「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ

文字の大きさ
6 / 26

6話

しおりを挟む
 王宮庭園の浄化は、フィーアの評判を一変させた。

 庭園が清らかになったことで、王宮内の獣人たちの間に目に見える変化が現れ始めた。彼らは、活力を取り戻し、表情も穏やかになった。特に、常に張り詰めていた空気は和らぎ、フィーアへの警戒心も感謝へと変わりつつあった。

 しかし、ガゼル王の側近クロウ(ワシ族)は、依然としてフィーアへの警戒を緩めなかった。彼は、フィーアが庭園で活動する際、常に影から監視を続けていた。

(浄化の力は本物だが、人間は裏切る生き物だ。王がこれほどまでに依存し始めているのは危険だ)

クロウの心の声は、王への忠誠心からくる疑念に満ちていた。

 フィーアは、浄化作業の合間を縫って、毎日レオン王子と時間を過ごした。

 フィーアは、レオンのために浄化された食材を使った滋養のある焼き菓子を作り始めた。魔力汚染された土地で育った獣人族の子供たちは、慢性的な栄養不足に陥りがちだったが、フィーアの焼き菓子は、レオンの食欲をそそり、みるみるうちに彼の表情に血色と元気が戻っていった。

「フィーア姉様!これ、すごく美味しいよ!力が湧いてくるみたい!」

 レオンは瞳を輝かせた。

「よかったわ、レオン王子。これは、王宮の庭園で採れた薬草を浄化して使っているの。あなたを強くするお菓子よ」

 レオンは、フィーアが差し出したお菓子を頬張りながら、彼女の手を握った。その小さな手から伝わる温もりは、フィーアが人間国で冷遇され続けていた間に失っていた感覚を呼び覚ました。

 一方、ガゼル王は、フィーアの「浄化の力」に、精神的な依存を深め始めていた。

 フィーアが浄化した空間にいると、長年彼を苛んでいた魔力汚染による頭痛と疲労が消える。そして、彼女の存在自体が、王の孤独な心を癒やし始めていた。

 ガゼル王は、執務室で大量の公務を処理した後、休憩と称して、フィーアのいる王妃の間の前まで歩を進めた。そして、扉の前で立ち止まり、レオン王子と楽しそうに話すフィーアの笑い声を聞くのが日課になっていた。

 ガゼル王の心の声:(あの声を聞いていると、疲労が消える。レオンがあんなに笑っているのも久しぶりだ……。この女は、私にとっての「生きるための薬」なのかもしれない)

 ある夜、ガゼル王は王妃の間に踏み込んだ。

 フィーアは、ベッドサイドで薬草の調合をしていた。

「フィーア」

「王よ!」

 ガゼル王は、一切の感情を顔に出さず、ただフィーアを見つめた。

「レオンの体調が、貴様が来てから明らかに良くなった。貴様の力は、やはり本物だ。だが……」

 ガゼル王は、一歩踏み込み、フィーアの顔に影を落とした。ライオンの獣人族特有の、強く、重い威圧感がフィーアを包んだ。

「貴様がこの国にもたらす恩恵は、私とレオン、そしてこの獣人族のものだ。貴様の全ては、契約により私の支配下にあることを忘れるな。もし、僅かでも裏切りの意志を見せれば、この場で命はない」

 それは、独占欲と警戒心が混じり合った、ガゼル王なりの「執着の告白」だった。

 フィーアは、ガゼル王の冷徹な瞳の奥に、孤独な王の必死な縋りのようなものを感じ取った。彼は、裏切られることを誰よりも恐れ、その恐怖を冷酷さで塗り固めているのだ。

「王よ。わたくしは、この温かい場所と、あなた様とレオン王子のお傍を、決して離れたくありません。わたくしには、もう帰るべき国も、信じるべき人もおりません。だから、ご安心ください。わたくしは、あなた様の忠実な王妃として、契約を果たします」

 フィーアの誠実な決意に、ガゼル王は内心の安堵を感じた。

 彼は、何も言わずに部屋を後にしたが、フィーアの心に響いたのは、(そうか……私のものだ。誰も彼女を奪うことはできない)という、熱を帯びた独占欲だった。

 フィーアとガゼル王の、愛のない契約は、確実に依存と執着という名の愛へと形を変え始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

【改稿版】猫耳王子に「君の呪われた力が必要だ」と求婚されています

こうしき
恋愛
アルリエータ王国の辺境伯令嬢エステルは、「目が合った者の心を読む」呪いにかかっていた。 呪いのせいで友もおらず、おまけに婚期も逃し、気がつけば三十路は目前。自由気ままに生きることを決めていたというのに、この力を欲する変わった国に嫁ぐことになって──? エステルを欲した国は全国民が魔女の呪いにかかり、半猫化したハルヴェルゲン王国。 どうやら半猫同士での会話は成立するようだ。 しかし貿易大国であるハルヴェルゲン王国が半猫化したことにより、諸外国とは言葉も通じず国内は混乱状態。 そこで白羽の矢が立ったのが、心を読めるエステルたった。 『うにゃにゃ──君の呪われた力が必要なんだ。私の妻として外交に加わってほしい』 「……え? 何ですって?」 果たしてエステルは、ハルヴェルゲン王国を危機から救い、幸せを掴めるのか──……。 ※小説家になろう、エブリスタに投降していた作品の改稿版になります

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

処理中です...