獣人国の「もふもふ専属侍女」になりました 〜冷酷な狼国王様から「今日は首の後ろを重点的に頼む」と寝室に呼び出されています〜

腐ったバナナ

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15話

 ニーナが「真の聖女」であり、ヴォルフ陛下の「魂の伴侶」であることが判明してから、王宮内は大騒ぎでした。彼女を祝うための大夜会が開催されることになり、ニーナは今、人生で初めての豪華なドレスに身を包んでいます。

 淡い桃色のシルクに、繊細なレース。鏡の中に映る自分は、ブラック職場で泥にまみれていた頃とは別人のようです。

「……に、似合わない気がします。やっぱり侍女服の方が落ち着くというか……」

「そんなことはない。今夜の君は、誰よりも美しい」

 背後から声をかけたのは、黒い正装に身を包んだヴォルフ陛下でした。いつもは野生味溢れる彼も、今夜は隙のない貴公子の風貌です。しかし、その耳だけは、ニーナの姿を見て嬉しそうに小刻みに震えています。

「陛下……」

「今夜は『陛下』と呼ぶのも禁止だ。……ヴォルフ、と呼んでほしい。……二人きりの時は、な」

 彼はそう言うと、ニーナを王宮のバルコニーへと連れ出しました。眼下にはお祭り騒ぎの城下町が見えますが、ここは静かな月明かりに包まれています。

「ニーナ。君がこの国に来てから、俺の世界は変わった。……荒ぶる魔力に怯え、孤独に死ぬのを待つだけだった俺に、君はその小さな指先で光をくれた」

 ヴォルフがニーナの手を取り、その手のひらにそっと頬を寄せます。
 いつもはニーナが「なでなで」する側ですが、今は逆に、ヴォルフの熱い体温が彼女に伝わってきます。

「君の手は、魔法の手だ。だが、俺が君を求めているのは、その『力』があるからじゃない」

 彼はニーナの目をじっと見つめました。黄金の瞳には、獣としての独占欲ではなく、心からの愛しさが溢れています。

「……一人の女性として、俺の隣にいてほしい。……君の笑顔を、誰よりも近くで守らせてくれないか?」

「……ヴォルフ、様……」

 初めて呼ぶ彼の名前に、ニーナの胸が大きく跳ねました。
 マッサージをしてあげる「対象」としてではなく、守りたい「愛しい人」として扱われる。その喜びに、視界がじんわりと滲みます。

「はい……。私、ずっと、皆様の側に……貴方の側にいたいです」

 二人の距離が、ゆっくりと縮まっていく――。
 甘い雰囲気が最高潮に達した、その時。

「――はい、そこまでですよ、陛下」

 冷ややかな声と共に、ハヤテ宰相がバルコニーの影から現れました。

「ヴォルフ、抜け駆けはいけません。ニーナ、このドレスには私の贈った首飾りが一番似合っていますね。さあ、次は私とダンスを」

「待て待て! ニーナ、俺とも踊れ! 燕尾服なんて窮屈だが、お前のために着てきたんだぞ!」

 案の定、タイガ将軍も乱入してきます。
 感動のムードは一瞬で「いつもの」騒がしさに上書きされてしまいました。

「……お前たち、空気というものを読めないのか!?」

「読みませんね。愛に国境も空気も関係ありません」

 ヴォルフ陛下が唸り、三人の火花が散る中、ニーナはクスクスと笑い声を上げました。

(やっぱり、いつもの皆様が一番好きかもしれないわ)

 ドレスの裾を少し持ち上げ、ニーナは最高の笑顔で三人に手を差し伸べました。

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