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第9話 聖女、祝福の宴で寝落ちする
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――聖女さま、今日は王都で祝宴がございます!」
朝からユウヒがやたら張り切っていた。
聖女召喚からしばらく。
寝てばかりの私を国民が「神の安らぎ」と讃え、
王が“聖女就任祝賀会”を開いてくれるらしい。
「へぇ……お布団つき?」
「……いえ、立食式です。」
「じゃあパスで。」
「出席は義務です!」
◇ ◇ ◇
夕方。王城の大広間はきらびやかに飾られていた。
天井のシャンデリアが金色に輝き、
音楽隊がゆるやかに奏でる旋律が響く。
私は人生初(というか異世界初)のドレス姿。
白を基調にした柔らかな布地が光を反射して、
まるで本物の聖女みたいだった。
「……似合ってますよ、聖女さま。」
振り返ると、ユウヒがいた。
見慣れた神官服ではなく、正式礼装。
淡い金の刺繍が施された白衣をまとい、
普段より大人びた表情で私を見ていた。
「……ユウヒくん、なんか今日イケメン度増してない?」
「い、いえ! いつも通りです!」
「いつも通りでそれなら、犯罪だね。」
言った本人の私が顔を赤らめた。
何言ってんだ私。酒も飲んでないのに酔ってる。
◇ ◇ ◇
祝宴が始まり、王様の挨拶が延々と続く。
拍手、乾杯、祝辞の嵐。
立食パーティというより、地獄の長会議。
私はテーブルの片隅でグラスを手にぼんやりしていた。
ユウヒは少し離れたところで他の神官と話している。
笑顔が柔らかくて、見ているだけで心が落ち着く。
(……あの子、ほんとにまっすぐだな。)
気づけば、まぶたが少し重くなる。
音楽とざわめきが遠くなっていく。
「――聖女さま?」
近くで声がして、肩に柔らかな感触が触れた。
ユウヒの手だ。
「眠ってしまわれましたか……」
私の返事はなかった。
静かに寝息を立てながら、私は立ったまま限界を迎えていた。
◇ ◇ ◇
「……失礼いたします。」
ユウヒはそっと私を抱き上げた。
軽い。驚くほど、軽い。
それが妙に切なく感じた。
「聖女さまは……いつも頑張ってるんです。」
(寝てるだけなのに、頑張ってるって言われるの初めてだな……)
寝ぼけながら、そんなことを考えた気がする。
会場のざわめきが止まり、皆が道を開ける。
「“眠りの奇跡”だ……」
「神官が聖女を抱いている……」
「尊い……!」
いや、それただの搬出だから。
◇ ◇ ◇
静かな回廊を歩きながら、ユウヒは私を見下ろした。
長い睫毛が揺れて、唇が微かに動く。
「……ユウヒくん、あったかいね。」
「!?」
寝言だった。
でも、心臓に爆弾を落とすには十分だった。
「い、今のは……夢の中ですよね……!?」
答えは、返ってこない。
彼女は穏やかな寝顔のまま、微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
聖堂に戻り、彼はベッドに彼女をそっと横たえる。
月明かりがカーテン越しに差し込み、
白い寝顔を柔らかく照らしていた。
「……本当に、あなたが来てくれてよかった。」
その声は、誰にも聞こえなかった。
ただ、彼の掌の中の温もりだけが静かに答えていた。
――そして、聖女はまた夢の中へ。
世界は今日も、安らかに眠っている。
次回予告
第10話 「聖女、初めての街デート(護衛つき)」
――お楽しみに!
朝からユウヒがやたら張り切っていた。
聖女召喚からしばらく。
寝てばかりの私を国民が「神の安らぎ」と讃え、
王が“聖女就任祝賀会”を開いてくれるらしい。
「へぇ……お布団つき?」
「……いえ、立食式です。」
「じゃあパスで。」
「出席は義務です!」
◇ ◇ ◇
夕方。王城の大広間はきらびやかに飾られていた。
天井のシャンデリアが金色に輝き、
音楽隊がゆるやかに奏でる旋律が響く。
私は人生初(というか異世界初)のドレス姿。
白を基調にした柔らかな布地が光を反射して、
まるで本物の聖女みたいだった。
「……似合ってますよ、聖女さま。」
振り返ると、ユウヒがいた。
見慣れた神官服ではなく、正式礼装。
淡い金の刺繍が施された白衣をまとい、
普段より大人びた表情で私を見ていた。
「……ユウヒくん、なんか今日イケメン度増してない?」
「い、いえ! いつも通りです!」
「いつも通りでそれなら、犯罪だね。」
言った本人の私が顔を赤らめた。
何言ってんだ私。酒も飲んでないのに酔ってる。
◇ ◇ ◇
祝宴が始まり、王様の挨拶が延々と続く。
拍手、乾杯、祝辞の嵐。
立食パーティというより、地獄の長会議。
私はテーブルの片隅でグラスを手にぼんやりしていた。
ユウヒは少し離れたところで他の神官と話している。
笑顔が柔らかくて、見ているだけで心が落ち着く。
(……あの子、ほんとにまっすぐだな。)
気づけば、まぶたが少し重くなる。
音楽とざわめきが遠くなっていく。
「――聖女さま?」
近くで声がして、肩に柔らかな感触が触れた。
ユウヒの手だ。
「眠ってしまわれましたか……」
私の返事はなかった。
静かに寝息を立てながら、私は立ったまま限界を迎えていた。
◇ ◇ ◇
「……失礼いたします。」
ユウヒはそっと私を抱き上げた。
軽い。驚くほど、軽い。
それが妙に切なく感じた。
「聖女さまは……いつも頑張ってるんです。」
(寝てるだけなのに、頑張ってるって言われるの初めてだな……)
寝ぼけながら、そんなことを考えた気がする。
会場のざわめきが止まり、皆が道を開ける。
「“眠りの奇跡”だ……」
「神官が聖女を抱いている……」
「尊い……!」
いや、それただの搬出だから。
◇ ◇ ◇
静かな回廊を歩きながら、ユウヒは私を見下ろした。
長い睫毛が揺れて、唇が微かに動く。
「……ユウヒくん、あったかいね。」
「!?」
寝言だった。
でも、心臓に爆弾を落とすには十分だった。
「い、今のは……夢の中ですよね……!?」
答えは、返ってこない。
彼女は穏やかな寝顔のまま、微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
聖堂に戻り、彼はベッドに彼女をそっと横たえる。
月明かりがカーテン越しに差し込み、
白い寝顔を柔らかく照らしていた。
「……本当に、あなたが来てくれてよかった。」
その声は、誰にも聞こえなかった。
ただ、彼の掌の中の温もりだけが静かに答えていた。
――そして、聖女はまた夢の中へ。
世界は今日も、安らかに眠っている。
次回予告
第10話 「聖女、初めての街デート(護衛つき)」
――お楽しみに!
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