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サキュバスのミントさん

牧場長とミントさん

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「そんなワケでお前のお相手はコイツ。佐竹さん家の豚朗君だ」

牧場長室に呼びつけた緑髪ポニテのサキュバスに、開口一番、俺は言ってやった。
机の上に置いた「お見合い写真」には、決め顔でカメラ目線の良い顔をした白銀色の豚が写っている。

繁殖相手としてこれ以上ない良血統の相手を探してきてやったんだ。淫魔よ存分に感謝するといい。

なにしろこの豚朗君はプラチナピッグという希少な魔物の上に、各種の品評会でも毎回上位に入賞するほどの超エリートなのだ。

だって言うのにこのクソアマは、大きく息を吸い込み、ゆっくりと荒ぶる鷹のポーズをとると、

「豚ぢゃん!!」

と怒り心頭の形相で不満を述べた。

「豚ですが、なにか?」

「なにか? じゃないでしょ!!」

「人型の魔物と獣型の魔物の交尾は普通だし、妊娠も可能なのでなんの問題もありませんが??」

「そういうアレコレを問題視してるんぢゃないの! 乙女の貞操なんだと思ってるのよ!! って話!!」

くそったれ、淫魔が貞操云々持ち出すんぢゃねーよ。ホントにめんどくせぇなコイツ・・・・

この我侭娘の名前はミント・ティアーズ。
性格を一言で表すならアホの子。二言で表すとものすごいアホの子だ。

緑髪で腰まで届く程のロングポニーテール。どちらかと言えばツリ目寄りな目に赤い瞳、それに加えて、悪魔っぽい蝙蝠羽、クワガタの顎みたいな角、がんばれば刺せそうな感じがしなくもない矢印型の尻尾を完備した、まごうことなき悪魔っ娘だ。

種族は淫魔目、サキュバス科、サキュバス属、サキュバス種。となる。

つまりあの代表的なエロい魔物である。

そんなエロい種族なら誰とでもつがいになって、ポクポク子供を産んでファームの経営に貢献してくれるものだと思って契約する事にしたのだが、
こんな感じで、あれは嫌これは嫌と難癖つけては一向に交尾する気配がない。

業界ではサキュバスなんてカップリングが容易な入門種とも言える存在なんだが・・・。

俺の仕事はモンスター娘、通称モン娘のブリーダーだ。

ブリーダーと言えばペットなんかでは産まれた子供を販売するのが主な収入源だが、魔物のブリーダーは少し勝手が違う。

コイツ等は人間より遥かに優れた身体能力や、良く分からない不思議な能力を持ってはいるが、
人間の数が増えるに連れ土地開発で住処を追われた結果、多くの種族が絶滅の危機に瀕している。

衣食住と様々な部分で魔物の生活に影響が出ているが、生態系への影響でとりわけ深刻だったのが繁殖についてだ。

魔物の生態は雌雄で姿形がはっきり分かれていて、人型の魔物は雄の数が極端に少なくほとんどが雌、獣型や異形種等のモンスターは雌が極端に少なくほぼ雄である。

なので魔物同士のカップリングとしては、人型×魔物型が当然でそれが彼等の繁殖スタイルだった。

一見するとエロゲーの異種間プレイかよ!と突っ込みたくなる様なカップリングなので、人間の価値観では歪に思えるが、魔物の社会はそのサイクルで完成されていたのだ。

その完成されたサイクルに人間が加わった為、パートナーに「人」を選ぶ事が可能となってしまった。

困った事に彼女等には人と同じく「恋愛感情」があったので、意思の疎通が容易でコミュニケーションが取れる人間の男に出合った結果、子作り作業と言う一時だけの体の関係、ざっくり言えばただやるだけの魔物達をだんだんと忌避する様になってしまい、正常な繁殖行為に及ぶ雌が激減してしまったのだ。

ここ数百年の間で、彼女達がパートナーを選ぶ基準は、もう完全に人間の男へと移ってしまっている。

その価値観が変わってしまった結果については、冒頭のミントとのやり取りが如実に物語っていると言えよう。

俺の頭が狂ってて、女の子に豚の相手をしろと言ったワケではない事がご理解いただけただろうか?

