無実の罪で追放された神官令嬢は、最強大公に拾われました。

腐ったバナナ

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 神殿の白い大理石の床は、リリアン・ヴェルヌ(20歳)の未来と同じように、冷たかった。

 リリアンは、子爵令嬢として神殿に仕える神官見習いだった。彼女は、派手な魔力こそ持たなかったが、触れるだけで病や怪我を癒やす清らかな治癒の力、すなわち真の聖女の力を宿していた。しかし、魔力による儀式を重んじる神殿は、その地味で控えめな力を評価しなかった。

 その立場を狙っていたのが、リリアンの異母妹カサンドラだった。カサンドラは、儀式的な魔力に長けており、最高司祭に取り入り、偽りの聖女として祭り上げられようとしていた。

「姉さん、残念ですけれど、貴女には神殿の秘宝を盗んだ罪を被っていただきます」

 カサンドラは、豪華な神官服を纏い、冷たい笑みを浮かべて言った。彼女の背後には、最高司祭たちが控えている。

「秘宝など、私は見ていません!なぜそんな嘘を——」

 リリアンは驚愕したが、彼女の言葉は届かない。カサンドラは、リリアンの私室から見つかったという偽造された証拠を提示し、最高司祭は厳かに宣告した。

「リリアン・ヴェルヌよ。貴女の清らかさは偽りだった。神殿の聖域を汚し、秘宝を盗んだ罪により、貴女を神官籍から追放する。貴女の居場所は、闇の魔力が渦巻く辺境の森のみだ!」

 無実の罪を押し付けられたリリアンは、わずかな荷物と、自身の清らかな力だけを頼りに、王都から最も遠い「闇の森」の境へと追いやられた。

 森の入り口は、冷たい空気とどす黒い霧に満ちており、人々が恐れる忌まわしい場所だった。

(私は負けない。私の力が、この無実の追放を乗り越える鍵になるはずだ)

 リリアンは、故郷から追いやられた悲しみと、カサンドラへの悔しさを押し殺し、森の境を歩き始めた。彼女の清らかな治癒の力が、周囲の澱んだ闇の魔力を微かに押し返し、リリアンの周囲だけが、僅かな光を帯びている。

 しかし、数日間の追放の旅で体力は限界だった。リリアンは、深い森の中でついに意識を失いかけた。

 その時、彼女の目の前に漆黒の騎士が現れた。

 その男は、影そのもののような黒い騎士服に身を包み、夜空のような黒髪と、底知れぬ深さを持つ金色の瞳を持っていた。彼の全身からは、圧倒的な権力と、人を寄せ付けない冷酷な闇の魔力が発散されていた。

 彼は、「影の王」と恐れられるクロイツェル大公、アシュトン(28歳)だった。

 アシュトンは、意識を失いかけているリリアンを見下ろした。彼の闇の魔力は、リリアンの清らかな力に反応し、微かに安定するのを感じた。

「ほう。これが、神殿が愚かにも手放した、真の聖女の光か」

 アシュトンは、リリアンの無実と真の聖女の才能を、彼の持つ強大な情報網によって既に知っていた。そして、リリアンの力こそが、闇の魔力を持つ彼自身の唯一の安定剤となることを確信していた。

 アシュトンは、倒れこむリリアンを抱き上げ、冷たい声で静かに告げた。

「貴様は、私の所有物となる。私は貴様の汚名を晴らしてやる。代わりに、貴様は生涯、私の傍から離れることを許さない」

 リリアンは、意識が朦朧とする中で、この冷酷な大公の独占的な契約を受け入れることを、本能的に選んでいた。追放という絶望の淵で、彼女は最強の守護者に拾われたのだった。
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