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第三章

その3

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 それからしばらくして、ようやくパーティーが終わると、ミシオン王子はすべての客を自ら丁重に見送り、両親と三人だけになると、やおら自分はマリス王女と結婚するつもりはないと言い出しました。そして、村で世話になったルーメンという農夫の娘のヴォロンテーヌと結婚したいと言いました。
 二人ははじめ王子が冗談を言っているのだろうと笑って取り合いませんでしたが、王子が真剣なのを見ると大変驚き、ついには怒りだしてしまいました。というのも、王子の国には建国以来ずっと、王子または王女は、しかるべき身分の相手としか結婚してはならないという掟があり、代々厳格に守られてきたからです。
「王子ともあろう者が、一介の農夫の娘などと結婚できるわけがないだろう」
「何故です」
「建国以来の掟があることは、おまえだって知っているだろう」
「しかし父上。いったい『しかるべき身分』とはどのようなものなのですか」
「知れたことを」 
「それはもちろん、王子にふさわしい身分ということです。つまり王族や貴族など、名のある家の娘でなければならないと言うことです」
「けれど母上。ほんとうにふさわしい相手というのは、互いに真心でつながりあっている相手をこそ言うのではありませんか? それに父上、母上。身分というものが、いったいぜんたい人間の真価を推し量るのにどんな意味がありましょう? 貴族などと言っても、単にたまたまその家に生まれてきただけのことではありませんか。わたしは敢えて申し上げますが、貴族たちなどより、名もなき市井《しせい》の民の中にこそほんとうに貴い人たちがいることを、父上や母上にも知っていただきたいと思います」
「なんということを! それは長きにわたって続いてきた我が王家への不敬、冒涜であるぞ」
「あなた、少しお待ちあそばせ。ミシオン王子はきっとこの一年、その村で世話になったことを、義理堅くも大変感謝しているのでしょう。それでこのように言っているだけに違いありませんわ」
「なるほど、それは立派な心掛けではあるが、家臣どもに世迷言を申しているように取られては示しがつかぬ。もしや王子、マリス王女との縁談が気に入らなくて、そのように血迷ったことを申しておるのではあるまいな?」
「我が国が隣国に何かにつけて世話になっていることは理解しています。しかし、我が国にもより良く、より強い国家にする道はいくらもあるはずです。仮に今、マリス王女と縁組をしたとて、このままでは隣国の言いなりになるより他なくなってしまうでしょう」
 ミシオン王子の言葉に、パラン国王もジェニトリーチェ王妃も困惑した顔を浮かべて互いを見合うばかりでした。

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