4 / 11
4話
村での暮らしが始まって数日。
カリナは与えられた小さな家を拠点に、畑や森で薬草を集め、乾かし、刻み、薬棚に並べていた。王宮にいた頃は、魔法の力を求められるばかりで、薬草の知識など無駄だと嘲られた。けれど今、この知識こそが人々を救うと確信できる。
「カリナさん、いますか!」
慌ただしい声が戸を叩いた。開けると、幼い少年が必死の形相で立っていた。
「母さんが……熱で苦しんでるんだ! 助けて!」
カリナは即座に薬籠を抱えて駆け出した。少年に案内された家では、若い母親が汗に濡れて横たわっている。頬は赤く、呼吸は荒い。
「少し見せてください」
布団をめくり、脈を測る。高熱が続けば危険だ。カリナは冷静に指示した。
「井戸水を汲んでください。清潔な布もお願いします」
驚くほど手際よく動く彼女に、家族は目を見張った。
「……こんなに頼もしい顔を見るのは初めてだ」
父親が呟く。
カリナは薬草を煎じ、香り立つ蒸気を母親に吸わせた。さらに、少しだけ神聖術を込めて身体を鎮める。王宮で求められた大規模な奇跡ではなく、熱を和らげるための小さな癒やし。
だが、それだけで十分だった。
やがて母親の呼吸が落ち着き、熱がわずかに下がったのを感じる。
「……楽になった……ありがとう……」
かすれた声に、家族が涙を流した。
「完全に治るには時間が必要です。水分を与えて、体を冷やしてください。明日も様子を見に来ますね」
カリナの言葉に、父親は深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとう。あんたは役立たずなんかじゃない。俺たちにとっては命の恩人だ」
胸が熱くなった。王宮で浴びた侮蔑の言葉が、遠い幻のように感じられる。
◆
数日後、別の家から呼ばれた。今度は足を怪我した農夫だった。カリナは薬草を塗り、包帯を巻いてやる。
「動かしすぎないでください。無理すれば悪化しますよ」
「はい、聖女様……いや、薬師様」
「聖女はもう名ばかりです。私はただの薬師ですから」
その言葉に農夫は笑い、
「いや、俺たちにとっちゃ本物の聖女だ」
と肩を叩いた。
小さな治療は村人の間に広がり、カリナの家には次々と相談が持ち込まれるようになった。
切り傷、熱病、咳。どれも王宮では見向きもされない些細な症状だが、村の人々にとっては死活問題だ。
「カリナさんのおかげで畑に出られるようになったよ!」
「子どもが元気になったんだ!」
そんな声を聞くたび、胸の奥に灯がともる。
夜、焚き火の前で独り呟いた。
「……私はここで、生きていける。誰かの役に立てる」
王宮では与えられなかった自己肯定感が、村での日々の中で芽吹き始めていた。
カリナは与えられた小さな家を拠点に、畑や森で薬草を集め、乾かし、刻み、薬棚に並べていた。王宮にいた頃は、魔法の力を求められるばかりで、薬草の知識など無駄だと嘲られた。けれど今、この知識こそが人々を救うと確信できる。
「カリナさん、いますか!」
慌ただしい声が戸を叩いた。開けると、幼い少年が必死の形相で立っていた。
「母さんが……熱で苦しんでるんだ! 助けて!」
カリナは即座に薬籠を抱えて駆け出した。少年に案内された家では、若い母親が汗に濡れて横たわっている。頬は赤く、呼吸は荒い。
「少し見せてください」
布団をめくり、脈を測る。高熱が続けば危険だ。カリナは冷静に指示した。
「井戸水を汲んでください。清潔な布もお願いします」
驚くほど手際よく動く彼女に、家族は目を見張った。
「……こんなに頼もしい顔を見るのは初めてだ」
父親が呟く。
カリナは薬草を煎じ、香り立つ蒸気を母親に吸わせた。さらに、少しだけ神聖術を込めて身体を鎮める。王宮で求められた大規模な奇跡ではなく、熱を和らげるための小さな癒やし。
だが、それだけで十分だった。
やがて母親の呼吸が落ち着き、熱がわずかに下がったのを感じる。
「……楽になった……ありがとう……」
かすれた声に、家族が涙を流した。
「完全に治るには時間が必要です。水分を与えて、体を冷やしてください。明日も様子を見に来ますね」
カリナの言葉に、父親は深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとう。あんたは役立たずなんかじゃない。俺たちにとっては命の恩人だ」
胸が熱くなった。王宮で浴びた侮蔑の言葉が、遠い幻のように感じられる。
◆
数日後、別の家から呼ばれた。今度は足を怪我した農夫だった。カリナは薬草を塗り、包帯を巻いてやる。
「動かしすぎないでください。無理すれば悪化しますよ」
「はい、聖女様……いや、薬師様」
「聖女はもう名ばかりです。私はただの薬師ですから」
その言葉に農夫は笑い、
「いや、俺たちにとっちゃ本物の聖女だ」
と肩を叩いた。
小さな治療は村人の間に広がり、カリナの家には次々と相談が持ち込まれるようになった。
切り傷、熱病、咳。どれも王宮では見向きもされない些細な症状だが、村の人々にとっては死活問題だ。
「カリナさんのおかげで畑に出られるようになったよ!」
「子どもが元気になったんだ!」
そんな声を聞くたび、胸の奥に灯がともる。
夜、焚き火の前で独り呟いた。
「……私はここで、生きていける。誰かの役に立てる」
王宮では与えられなかった自己肯定感が、村での日々の中で芽吹き始めていた。
あなたにおすすめの小説
