婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ

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5話

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 朝日が柔らかく差し込む神殿の大広間。
 白い大理石の床が光を反射し、静かな清浄の空気が漂っていた。

 大きな窓から差し込む光は、まるで世界中の悲しみを洗い流すかのようで、エリスの胸は高鳴る。

「こちらが、エリス嬢……」

 大神官セラフィムの声が静かに響く。数人の聖女補佐たちが微笑みを浮かべ、頭を下げた。

「ようこそ、神殿へ。貴女こそ、神に選ばれし聖女です」

 その言葉に、エリスの目は涙で潤んだ。

「わ、私が……本当に?」

 社交界で受けた嘲笑や侮辱の記憶が頭をよぎる。
 しかし、この場所の空気はそれらとはまったく異なり、誰も彼女を見下さない。誰も軽蔑の目を向けない。

 セラフィムは微笑み、そっと手を差し伸べる。

「まずは、ここで暮らし、力を学ぶのです。怖がらなくてよい」

 補佐の一人がエリスの肩に手を置く。

「私たちは、聖女様の補佐をいたします。困ったことがあれば、遠慮なくお申し付けください」

 エリスは深く頭を下げ、頷いた。

「ありがとうございます……」

 声は震えていたが、心の奥底では温かな安堵が広がっていた。

 その日、神殿の庭に出ると、色とりどりの花々が咲き誇り、小鳥がさえずり、穏やかな風が吹いていた。
 エリスは深呼吸をすると、胸の奥の重みが少しずつ溶けていくのを感じた。
 社交界での孤独と痛みが、ここでは薄れていく。

「聖女様、こちらへ」

 小さな少年の声が響く。
 神殿の使いの少年、マルクだった。

「今日から一緒に練習しようよ。僕もお手伝いできることがあれば」

 エリスは微笑みを返す。

「はい、ありがとう」

 庭の奥には小川が流れ、花の香りが風に乗って漂う。
 エリスはその光景に見とれながら、心の中で小さくつぶやいた。

 ――これから、私は変われる。
 ただの令嬢ではなく、神に選ばれし聖女として。

 午後になり、大広間での夕食が始まった。
 食卓には豊かな料理が並び、補佐たちが和やかに談笑している。
 エリスも自然に席に着き、ゆっくりと食事を口に運んだ。

「お味はいかがですか、聖女様?」

 補佐の一人が優しく尋ねる。

「とても……美味しいです」

 目に涙を浮かべながらも、自然に笑みがこぼれる。
 社交界で味わえなかった温かさが、ここにはあった。

 夕暮れ、神殿の高い窓から差し込むオレンジ色の光の中、エリスは一人静かに庭に佇んだ。
 夜空が広がると、星が瞬き、遠くの神殿の塔の鐘が響く。
 その静寂の中で、エリスは決意を新たにした。

 ――もう、誰にも私を侮らせはしない。
 ――私は、この世界で、私の力で、私自身を守る。

 心に誓いを刻んだエリスは、神殿の深い清浄の空気を胸いっぱいに吸い込み、そっと微笑んだ。
 未来への第一歩が、ここに始まったのだ。
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