上 下
11 / 44
第二章

その2

しおりを挟む
 ルーメンの小屋に逗留を続けるうちに、ミシオン王子はまた、村の青年たちとも親しく付き合うようになりました。青年たちの中には、リーデルというひとりの若者がいました。リーデルは鋼のような強い肉体を持ち、またその体にふさわしく公明で正大な精神を持ち、寛大で頭もよかったので、村人の誰からも慕われ、頼りにされていました。
 


 ミシオン王子はリーデルと言葉を交わすうちに、彼の実直な話ぶりに好感を抱き、今まで自分を取り巻いていた貴族の子弟たちの誰にも感じたことのない信頼と友情が、自分の胸のうちに生まれて来るのを感じました。リーデルの方でも、ミシオン王子に敬意を表しながらも、何か通じ合うものを感じるようで、ふたりはすぐに親しい友人の間柄になりました。
  ミシオン王子はルーメンやヴォロンテーヌと共に働くことも好きでしたが、そうした仕事の合間などに、村の青年たちにまじって、剣闘の真似事などをして遊ぶ時間も好きでした。彼らは王子だからといって、手加減を加えてわざと負けるようなことはしませんでした。
 ミシオン王子は一国の王子として、幼い頃から戦闘の訓練なども受けていましたが、これもあまり好まなかったため、ほとんど何も身についていませんでした。一方、村の青年たちは日々の労働で強い筋肉や俊敏さを培っていましたので、王子はいつも負けてばかりでした。特に、リーデルには全く歯が立ちませんでした。
 けれどミシオン王子は、彼らが本気で打ちかかってくる中に、王子に対する敬意や親愛などを感じ取りました。それで王子はたとえ彼らに負かされ続けたとしても、心に痛みを感じることはなく、むしろ爽快さを感じるのでした。
 


 リーデルはミシオン王子より少しばかり年上でしたから、王子はいつしかリーデルに、兄のような尊敬の念をも抱くようになっていました。だから時に、リーデルに自分の言動をたしなめられるようなことがあっても、それを素直に聞いて、自分を反省しました。例えば、青年たちと談笑しているときに、年の近い気安さもあって、なんとなく以前の気質が顔を出し、ちょっと傲慢な素振りを見せたりすることがあると、後でふたりだけになったときに、リーデルは誠実な口振りながらも、手厳しく王子の振る舞いの非を指摘し、かつての自分の悪癖を思い出させてくれました。
 ミシオン王子はこうした指摘をするリーデルが、心から王子のためを想って言ってくれているのだということを知っていましたから、あえて耳の痛いことを、恐れることなく率直に言ってくれるリーデルに感謝し、ますます彼を信頼しました。ミシオン王子は、リーデルという良き友を得て、真の友情というものについても知ったのです。
しおりを挟む

処理中です...