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
追放された薬膳聖女は氷の公爵様を温めたい~胃袋を掴んだら呪いが解けて溺愛されました~
黒崎隼人
恋愛
冤罪で婚約破棄され、極寒の辺境へ追放された伯爵令嬢リリアナ。「氷の公爵」と恐れられる魔導師アレクセイの城に送られるが、そこで彼女を待っていたのは、呪いにより味覚を失い、孤独に震える公爵だった!?
「……なんだ、この温かさは」
前世の知識である【薬膳】で作った特製スープが、彼の凍りついた心と胃袋を溶かしていく!
料理の腕で公爵様を餌付けし、もふもふ聖獣も手なずけて、辺境スローライフを満喫していたら、いつの間にか公爵様からの溺愛が止まらない!?
一方、リリアナを追放した王都では作物が枯れ果て、元婚約者たちが破滅へと向かっていた――。
心も体も温まる、おいしい大逆転劇!
追放令嬢の辺境スローライフ〜精霊に愛された手料理で大地を豊かにしたら、無愛想な次期辺境伯の胃袋を掴んで激しく溺愛中!〜
黒崎隼人
ファンタジー
王太子から「無能」と蔑まれ、婚約破棄された侯爵令嬢のリリアーナ。
彼女に言い渡されたのは、魔獣がうごめき、死に絶えた最果ての辺境伯領への事実上の追放だった。
冷酷無惨と噂される辺境伯一家に怯えるリリアーナだったが、出迎えてくれたのは不器用で心優しい家族たち。
そして彼女が日々の感謝を込めて振る舞った手料理には、精霊の加護による「規格外の浄化作用」が秘められていた!
瘴気で味覚を失っていた次期辺境伯アレクセイは彼女の料理で味覚と感情を取り戻し、
枯れ果てていた大地は瞬く間に緑豊かな豊穣の地へと生まれ変わっていく。
一方、リリアーナを失った王都は精霊に見放され、枯渇への道を辿っていた。
今さら彼女の価値に気づいた王太子が連れ戻しにやって来るが、辺境の家族たちは全力で彼女を守り抜くことを誓い……。
「俺の生涯をかけて、お前を守り、愛し抜く」
料理しか取り柄がないと思っていた不遇令嬢が、温かい家族と真実の愛を手に入れる、美味しい辺境スローライフファンタジー!
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~
黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」
派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。
彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。
相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。
「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。
しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!?
無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。
二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。
婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~
黒崎隼人
ファンタジー
王太子アルベルトから「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられ、辺境へ追放された公爵令嬢エリザベート。しかし彼女は動じない。なぜなら彼女には、前世で日本の農業研究者だった記憶があったから!
痩せた土地、疲弊した人々――「ならば私が、この地を楽園に変えてみせる!」
持ち前の知識と行動力で、次々と農業改革を成功させていくエリザベート。やがて彼女の噂は王都にも届き、離婚を告げたはずの王太子が、後悔と疑問を胸に辺境を訪れる。
「離婚した元夫婦」が、王国を揺るがす大きな運命の歯車を回し始める――。これは、復縁しない二人が、最高のパートナーとして未来を築く、新しい関係の物語。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~
上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」
触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。
しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。
「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。
だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。
一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。
伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった
本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
※※小説家になろうでも連載中※※