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3話
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エミリアが案内されたのは、公爵の寝室とは離れた、静かな棟にある客室だった。豪華ではあるが、使用人が頻繁に出入りすることもなく、孤独な隠れ家のようだった。
ロバート執事は、必要なもの全てが揃っていることを確認すると、改めて公爵の命令を伝えた。
「エミリア様。公爵様からの厳命です。アルフレッド様は非常に繊細でいらっしゃいます。彼の私室がある棟に近づくことは、固くお控えください」
「承知いたしました」
エミリアは静かに頷いた。
ロバートが去った後、エミリアは部屋で一人、静かに荷解きをした。トランクの中にあるのは、洋服と数冊の本、そして「心の栄養料理」のレシピを記した古いノートだけ。これは、亡き母から受け継いだ、エミリアにとって唯一の宝物だった。
(私は、契約を忠実に守る。公爵様にも、アルフレッド様にも、迷惑はかけない)
しかし、エミリアの「心の声」の能力は、静寂な公爵邸の中でも、微かな心の揺らぎを捉えていた。それは、子供の純粋な「不安」だった。
声の主は、間違いなくアルフレッドだ。
(怖い。新しいお母様も、きっと僕を叩く。前のお母様みたいに、ご飯をくれないんでしょ?)
エミリアは居ても立ってもいられなくなった。契約では「干渉禁止」だが、飢えと恐怖は、契約よりも優先すべき人道的な問題だった。
エミリアは、ロバート執事に「庭園のハーブを採りたい」と申し出て、公爵の許可を得た。彼女は、薬草を採るフリをして、密かに邸宅の調理場に忍び込んだ。
公爵邸の厨房は、王都のそれよりも広く立派だったが、どこか生気がなかった。
(アルフレッド様は、前妻の虐待で味がわからなくなっているのだろう。豪華な料理では、心は満たされない)
エミリアは、採ってきたハーブと、最低限の食材だけを使い、シンプルなスープを作り始めた。このスープは、味覚の鈍った人でも、体と心に栄養が染み渡るように、愛情を込めて作られたものだ。
スープを小さなポットに入れ、エミリアはアルフレッドの私室がある棟の近くまで向かった。そこで待っていたのは、彼の専属の侍女だった。
「あの、これは……」
侍女は戸惑った顔をした。
「公爵様には秘密にしてください。わたくしが作った、薬膳スープです。アルフレッド様があまり召し上がらないと聞きました。一口だけでも、試していただけませんか」
エミリアは、侍女に懇願するようにポットを渡し、すぐに自分の棟へ引き返した。
その夜。
自室で読書をしていたエミリアは、再び心の声を捉えた。今度は、「安堵」と「満腹感」、そして「小さな喜び」の感情だった。
(おいしい。体が温かい……。久しぶりに、お腹が空いたのが、満たされた)
エミリアは、自分が作ったスープが、アルフレッドに届き、彼の心を少しでも癒やしたことに、静かな喜びを感じた。
しかし、その安堵の中に、もう一つの強い感情が混ざり始めた。
声の主は、アルフレッドの部屋の扉をノックした音を聞きつけて入室してきたクライヴ公爵だった。
公爵の心の声は、「なぜ、アルフレッドは私には心を開かない?なぜ、この家に温かい場所がないのだ?」という、激しい孤独と自責の念だった。
アルフレッドは、公爵の存在に、またしても「警戒」の感情を強く発する。公爵の愛が、彼には「重圧」としてしか伝わっていなかったのだ。
エミリアは、契約を破ることはできない。しかし、この親子が、愛し合っているのに孤独である現状を、ただ見ていることもできなかった。
(公爵様。アルフレッド様。あなた方には、心の栄養が不足しているのです。わたくしは、あなた方を傷つけないように、そっと温もりを届け続けるしかない)
エミリアは、自分の持つ「癒やしの力」が、この凍りついた公爵邸で、初めて必要とされていることを知る。そして、契約と孤独の狭間で、密かな「癒やし」の戦いを始めることを決意するのだった。
ロバート執事は、必要なもの全てが揃っていることを確認すると、改めて公爵の命令を伝えた。
「エミリア様。公爵様からの厳命です。アルフレッド様は非常に繊細でいらっしゃいます。彼の私室がある棟に近づくことは、固くお控えください」
「承知いたしました」
エミリアは静かに頷いた。
ロバートが去った後、エミリアは部屋で一人、静かに荷解きをした。トランクの中にあるのは、洋服と数冊の本、そして「心の栄養料理」のレシピを記した古いノートだけ。これは、亡き母から受け継いだ、エミリアにとって唯一の宝物だった。
(私は、契約を忠実に守る。公爵様にも、アルフレッド様にも、迷惑はかけない)
しかし、エミリアの「心の声」の能力は、静寂な公爵邸の中でも、微かな心の揺らぎを捉えていた。それは、子供の純粋な「不安」だった。
声の主は、間違いなくアルフレッドだ。
(怖い。新しいお母様も、きっと僕を叩く。前のお母様みたいに、ご飯をくれないんでしょ?)
