生徒会長は不登校!?

中村健一

文字の大きさ
11 / 11

兄妹

しおりを挟む

 飾莉の後ろ姿がどんどん小さくなっていく。

 俺は追いかけるようにして走った。


 夕日の赤さに目を細めた。

 ──どうして。

 どうして、こんなことになった?


 前方に、小学生の3人組が歩いていた。
 飾莉と同じくらいの歳だろうか。

 通り過ぎる間際、その中の一人がぽつりとつぶやいた。


「今の、飾莉じゃね?」
「うん、走ってった。てか、また同じ服着てる。正直きもいよね」



 俺は、思わず足を止めた。

 息を切らしながら、その場に立ち尽くす。
 汗水が垂れていく。

 3人組は、俺を横目に見るようにして通り過ぎていった。


 ……。

 馬鹿か、俺は。

 今更気付くなんて。


『正直きもいよね』


 ──飾莉は、いじめられていたんだ。


 ここ最近の様子が、どうもおかしかった。
 どうして気づいてやれなかったんだろう、と立ち尽くしながら、心の中で何度も思った。

 俺は息を整えると、また駆け出していった。



***


 アパート、商店街、水門橋──
 町の至る所を探し回ったが、飾莉の姿は見当たらなかった。

 おそらく飾莉は、クラスで孤立して、ずっと陰口を叩かれていたんだ。
 飾莉にとって、学校に居場所なんてなくて。
 辛い目にあってきたんだろう。



 ずっと黙っていたから気づけなかった。

 飾莉が、表に出さなかったから気づかなかった。

 いつも平気な顔して、表情に出さなかったから気づかなかった。

 気づかなかった。


「────違う!!」

 張り上げた声が、路地に響き渡った。


 気づかなかったんじゃない。

 気づけなかったんだ。

 察してやることができなかった。

 道のカーブミラーに、俺の姿が映っている。

 俺はそれをみつめた。


 そう、お前だ。

 お前だよ。


 服も買い与えてやれず、ずっと辛い思いをさせてきた、クズ。
 ランドセルも、お下がりの男用を背負わせているクズ。

 もしかしたら、転校する前の学校でも、同じ境遇似合ったんじゃないだろうか?

 俺はいったい今まで何をしてきたんだろう。

 何を見てきたんだろう。

 罪悪感だけが、心の中を支配していく。


 もうすぐ日が暮れて、夜になってしまう。


 偶然、通りかかった公園。
 その木製のベンチに、ひとりで座っている女の子。

 ──居た。

 ひとりぼっちで、うつむいている飾莉の姿。


 俺は歩み寄ると、飾莉の前にしゃがみこんだ。


「探したよ」
「……」
「ごめんな」
「……」

 飾莉は、ずっとうつむいたまま黙っている。

「ずっと、気づいてやれなくて」

 すると、飾莉は静かに言った。

「……にーちゃんに、わたしの気持ちなんてわからないよ」

 目は伏せられている。

「わかるよ」
「……わからない」
「わかるって」

「──わからないよっ!!」

 飾莉の大声が、公園中に響き渡った。


 ……。

 そうだ。
 人の心なんて、わからない。
 覗いてみることなんて、できやしない。

 でも──。

「わかりたい」

 理解してやりたい。

「なあ飾莉」
「……ん」

「苦しいときはさ、頼れ」

「……」

「つらいときは、兄を頼れ」


 すると、飾莉の目にが緩んで、みるみるうちに涙が溢れていった。

 飾莉は目をこすりながら涙を流し続ける。







「たす……けて、にーちゃ……ん」


 その後、飾莉は啖呵を切ったかのように泣きじゃくった。

 妹の泣き声が夕日の差す公園に響き続けた。

 飾莉が泣きじゃくっている間、俺は体中が心臓になったみたいに、脈打って、痛くて、ちぎれそうだった。


***


 泣きつかれて寝てしまったようだ。

 辺りはすっかり夜になってしまった。

 ベンチから飾莉をゆっくりと抱き上げ、おんぶする。

「……ん……」
「このままおぶって帰るから、寝てなよ」


 そういえば、昔、親父が飾莉とこうやっておんぶしてた。

 俺は、外灯が照らす公園の中をゆっくりと歩いた。

 歩きまわった。


 ……。


 妹を泣かせた人間を、今すぐにでも全員探し出して、八つ裂きにしてやりたいと思った。

 けれど、そんなんじゃ解決にはならない。

 妹のために何ひとつならない。


「考えろ……」


 ──だから考えろ。

 考えろ。考えろ。
 どうしたらいい。


 その時、あるものが頭の中で一つひらめいた。

 自分の中にある唯一の解決策。

 そして、俺は決意した。


 ごめんな、飾莉。

 守れなくて。

 にーちゃん、もっと頑張るから。


「……学校辞めて、働くからさ」

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音
恋愛
【完結済/ハッピーエンド保証】 「ねえ、私の彼氏になりなさいよ」 「……は?」 大学1年の春。クラスで一番モテない男・藤堂健は、幼なじみの白石玲奈からトンデモない提案を受ける。 彼女は容姿端麗、成績優秀、そして近寄る男を氷のような視線で排除する、通称“氷の女王”。 そんな彼女が差し出したのは、2週間の『仮恋人契約』だった。 条件:完璧な彼氏を演じること。 報酬:高級プリン100個。 「断ったら……どうなるか分かってるわよね?」 「よ、喜んで!」 プリンに釣られて(脅されて)始まった契約生活。 しかし、いざ始まってみると――。 「……健、手繋いでいい?」 「……演技だから、もっとくっついて」 「……帰りたくない。今日は泊まっていっていい?」 おい、ちょっと待て。 これ、本当に演技なのか? ただの幼なじみだったはずの彼女が、契約期間中だけ見せる無防備な顔、甘い声、そしてとろけるような笑顔。 これは演技なのか、それとも――? 「契約とか関係ない。俺は、お前が好きだ」 モテない男と氷の女王。 嘘から始まった恋が、世界で一番甘い「本物」に変わるまでの、2週間の奇跡。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...