15 / 20
15話
ニーナが「真の聖女」であり、ヴォルフ陛下の「魂の伴侶」であることが判明してから、王宮内は大騒ぎでした。彼女を祝うための大夜会が開催されることになり、ニーナは今、人生で初めての豪華なドレスに身を包んでいます。
淡い桃色のシルクに、繊細なレース。鏡の中に映る自分は、ブラック職場で泥にまみれていた頃とは別人のようです。
「……に、似合わない気がします。やっぱり侍女服の方が落ち着くというか……」
「そんなことはない。今夜の君は、誰よりも美しい」
背後から声をかけたのは、黒い正装に身を包んだヴォルフ陛下でした。いつもは野生味溢れる彼も、今夜は隙のない貴公子の風貌です。しかし、その耳だけは、ニーナの姿を見て嬉しそうに小刻みに震えています。
「陛下……」
「今夜は『陛下』と呼ぶのも禁止だ。……ヴォルフ、と呼んでほしい。……二人きりの時は、な」
彼はそう言うと、ニーナを王宮のバルコニーへと連れ出しました。眼下にはお祭り騒ぎの城下町が見えますが、ここは静かな月明かりに包まれています。
「ニーナ。君がこの国に来てから、俺の世界は変わった。……荒ぶる魔力に怯え、孤独に死ぬのを待つだけだった俺に、君はその小さな指先で光をくれた」
ヴォルフがニーナの手を取り、その手のひらにそっと頬を寄せます。
いつもはニーナが「なでなで」する側ですが、今は逆に、ヴォルフの熱い体温が彼女に伝わってきます。
「君の手は、魔法の手だ。だが、俺が君を求めているのは、その『力』があるからじゃない」
彼はニーナの目をじっと見つめました。黄金の瞳には、獣としての独占欲ではなく、心からの愛しさが溢れています。
「……一人の女性として、俺の隣にいてほしい。……君の笑顔を、誰よりも近くで守らせてくれないか?」
「……ヴォルフ、様……」
初めて呼ぶ彼の名前に、ニーナの胸が大きく跳ねました。
マッサージをしてあげる「対象」としてではなく、守りたい「愛しい人」として扱われる。その喜びに、視界がじんわりと滲みます。
「はい……。私、ずっと、皆様の側に……貴方の側にいたいです」
二人の距離が、ゆっくりと縮まっていく――。
甘い雰囲気が最高潮に達した、その時。
「――はい、そこまでですよ、陛下」
冷ややかな声と共に、ハヤテ宰相がバルコニーの影から現れました。
「ヴォルフ、抜け駆けはいけません。ニーナ、このドレスには私の贈った首飾りが一番似合っていますね。さあ、次は私とダンスを」
「待て待て! ニーナ、俺とも踊れ! 燕尾服なんて窮屈だが、お前のために着てきたんだぞ!」
案の定、タイガ将軍も乱入してきます。
感動のムードは一瞬で「いつもの」騒がしさに上書きされてしまいました。
「……お前たち、空気というものを読めないのか!?」
「読みませんね。愛に国境も空気も関係ありません」
ヴォルフ陛下が唸り、三人の火花が散る中、ニーナはクスクスと笑い声を上げました。
(やっぱり、いつもの皆様が一番好きかもしれないわ)
ドレスの裾を少し持ち上げ、ニーナは最高の笑顔で三人に手を差し伸べました。
淡い桃色のシルクに、繊細なレース。鏡の中に映る自分は、ブラック職場で泥にまみれていた頃とは別人のようです。
「……に、似合わない気がします。やっぱり侍女服の方が落ち着くというか……」
「そんなことはない。今夜の君は、誰よりも美しい」
背後から声をかけたのは、黒い正装に身を包んだヴォルフ陛下でした。いつもは野生味溢れる彼も、今夜は隙のない貴公子の風貌です。しかし、その耳だけは、ニーナの姿を見て嬉しそうに小刻みに震えています。
「陛下……」
「今夜は『陛下』と呼ぶのも禁止だ。……ヴォルフ、と呼んでほしい。……二人きりの時は、な」
彼はそう言うと、ニーナを王宮のバルコニーへと連れ出しました。眼下にはお祭り騒ぎの城下町が見えますが、ここは静かな月明かりに包まれています。
「ニーナ。君がこの国に来てから、俺の世界は変わった。……荒ぶる魔力に怯え、孤独に死ぬのを待つだけだった俺に、君はその小さな指先で光をくれた」
ヴォルフがニーナの手を取り、その手のひらにそっと頬を寄せます。
いつもはニーナが「なでなで」する側ですが、今は逆に、ヴォルフの熱い体温が彼女に伝わってきます。
「君の手は、魔法の手だ。だが、俺が君を求めているのは、その『力』があるからじゃない」
彼はニーナの目をじっと見つめました。黄金の瞳には、獣としての独占欲ではなく、心からの愛しさが溢れています。
「……一人の女性として、俺の隣にいてほしい。……君の笑顔を、誰よりも近くで守らせてくれないか?」
「……ヴォルフ、様……」
初めて呼ぶ彼の名前に、ニーナの胸が大きく跳ねました。
マッサージをしてあげる「対象」としてではなく、守りたい「愛しい人」として扱われる。その喜びに、視界がじんわりと滲みます。
「はい……。私、ずっと、皆様の側に……貴方の側にいたいです」
二人の距離が、ゆっくりと縮まっていく――。
甘い雰囲気が最高潮に達した、その時。
「――はい、そこまでですよ、陛下」
冷ややかな声と共に、ハヤテ宰相がバルコニーの影から現れました。
「ヴォルフ、抜け駆けはいけません。ニーナ、このドレスには私の贈った首飾りが一番似合っていますね。さあ、次は私とダンスを」
「待て待て! ニーナ、俺とも踊れ! 燕尾服なんて窮屈だが、お前のために着てきたんだぞ!」
案の定、タイガ将軍も乱入してきます。
感動のムードは一瞬で「いつもの」騒がしさに上書きされてしまいました。
「……お前たち、空気というものを読めないのか!?」
「読みませんね。愛に国境も空気も関係ありません」
ヴォルフ陛下が唸り、三人の火花が散る中、ニーナはクスクスと笑い声を上げました。
(やっぱり、いつもの皆様が一番好きかもしれないわ)
ドレスの裾を少し持ち上げ、ニーナは最高の笑顔で三人に手を差し伸べました。
あなたにおすすめの小説
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。