【完結】聖女さまは今日もベッドの中~転生したぐうたらOL、子犬系見習い神官に甘やかされる~

空錠 総二郎

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第34話 聖女、動く――“働かないで世界を救う方法”

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朝。

真由はベッドの上で、天井を見つめながら考えていた。

「……さて。どうやったら“働かずに世界を救える”か。」

寝転びながら言うその台詞に、
隣の椅子で聖典を読んでいたユウヒが、目を瞬かせた。

「……はい?」
「だってさ、神様また“祈れ”とか“眠れ”とか言ってたけど、
 それって要するに“なんかしろ”ってことでしょ?」
「まあ……言い換えれば、そうですね。」
「だから私なりの“なんか”を考えた結果――」

真由は枕を抱きしめて、どや顔で言った。

「“寝ながら救う”が最適解。」

「……予想してましたけど、やっぱりそう来ましたか。」
「だって、眠ることが癒しでしょ?
 だったら、寝る私を見て癒される人が増えれば、
 結果的に世界は平和になるのでは?」
「理屈がふわふわしてます!」
「ふわふわは癒しの象徴だよ?」
「ぐっ……!」

ユウヒは反論しかけて、途中で諦めた。
(この人に論理で勝つのは不可能だ……)

◇ ◇ ◇

「でね、思ったんだけど。」
「はい。」
「神殿って、ちょっと空気が固いじゃない?」
「確かに……神聖さを保つために、静寂を重んじています。」
「そう、それ! 静かすぎるの!」
「……聖堂ですからね?」
「でもね、“安らぎ”って静けさだけじゃないの。
 あったかい音とか、甘い香りとか……
 “生きてる感じ”が必要なんだよ。」

ユウヒが首をかしげた。
「つまり?」

「だから、みんなの部屋に昼寝スペースを作る!」

「――――――は?」

◇ ◇ ◇

一時間後。

聖堂の一角では、なぜか畳のような敷物とふかふかの枕が並べられていた。
修道女たちが戸惑いながら眺めている。

「えっと……これは……?」
「“聖女さま提案・おひるねの間”です!」とユウヒ。
「お昼の一時間だけ、全員ここで休むの!」と真由。

「し、しかし聖務が――」
「お昼寝で効率アップ。
 寝れば寝るほど清らかになる。はい、科学的根拠は私。」

「……聖女さまの言葉なら……!」

まさかの信仰補正で通った。

◇ ◇ ◇

お昼時。
神官も修道女も、みんなマットにごろんと横になる。

最初は落ち着かない様子だったが――

「……これ、意外と……気持ちいいですね……」
「ふわ……あったか……」
「すー……」

数分で全員爆睡。
廊下に静かな寝息が並ぶ。

ユウヒがそっと真由に近づいた。

「……まさか本当に“寝かせて救う”とは。」
「でしょ? ほら、これぞ“ぐうたら救世”よ。」
「ぐうたら救世……新しい宗派が生まれそうです。」

ふたりは小さく笑い合った。

◇ ◇ ◇

夕方。

昼寝の間の噂は、すぐに王都中に広がった。
「聖女さまの昼寝法は癒しの魔法」と評判になり、
やがて民たちも真似をして、
昼下がりに休息を取る“安らぎの風習”が生まれていった。

結果――。

人々の不安が減り、争いが減り、
街には笑顔が戻った。

つまり。

「寝てただけで、世界がちょっと平和になった件。」

「……まさか本当に実現するとは。」

ユウヒは呆れたように笑い、
そして優しく言った。

「やっぱりあなたは、神様より賢いかもしれません。」
「えっ、それ褒めすぎじゃない?」
「本気です。」

真由は照れ隠しに布団をかぶった。

(神様が与えた“使命”も大事。
 でも、私の“安らぎ”が誰かを救うなら――
 それで十分だよね。)

◇ ◇ ◇

風鈴が鳴る。
その音に重なるように、
神の声が、どこか遠くで囁いた。

“――これもまた、祈りのかたち。”

真由はにっこり笑って、
ベッドの中で小さく呟いた。

「ね? 神様。働かないのも、信仰なんだよ。」

◇ ◇ ◇

夜。
風鈴が揺れ、彼女の寝息が神殿に安らぎを運んでいった。

次回予告

第35話 「聖女、こたつを召喚――“怠惰の聖具”爆誕!」
――お楽しみに!
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