都市伝説レポート

君山洋太朗

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第221回 日野富子

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都市伝説レポート 第221回

「日野富子」

取材・文: 野々宮圭介


今回の調査は、京都在住の郷土史研究家・竹内氏(仮名)からの情報提供に端を発した。「応仁の乱には、歴史書に記されない『もう一つの真実』がある」という彼の言葉に、筆者は興味を抱いた。

室町時代後期、文明九年(1477年)まで十一年間続いた応仁の乱。足利将軍家の後継問題に端を発したこの大乱は、京都を二分し、日本全国を戦火に包んだ。しかし、この戦乱の陰で暗躍した一人の女性について、京都の古老たちの間では今なお奇妙な伝承が語り継がれているという。

その女性の名は日野富子(ひのとみこ)。足利義政の正室にして、義尚の生母である。表向きは将軍家の威光を背負った高貴な女性だが、竹内氏によれば「富子こそが戦乱を長引かせた真の黒幕」だというのだ。


筆者は竹内氏の案内で、京都御所近くの古い町並みを歩いた。室町時代から続く商家の軒先で、八十代の老女・山田さん(仮名)が興味深い話を聞かせてくれた。

「うちの先祖は代々この界隈で商いをしてきましてね。言い伝えによると、応仁の乱の頃、富子様は東軍の細川勝元にも、西軍の山名宗全にも、こっそりと大金を貸していたそうです」

山田さんの話では、富子は表面上は息子義尚を通じて東軍を支援しながら、裏では西軍にも戦費を融資していたという。その狡猾さは当時の京都の商人たちの間で囁かれ、「剣を交えるのは将たちだが、戦を操るのは富子の銭だ」という言葉まで生まれたそうだ。

「勝った方から元金と利息を回収し、負けた方からも『次こそは』と言って更なる融資を引き出す。どちらに転んでも富子様は損をしない仕組みでした」と山田さんは語る。


更なる調査のため、筆者は民俗学者の乙羽教授に意見を求めた。

「富子が高利貸しを営んでいたことは史実です。しかし問題は、彼女の融資のタイミングです」

乙羽教授は古い記録を示しながら説明した。

「戦況記録を詳しく調べると、両軍の間で和睦の機運が高まるたびに、不思議なことに兵糧や武具の調達が活発化している痕跡があります」

教授によれば、富子は戦が収まりそうになると、密かに兵糧商や武具商に資金を提供し、両軍に物資を売らせていたという。戦争が終結すれば、高利で貸し付けた戦費の回収が困難になる。そのため富子は意図的に戦火を長引かせた可能性があるというのだ。

「当時の記録には『富子が戦火を買い支えた』という表現まで見られます。これは単なる比喩ではなく、文字通りの意味だったのかもしれません」


筆者は更に調査を進めるため、応仁の乱の古戦場跡を巡った。西陣の一角で出会った骨董商の田中氏(仮名)は、祖父から聞いたという不気味な話を教えてくれた。

「応仁の乱の間、何度か両軍の間で和睦の話がまとまりそうになったそうです。ところが、その度に必ず妙な横やりが入って決裂した。不思議なことに、決裂の際には必ず『金銭絡みの新たな問題』が浮上していたといいます」

田中氏の話では、和議成立直前に決まって現れる謎の仲介者や、突然の資金調達の申し出、あるいは賠償金を巡る新たな争いなどが持ち上がり、せっかくまとまった和睦が破談になったという。

「人々は『富子が銭で和議を壊した』と囁きました。戦が終われば、彼女の莫大な貸し付けも焦げ付く恐れがありましたから」


最後に筆者が向かったのは、某大学の史学科に保管されている室町時代の古文書群である。応仁の乱に関する当時の記録を精査していると、奇妙な事実に気づいた。日野富子の金銭取引に関する具体的な記録が、あまりにも少ないのである。

「これほど大規模な金融活動を行っていたとされる人物にしては、詳細な記録が残っていない。意図的に隠蔽された可能性もあります」と古文書に詳しい研究員は指摘する。

更に興味深いのは、富子の死後、彼女の莫大な財産がどこに消えたのかが不明だということである。当時の記録では「富子の財は雲散霧消した」とだけ記されており、その行方は杳として知れない。


筆者の調査はここまでである。日野富子が単なる将軍の正室を超えた「戦争商人」だったのか、それとも時代の流れに翻弄された一人の女性に過ぎなかったのか。史実と伝承の境界で、真実は曖昧な輪郭を保ち続けている。

確かなことは、応仁の乱という未曾有の戦乱の背後で、巨額の資金が動いていたということである。そして、その資金の流れを握っていた人物が存在したということも。

ただし、これらの話が真実なのか、それとも民間に流布された都市伝説の一種なのかは、読者諸兄の判断にお任せしたい。歴史の闇に消えた真実を、我々が完全に解き明かすことは永遠に不可能なのかもしれない。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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