都市伝説レポート

君山洋太朗

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第247回 クーパー家の天井男

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都市伝説レポート 第247回

「クーパー家の天井男」

取材・文: 野々宮圭介


筆者のもとに一通のメールが届いたのは、梅雨の湿気が重くのしかかる六月の午後のことだった。差出人は都市伝説研究サークル「オカルト・アーカイブズ」の代表を名乗る大学生からで、件名には「海外の有名心霊写真について」とあった。

「野々宮さんの記事をいつも読ませていただいています。今回お尋ねしたいのは『クーパー家の天井男』と呼ばれる写真についてです。ネット上では心霊写真として有名ですが、真偽のほどはいかがでしょうか」

筆者は革製のメモ帳に「クーパー家・天井男・1950年代・テキサス州」と走り書きした。海外の都市伝説は専門外だが、読者からの質問に答えるのも編集者の務めである。さっそく調査を開始することにした。


問題となっている写真は、インターネット上で広く流通している白黒写真である。四人家族がダイニングテーブルを囲んで笑顔を向けている、一見すると何の変哲もない記念写真に見える。しかし、写真の右上部分、天井付近を注意深く観察すると、逆さまになった人影のようなシルエットが写り込んでいるのが確認できる。

この写真には「1950年代、アメリカ・テキサス州で撮影」「新居への引越し記念として撮影された家族写真」といった説明が付されることが多い。そして決まって「撮影後、この家族には不幸が訪れた」という後日談が添えられている。

筆者が複数のオカルト系サイトを調査したところ、この写真は2000年代初頭頃からインターネット上で心霊写真として紹介され始めたことが判明した。しかし奇妙なことに、それ以前の文献や雑誌記事でこの写真が取り上げられた記録は見つからない。


民俗学者の乙羽教授に写真を見てもらったところ、興味深い指摘を受けた。

「この手の心霊写真は、実は技術的な観点から年代を推測できることがあります。写真の粒子の荒さや、影の落ち方、そして何より『写り込み方』に注目してください」

教授の説明によれば、1950年代のカメラ技術では、このような鮮明な「二重露光」的効果を意図的に作り出すことは困難だという。むしろデジタル加工技術が普及した2000年代以降に作成された可能性が高いとの見解だった。

また、民俗学の視点から教授はこうも付け加えた。

「アメリカの都市伝説における『天井から現れる存在』というモチーフは、実は比較的新しいものです。古典的な怪談では、むしろ地面から這い上がってくる存在の方が一般的でした」


筆者が最も気になったのは、この写真の出所が一切特定できないことだった。通常、このような話題性のある写真には必ず「初出」となる雑誌記事や書籍が存在するものだが、「クーパー家の天井男」に関してはそれが見つからない。

撮影者とされる「クーパー家」についても、実在を裏付ける資料は発見できなかった。アメリカの心霊研究団体数カ所に問い合わせを行ったが、1950年代の心霊現象事例として「クーパー家」の名前が記録された文献は存在しないという回答だった。

興味深いことに、この写真が「有名になった」タイミングと、一般家庭でのデジタル写真編集ソフトの普及時期がほぼ一致している。PhotoshopやGIMPといったソフトウェアが広まった2000年代初頭から、この写真がインターネット上で急速に拡散されたのは偶然だろうか。


灰原探偵は、この件について実に示唆に深い見解を示した。

「昔の都市伝説は口コミで伝わりましたが、今はインターネットです。画像に尤もらしい説明を付ければ、それがいつの間にか『事実』として独り歩きしてしまう。これも現代の都市伝説の特徴かもしれませんね」

確かに、ネット上では「クーパー家の天井男」を検証する記事よりも、心霊現象として紹介する記事の方が圧倒的に多い。人々は謎めいた話を求めており、その心理がこうした都市伝説の拡散を後押ししているのかもしれない。


この調査を通じて浮かび上がったのは、現代の都市伝説が持つ新たな特徴である。従来の都市伝説が「語り継がれる」ものだったのに対し、「クーパー家の天井男」のような事例は「拡散される」都市伝説と呼ぶべきかもしれない。

写真の真偽については、現時点では「創作である可能性が極めて高い」というのが筆者の結論である。しかし同時に、この写真が多くの人々の想像力を刺激し、新しい形の怪談として定着していることも事実だ。

技術の進歩は、都市伝説の生まれ方も変えている。かつて「見た」「聞いた」という証言に頼っていた怪談が、今や「写真」という物的証拠を伴って現れる。その証拠が偽物であったとしても、人々の心に残る印象は決して軽いものではない。


「クーパー家の天井男」が真実か虚構かは、読者の判断に委ねたい。ただし一つ言えることは、この写真をめぐる現象そのものが、現代という時代を映し出す鏡のような存在だということである。

我々は情報の海に溺れながらも、相変わらず謎と驚異を求めている。そして技術は、その欲求に応える新しい手段を次々と提供し続けている。「クーパー家の天井男」は、そんな現代の産物なのかもしれない。

なお、この写真に関する追加情報をお持ちの読者がおられれば、ぜひ編集部までご一報いただきたい。都市伝説の調査に終わりはないのだから。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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