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妖精女王
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女王は光にあふれる微笑をたたえてフロイントの話を聞いていたが、アデライデに視線を移すと、
「アデライデ、あなたはこの数カ月の間にずいぶんと成長し、その光にはただやさしいばかりではなく、強さもにじむようになっています。加えてラングリンドに暮らす光の仲間たちは、あなたに特別な関心と好意を寄せています。あなたがもしも次の女王に立つとなれば、彼らは喜んであなたに力を貸すでしょう。今フロイントの意見は聞きましたが、アデライデ、あなた自身はどのように考えますか?」
アデライデは蒼白な顔を上げ、固いため息を吐いているような小さな声で答えた。
「……女王様、もしわたしに強さが見えるようになったとすれば、それはすべてフロイントへの愛ゆえのものです。わたしの足はフロイントへの愛によって立っているだけなのです。もしこの愛を失うようなことがあれば、とても一人で立っていることなどできず、たちまち地に倒れ伏してしまうでしょう……。そのような他愛なき人間の娘に、女王様の後を引き継ぐ資格も資質もありません。どうかお許しください……」
女王はアデライデの率直な言葉に、光に輝く顔をほころばせた。
「聡明なる娘よ、あなたの謙虚なる賢明さは宝です。あなたの並外れた魂の光は、フロイントを導き目覚めさせるのみならず、闇から目を背け心を閉ざしていたわたくしの目をも開かせました。──アデライデ、わたくしはあなたを見守る中で、あなたが統治する者というよりは、癒やす者、支える者としての資質に優れているということを見出しました。わたくしがラングリンドから去った後、民の心と魂を抱擁するという形で導く存在が必ずや必要になるでしょう。その役目を担うことこそあなたにはふさわしい──」
アデライデの瞳には涙があふれ、思わず顔を覆って泣き出した。それは重荷を背負って責任を果たせない不幸をせずに済む安堵の涙であると同時に、女王の期待に応えられない自分への不甲斐なさを悔やむ思い、そしてまた女王がラングリンドを去ることを既に心に決めているのだと知った悲しみとがないまぜになった、複雑な思いの発露だった。
フロイントにはアデライデのそうした気持ちが痛いほどわかり、その体をそっと抱きしめると、震える背中を慰めるようにさすった。
二人の様子を見守っていた女王は、やがて再び口を開くと厳粛な輝きを湛えた声でフロイントに呼びかけた。
「フロイント──魂宿りし魔物であった者。わたくしは今あなたに問いましょう──アデライデとアデライデの暮らす国を守りたいと言ったあなたに──」
フロイントは顔を上げ、女王の俄かに輝きを増した微笑を見た。アデライデもフロイントの胸の中で涙を拭い、崇高な光を放つ女王の厳かな微笑みに目を向けた。
「フロイント、あなたには、わたくしに代わってラングリンドの王となる意思があるでしょうか──?」
女王のその言葉に、アデライデは思わず手を口にやって息を呑み、頬を紅潮させた。さっと仰ぐようにフロイントを見上げると、フロイント自身は女王が何を言ったのかも理解できないといった様子で茫然と赤い瞳を見張ったまま、身を固く強張らせていた。
「アデライデ、あなたはこの数カ月の間にずいぶんと成長し、その光にはただやさしいばかりではなく、強さもにじむようになっています。加えてラングリンドに暮らす光の仲間たちは、あなたに特別な関心と好意を寄せています。あなたがもしも次の女王に立つとなれば、彼らは喜んであなたに力を貸すでしょう。今フロイントの意見は聞きましたが、アデライデ、あなた自身はどのように考えますか?」
アデライデは蒼白な顔を上げ、固いため息を吐いているような小さな声で答えた。
「……女王様、もしわたしに強さが見えるようになったとすれば、それはすべてフロイントへの愛ゆえのものです。わたしの足はフロイントへの愛によって立っているだけなのです。もしこの愛を失うようなことがあれば、とても一人で立っていることなどできず、たちまち地に倒れ伏してしまうでしょう……。そのような他愛なき人間の娘に、女王様の後を引き継ぐ資格も資質もありません。どうかお許しください……」
女王はアデライデの率直な言葉に、光に輝く顔をほころばせた。
「聡明なる娘よ、あなたの謙虚なる賢明さは宝です。あなたの並外れた魂の光は、フロイントを導き目覚めさせるのみならず、闇から目を背け心を閉ざしていたわたくしの目をも開かせました。──アデライデ、わたくしはあなたを見守る中で、あなたが統治する者というよりは、癒やす者、支える者としての資質に優れているということを見出しました。わたくしがラングリンドから去った後、民の心と魂を抱擁するという形で導く存在が必ずや必要になるでしょう。その役目を担うことこそあなたにはふさわしい──」
アデライデの瞳には涙があふれ、思わず顔を覆って泣き出した。それは重荷を背負って責任を果たせない不幸をせずに済む安堵の涙であると同時に、女王の期待に応えられない自分への不甲斐なさを悔やむ思い、そしてまた女王がラングリンドを去ることを既に心に決めているのだと知った悲しみとがないまぜになった、複雑な思いの発露だった。
フロイントにはアデライデのそうした気持ちが痛いほどわかり、その体をそっと抱きしめると、震える背中を慰めるようにさすった。
二人の様子を見守っていた女王は、やがて再び口を開くと厳粛な輝きを湛えた声でフロイントに呼びかけた。
「フロイント──魂宿りし魔物であった者。わたくしは今あなたに問いましょう──アデライデとアデライデの暮らす国を守りたいと言ったあなたに──」
フロイントは顔を上げ、女王の俄かに輝きを増した微笑を見た。アデライデもフロイントの胸の中で涙を拭い、崇高な光を放つ女王の厳かな微笑みに目を向けた。
「フロイント、あなたには、わたくしに代わってラングリンドの王となる意思があるでしょうか──?」
女王のその言葉に、アデライデは思わず手を口にやって息を呑み、頬を紅潮させた。さっと仰ぐようにフロイントを見上げると、フロイント自身は女王が何を言ったのかも理解できないといった様子で茫然と赤い瞳を見張ったまま、身を固く強張らせていた。
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