩いていると、6号室のドアが目に入った。
 今日も久園寺さんは学校に行かないんだろうか。
 チャイムを鳴らそうと迷ったが、時間がないことを懸念してそのまま通り過ぎていった。


***


 午後の授業は上の空で過ぎていった。
 ホームルームが終わり、担任が注意事項を告げて学級委員の号令で起立、礼、着席。
 教室から生徒たちが消えていくなかで、ノートや教科書を鞄に詰める。

 窓の外をみる。
 土砂降りの雨の音がけたたましく鳴っている。
 空は厚い雲で覆われ、町全体が薄闇に包まれていた。

「国井くん、いるー?」

 教室の出入り口から顔を出したのは、副生徒会長の小島さんだった。
 胸に大量の書類をかかえて、教室全体を見回すように俺を探している。

 小島さんに呼び出されて廊下に出た。

「この前は書類ありがとう。生徒会の仕事押し付けちゃってごめんね!」

 小島さんは頭をさげると、赤髪のサイドテールが揺れた。

「いや、大丈夫だよ」
「それよりさ、久園寺さんのことなんだけど……彼女元気にしてた?」
「うん、元気だったよ」

 小島さんは「そっか……」とつぶやく。
 小島さんは彼女のことを心配しているんだろうな、と思った。

「わかった、ありがとう。それだけ。じゃあね!」

 手を振ると、忙しそうに廊下を小走りで駆けていく。
 あの人も大変だな……。



 昇降口から外靴に履き替え、校門を出た所で気付く。

「今日は飾莉来てないのか……」

 いつもなら毎日ここで待っているはずなのだが、その姿は見当たらない。
 雨だから先に帰ってるのかな?
 そう思って俺は一人で帰路についた。


 アパートに帰ると、部屋の中は誰もいない。
 飾莉が先に帰っていると思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。
 小学校ならとっくに授業が終わっているはずだが……。


 俺は隣の6号室のチャイムを鳴らした。

「はいはいはーい! 今でます! 待ってました!」

 そういって勢いよくドアを開けた久園寺さん。
 そして、一気に落胆した。

「アマゾンじゃなかった……」
「アマゾン?」
「ネット通販で注文した最新型のゲーム機が今日届く予定なんですよう」
「そうなんだ……それより、そっちに飾莉来てない?」

 すると久園寺さんは首を傾げた。

「飾莉ちゃん、まだ帰ってきてないんですか?」
「うん、今朝から妙に元気がなくて……」

 その時、アパートの階段を上がってくる足音がした。

 そこには、ずぶ濡れになった飾莉がとぼとぼと下を向いて歩いてきた。

「おい飾莉、傘はどうした」
「……貸した」
「貸したっておまえ……とりあえず中入れ、風邪ひくぞ」

 飾莉の背中に手やり、5号室に入れる。
 びしょびしょになったパーカーを脱がせ、バスタオルで体を拭く。

「なあ、友達に貸してもさ、お前が濡れたら元も子もないだろ」
「…………」

 飾莉は、ずっと黙り込んでいた。
 学校で、何かあったんだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...