淡色に揺れる

かなめ

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後章

放課後(思わぬライバル)

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放課後、蝉の声が遠くから聞こえるまだ夏の名残が残る校門前。
部活のない定休日、蓮はラケットケースを持たない身軽な格好で正門を出た。

すると。

「蓮せんぱーい~!」

声をかけてきたのは、明るい栗色の髪にハーフツインをゆるく結んだ1年生の女の子。
制服の着崩しはギリギリ校則内。陽気な彼女は、小走りに蓮に駆け寄る。

「あ、ひいなちゃん!」

蓮に名前を呼ばれた彼女の名は桜庭ひいな、高1。
いつしか、委員会の集まりで仲良くなった、蓮にとって唯一の部活外での後輩だ。

「やっぱり!今日部活ない日ですよね?一緒に帰りませんか~?」

「いいよいいよ~、一緒に帰ろ!」

まっすぐ名前を呼ばれて嬉しそうに笑顔を返す。それに満足げな笑みを返すひいな。

「やったー!今日ちょっとアイス食べて帰りたくて!蓮先輩、チョコかバニラならどっちが好きですか?」

「んーキャラメル!」

「えー!選択肢外は反則です~」

ひいなはくるりと蓮の前に回って、スキップするような足取りで並んで歩き出す。
至近距離、楽しげな笑い声。
その様子を、正門の陰に隠れて見つめていたのは、詩弦と彩里だった。

「誰あの子」

詩弦が低く呟いた。

「なんだあのあざと系女子!蓮ちゃんに近づくな!シッシッ!」

彩里も、いつもの余裕はなかった。視線はぴたりと蓮とひいなの後ろ姿に張りついたままだ。

「なんか、距離近くない? 肩、触れてるよね。てかあの顔。蓮ちゃんてめっちゃ楽しそうじゃん。ふーん」

「ちゃんと敬語使ってるけど、あのギャル感、信用できないわ」

「それは詩弦の偏見でしょ」

「偏見じゃない。直感」

詩弦は腕を組んで眉をひそめる。

「それになんなのまじで。私らが部活引退した途端にすぐあんな」

「わかる。結構気に食わない」

言ってから、彩里は目をそらした。
蓮と一緒に話して、ふざけて、笑い合った日々。それが、知らない誰かに塗り替えられる。
その現実を突きつけられるようで、胸がきゅうと痛んだ。

「どこの馬の骨かもわからないあの女に、蓮は渡せない」

詩弦の声に、彩里はちらと横目をやる。
珍しく感情が露骨に乗っているその顔を見て、静かに息を吐いた。

「……しれっとマウント取らないでくれます?」

「何が?」

「名前」

「何?」

「いつから"蓮"って呼んでるの」

「……」

思わず、詩弦は黙ってしまった。
夜、蓮の誤解を解いた日。勇気を出して私は白川を下の名前で呼んだ。
でも、蓮は特に反応を示さなくって、内心ちょっぴり落胆したんだっけ。

無言を貫いていると、彩里はそれ以上何も追及しなかった。
ただその視線の先には、今も笑い合って歩く蓮とひいなの姿があった。

その姿が夕焼けに溶けていくにつれて、二人の胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

蓮は、絶対に渡さない。そう誓うかのように。
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