これのなにがマズイのかと言えば、純潔の魔物が完全に産まれなくなってしまう点だ。

魔物同士の交尾では、どちらかの種族が半々程度の確率で産まれてくるか、特定の組み合わせでの混血種、または一方の種族のみが優先的に産まれてくるなど、様々な結果となるが、人との配合では99.9%能力も繁殖力もほとんど人間と変わらない雌が産まれてくる。

極々稀に雄も産まれて来るが、こちらも人間の雄と大して変わりがない。

希少な例では、人間の女が魔物型の雄を伴侶に選ぶ事があるが、当然の如くこの組み合わせでも産まれてくるのは極めて人間に近い雌ばかりで、結果に差はなかったりする。

そもそもにおいて、彼女達の趣味嗜好以前に、生活圏を人間社会に移した雌と、自然界で生活し数が極端に減ってしまった雄とでは出会う事さえほとんどなく、魔物同士の自然下での繁殖は絶望的になっている。

オマケに魔物同士の配合では受精率が悪く、出生率が人間とのハーフに比べ異常に低い事も判明してしまった。

元々なにもなければ何百年と生きる生物なので、繁殖効率が悪いのは個体の寿命が長いことと無関係ではないだろう。

こんなサイクルが完全に定着してしまえば、魔物の血は人間の血で薄められてしまい、身体的特徴が失われ不思議能力もロクに使えなくなってしまうだろう。

そして将来的には純潔の魔物は絶滅してしまう。

魔物の力は今となっては人間にとっても恩恵の大きい捨てられない技術になっていたので、事態を重く見た各国は魔物同士の配合を積極的に取り入れる政策を取り、種の保存を優先する事になった。

まぁ、簡単に言えば希少動物だから保護して人工繁殖しなさいって事だ。

で、俺達ブリーダーはその魔物同士を掛け合わせて、産まれた子供に応じて政府から褒章を貰うのを生業としているわけだ。

産ませる個体は、希少な種族や社会的貢献の大きい種族を産ませる程、報酬や評価が高くなるので、その辺りの匙加減を考慮しつつあれこれするのが、この仕事の醍醐味と言える。

魔物の飼養に至る経緯も様々で、飼養条件を提示して魔物本人と真っ当に契約するケース、野良モン娘を無理矢理拉致って来て調教し従属させるケース、政府が管理している固体が問題児認定された為に、国から再教育を依頼されるケース、魔物の側から婚活目的で自主的に契約するケース等々。様々だ。