エミリアは居ても立ってもいられなくなった。契約では「干渉禁止」だが、飢えと恐怖は、契約よりも優先すべき人道的な問題だった。
エミリアは、ロバート執事に「庭園のハーブを採りたい」と申し出て、公爵の許可を得た。彼女は、薬草を採るフリをして、密かに邸宅の調理場に忍び込んだ。
公爵邸の厨房は、王都のそれよりも広く立派だったが、どこか生気がなかった。
(アルフレッド様は、前妻の虐待で味がわからなくなっているのだろう。豪華な料理では、心は満たされない)
エミリアは、採ってきたハーブと、最低限の食材だけを使い、シンプルなスープを作り始めた。このスープは、味覚の鈍った人でも、体と心に栄養が染み渡るように、愛情を込めて作られたものだ。
スープを小さなポットに入れ、エミリアはアルフレッドの私室がある棟の近くまで向かった。そこで待っていたのは、彼の専属の侍女だった。
「あの、これは……」
侍女は戸惑った顔をした。
「公爵様には秘密にしてください。わたくしが作った、薬膳スープです。アルフレッド様があまり召し上がらないと聞きました。一口だけでも、試していただけませんか」
エミリアは、侍女に懇願するようにポットを渡し、すぐに自分の棟へ引き返した。
その夜。
自室で読書をしていたエミリアは、再び心の声を捉えた。今度は、「安堵」と「満腹感」、そして「小さな喜び」の感情だった。
(おいしい。体が温かい……。久しぶりに、お腹が空いたのが、満たされた)
エミリアは、自分が作ったスープが、アルフレッドに届き、彼の心を少しでも癒やしたことに、静かな喜びを感じた。
しかし、その安堵の中に、もう一つの強い感情が混ざり始めた。
声の主は、アルフレッドの部屋の扉をノックした音を聞きつけて入室してきたクライヴ公爵だった。
公爵の心の声は、「なぜ、アルフレッドは私には心を開かない?なぜ、この家に温かい場所がないのだ?」という、激しい孤独と自責の念だった。
アルフレッドは、公爵の存在に、またしても「警戒」の感情を強く発する。公爵の愛が、彼には「重圧」としてしか伝わっていなかったのだ。
エミリアは、契約を破ることはできない。しかし、この親子が、愛し合っているのに孤独である現状を、ただ見ていることもできなかった。
(公爵様。アルフレッド様。あなた方には、心の栄養が不足しているのです。わたくしは、あなた方を傷つけないように、そっと温もりを届け続けるしかない)
エミリアは、自分の持つ「癒やしの力」が、この凍りついた公爵邸で、初めて必要とされていることを知る。そして、契約と孤独の狭間で、密かな「癒やし」の戦いを始めることを決意するのだった。
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