追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

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8話

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 夏の陽光が森の木々を照らし、葉の間からこぼれる光が地面に斑点模様を作っていた。リディアはかごを抱え、城跡の庭先に整えた薬草畑を歩く。

 青々と茂ったハーブの香りが鼻をくすぐり、朝露に濡れた葉がきらりと輝く。今日は、近隣の町から相談に来る旅人がいる日だった。

「おはようございます、リディア様」

 小さな声が背後から聞こえた。振り返ると、城の門前で足を止めた青年の顔が見える。肩に小さなリュックを背負い、少し緊張した様子だ。

「おはよう。今日はどんなご相談ですか?」

 リディアはにこやかに答え、庭の薬草の傍へと導いた。

「実は……」

 青年は息を整えながら言葉を続ける。

「隣町の農家で、家畜の病気が広がって困っているんです。薬や対処法を教えてもらえればと思いまして……」

 リディアは畑のハーブに手を伸ばし、指で葉を触れながら考える。ミントやタイム、カモミールが風に揺れる。過去に独学で学んだ薬草の知識が、今こうして役に立つ瞬間が来るとは思ってもみなかった。

「なるほど……」

 リディアは静かに頷く。

「家畜の症状はどのようなものですか?」

「食欲がなく、元気もないんです。薬を使ってもあまり効かなくて……」

 青年は少し申し訳なさそうに肩を落とす。

 リディアは優しく微笑み、青年の肩に手を置いた。

「大丈夫。村でも似た症状の家畜を手当したことがあります。私の方法であれば、少しずつ回復するはずです」

 二人は城の裏手にある簡素な作業場へ向かい、リディアは薬草の組み合わせや調理法を丁寧に説明する。青年は目を輝かせながらメモを取り、時折頷いた。

「これで、きっと家畜も元気になるはずです」

 リディアは仕上げに、薬草を煎じた液を瓶に入れ、青年に手渡した。

「必ず毎日与えてください。無理に多くは与えないこと」

「ありがとうございます、リディア様! 本当に助かります」

 青年は感謝の言葉を繰り返し、何度も頭を下げた。

 窓の外では、村人たちが穏やかな日常を送っている。子どもたちが駆け回り、農夫たちが畑仕事に励む。リディアは心の中で静かに喜んだ。宮廷で「役立たず」と言われ続けた自分が、今、こうして確かに人々の役に立っている——。

 午後になると、別の旅人が訪れた。今度は町の商人で、近隣の市場で起きた食中毒の問題について相談したいという。リディアは冷静に状況を聞き取り、薬草や保存方法の工夫をアドバイスする。商人は感激し、城の庭先で深く礼をした。

「リディア様がいてくださると、村や町の人々も安心ですね」

 商人は笑顔を見せる。

「こんな遠くの地で、これほど頼りになる方に出会えるとは思いませんでした」

 リディアは微笑みながら答える。

「私も、皆さんに出会えてよかったと思っています」

 日が傾き、夕暮れの光が城跡を赤く染める。リディアは庭に立ち、空を仰いだ。遠くに見える山々が金色に輝き、川のせせらぎが柔らかに聞こえる。

 今日もまた、人々の生活に少しだけ光を灯せた。宮廷での評価や期待は、もう自分の価値を決めるものではない。自分の手で、人々の暮らしを支え、村の絆を深めることこそが、自分の居場所なのだと、静かに確信する。

 その夜、リディアは城跡の石段に腰を下ろし、満天の星空を見上げた。星々が瞬くたびに、彼女の心もまた、希望で静かに満たされていく。

 自由で、自分の意思で選べる生き方——それが何よりも大切な宝物だと感じながら、リディアは深く息を吸い込み、明日への決意を新たにした。
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