非常に特殊な例だが、豚朗君の飼い主である佐竹さんなんかは、自分の嫁さんであるモン娘に魔物の雄をけしかけて交尾させ子供を取っている。

もう、それなんてNTRプレイだよ!と突っ込みたくなるが、こんな感じでモン娘との関係は、ブリーダーに限らず人それぞれだ。

つまるところ、彼女達と俺達の関係は、ご主人様とメイドだろうが、恋人同士だろうが、夫婦だろうが、ペットだろうがどんな形でも良い。と言うアバウトな物だったりする。

なにしろ法律的にはモン娘も犬猫と同じで物扱いだ。

殺害しても罪状は器物破損なので、よっぽど貴重な娘や社会貢献の大きい娘を殺しでもしない限り、法的には大した罪に問われない。

もっとも、刑事罰が軽いとは言え、民事面では人間を殺めた場合の相場を軽く上回る、莫大な慰謝料を払わされる事になるだろうが。

反面、生まれた子供については相応のルールがある。

人間とのハーフであれば法的には一応人間だが、扱いは純潔の人間より軽視される事が多い。いつの世でもある事だがハーフの辛い所だ。

魔物×魔物から生まれた純潔の場合は、原則として政府に引き取られ、専門の機関で人間社会の常識や正しい性知識を学ぶこととなる。

雌なら特に問題なくそのまま牧場預かりで教育を受けさせる事も可能だが、雄の場合は少々勝手が違う。

「種の保存」を大義名分にしているので、希少な雄は保護施設に送るのが原則だからだ。

そのまま自分の所で担当できるのは、一流ブリーダー認定を受けており、なおかつ雄の飼育許可証を持っている者だけだ。

契約してる魔物や産まれた子供同士の品評会等も盛んに行われているので、結果として俺達はブリーダーと呼ばれているが、一応、褒章とは別に最低限の給料が保障されている公務員である。

そして現在、家で飼ってるモン娘3匹の内の1匹が、この我侭娘のミントさんと言うわけだ。

冒頭でプラチナピッグの豚朗君をディスる発言をしていたミントだが、人型ではない魔物は前述の如く絶滅の危機に瀕しており大変貴重な存在だ。

中でもプラチナピッグはツチノコ並みのレア種であり、こんな縁談が持ち上がった事すら奇跡なのである。

本来であればディスられるのは、ヤリマンビッチで固体数も多くチャームしか能のない低級淫魔のミントの方だ。

もっと考えて発言して欲しい。

「一度・・・一度だけ・・・会うだけでいいので、見合ってはくれませんかねぇ?」

そんな貴重な縁談にようやく漕ぎ着けた俺としては、嫌と言われてはいそーですかと簡単に諦めるワケにはいかない。

「No!」

んが、ミントの決意は揺らがない。

「そこをなんとか!」

「無理!」

「拝むから!」

「無理の助!!」

誰だよ無理の助って! と突っ込みそうになったが、とにかくものすごい拒否反応だ。

ものすごい拒否反応だが、そこは雌雄のにゃんにゃん。

繁殖スイッチが最高に高まる満月や新月に豚朗君と二人きりにすれば、本能的にやってしまう可能性はかなり高い。

究極的にはコイツが拒否ってても、豚朗君にやる気があれば交尾は成立するので問題はない。

人間の価値観では合意の上でも豚×人型で絵面的にアレなのに、無理矢理やったらそれこそ通報もんの惨劇であるが、俺の利益と言う大儀の前には瑣末な事だ。

なによりコイツが家に来て早1年。

出産どころか1度も交尾しておらず、お上に何一つ報告できる成果がない。

出産成功とまでは言わずとも、せめて1回ぐらい交尾報告を出さないと、お上に管理能力なしと判断され減給されてしまう。

公務員のブリーダーとは言えピンキリで、大型施設と多くの職員を有してる一流ブリーダーであれば、自社でカップリングから繁殖までこなせるが、俺の様な三流ブリーダーでは当然の如く雄の飼育許可証などは持っていない為、カップリングをそういった大御所にお願いしてお見合い&種付けするのが常だ。

このお見合いがなかなか厄介で、交尾が成功してもしなくても相応の諸経費がかかってしまう。

そして交尾に至った所で基本的に妊娠しない事がほとんどなので、それはもうのっぴきらない出費なのである。

出産成功時に生まれた種族により政府から払われる報奨金の額が異なるとは言え、多くの場合、この報奨金の分ぐらいは経費がかかっているので、正直、一流所以外は儲からない商売なのだ。

なんとしてでも、成績不信による減給だけは避けたい。

てか、この際贅沢は言わない。豚朗君との縁談が流れようとも、他の魔物とつがいになってくれればいいのである。

そんな事を逡巡している内に、相当お冠なのかミントの奴は、プイっと横を向くと膨れツラのまま黙りこんでしまった。

こうなってしまうと非常に頑固でどうにもならないので、俺は豚朗君とミントをなんとかつがいにしようと画策しつつ、機嫌が直るまでほうっておこうと、部屋を後にした。
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