離婚予定の冷徹公爵閣下が、なぜか私の「心の声」を聴きすぎて離してくれません

腐ったバナナ

文字の大きさ
6 / 18

6話

しおりを挟む
(ああ、もうダメ。このままじゃ私の心臓が「公爵夫人、完遂!」のファンファーレを鳴らしちゃう……)

「嫌われ作戦」が全肯定されてしまった翌日。私は庭園の東屋で、ぐったりと机に突っ伏していました。 そこに、聞き慣れない軽薄な足音が近づいてきました。

「おや、義姉上。そんなところで死体ごっこ? 相変わらず面白い人だね」

 顔を上げると、そこにはギルバート様に面影が似ているものの、ボタンを三つくらい開けて色気を振りまいている美青年が立っていました。ギルバート様の弟、セオドア様です。

(……ゲッ、チャラ男の義弟くん帰還。この人、顔はいいけど女たらしで有名なんだよね。関わるとろくなことがないわ。とりあえず「おほほ」で乗り切るわよ!)

「まぁ、セオドア様。お帰りなさいませ。相変わらずお元気そうで何よりですわ」

「つれないなぁ。そんな他人行儀な挨拶、傷つくな。……おっと、目にゴミが入ってるよ?」

 セオドア様が唐突に距離を詰め、私の頬に手を添えました。

(ひっ!? 近い近い! ゼロ距離! 義弟のくせにパーソナルスペースを無視するんじゃないわよ! あんたの背後に、世界一冷たいマイナス100度の冷蔵庫……もとい、お兄様が現れたらどうするのよ!)

「――離れろ、セオドア」

(……言わんこっちゃない。キターーーー!! 本物の冷蔵庫!!)

 背後から、凍りつくような冷気が漂ってきました。そこには、書類束を握りつぶしそうな勢いでこちらを睨みつけるギルバート様が立っていました。

「兄上、そんなに怖い顔しないでよ。義姉上の目にゴミが入っていただけじゃないか」

「ゴミなど入っていない。……アリアの脳内が今、『このチャラ男、近すぎるわ!』と叫んでいるのが聞こえないのか」

(……あ、聞こえてるんだ。相変わらず。セオドア様、気をつけて。この人、あなたの兄上じゃなくて、最近エスパーに進化したハイテク冷蔵庫だから!)

 セオドア様は一瞬ポカンとした後、吹き出しました。 「あはは! 兄上、何言ってるの? 義姉上の心の声なんて聞こえるわけないだろ。……でも、面白いね。義姉上、本当にそんなこと思ってるの?」

「い、いえ、滅相もございませんわ。セオドア様はとても……親しみやすい方だと……」

(嘘よ! 『親しみやすい』じゃなくて『チャラすぎて親しみが湧かない』の間違いよ! ギルバート様、今すぐこの男をどっか遠くの領地に飛ばして! 私の平穏なニート計画に、余計な火種を落とさないで!)

 ギルバート様は無言で歩み寄ると、私の腕を強引に引き寄せ、自分の背中に隠しました。

「セオドア。……アリアは、お前の『親しみやすさ』に吐き気がすると言っている」

「ええっ!? 義姉上、そんな酷いこと思ってるの!?」

「思ってません! 旦那様の翻訳が極端なだけですわ!」

(あーもう、しっちゃかめっちゃかよ! ギルバート様、嫉妬するのはいいけど、私の本音をストレートにぶつけるのはやめて! 角が立つでしょ! 処世術って言葉を知りなさいよ!)

 ギルバート様は私の叫び(脳内)を無視し、セオドア様の胸元を指先で弾きました。

「アリアは、俺の指先の血管の浮き出た感じや、顎のラインが『エロ……美しい』と絶賛するほど、俺に心酔している。……お前のような小僧が入る隙はない」

(……ちょっ、待って。それ言っちゃうの!? 公開処刑!? 私の恥ずかしい性癖を、本人の前で暴露しないでよーーーー!! 死にたい! 今すぐ地面に潜って、そのまま土に還りたい!!)

 顔から火が出るどころか、大噴火を起こしそうな私を他所に、ギルバート様は勝ち誇ったような顔で私を抱き上げました。

「アリア、部屋に戻るぞ。……お前の脳内の『美形鑑賞会』に、今から俺が実物で付き合ってやろう」

(いやだーーー! 羞恥心で死んじゃう! 冷蔵庫、冷やして! 私の熱すぎる脳内を今すぐ冷却してーーーー!!)

 セオドア様を置き去りにして、公爵夫人は(物理的に)さらわれていくのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

軽薄公爵のお気に入り

宝月 蓮
恋愛
ゼーラント伯爵令嬢イリスは、社交界デビューしたばかり。姉のリンデに守られながら社交界に慣れていく中、軽薄公爵と噂され、未亡人や未婚の令嬢と浮き名を流すルーヴェン公爵家の若き当主、ヤンと知り合う。 軽薄だと噂されているヤンだが、イリスは彼がそのような人物だとは思えなかった。 イリスはヤンと交流していくうちに、彼に惹かれ、そして彼が過去に何かあったのだと気付き……? 過去作『返り咲きのヴィルヘルミナ』と繋がりがありますが、お読みでなくても楽しめるようになっています。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

捨てられた公爵令嬢は氷の宰相に愛されすぎて困っています 〜婚約破棄の果てに見つけた真実の愛〜

nacat
恋愛
婚約者の王太子に「平民上がりの令嬢が」と断罪された公爵令嬢・リリアーナ。 居並ぶ貴族の前で婚約破棄を告げられ、家を追放された彼女の前に現れたのは、氷の宰相と恐れられる冷徹な美貌の青年、アラン・グレイス。 無表情で冷たいと噂された彼が見せたのは、誰も知らないほど深い優しさと狂おしいほどの独占欲だった。 最果ての領地で始まる、ざまぁと溺愛の逆転劇。 そして、王国を揺るがす陰謀の真実が明らかになるとき、二人の愛はすべてを変える――。

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...