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第251回 ウーバー人面犬
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都市伝説レポート 第251回
「ウーバー人面犬」
取材・文: 野々宮圭介
事の始まりは、読者からの投稿メールだった。差出人は都内在住の会社員・田中氏(仮名、32歳)。件名には「配達員の写真が変でした」とあり、本文には震える文字でこう綴られていた。
「深夜にフードデリバリーを注文したところ、配達員のプロフィール写真が明らかに人間ではありませんでした。人間の顔をした犬のような生き物で、キャンセルしようとしましたが、なぜかアプリが『配達中』から進まなくなり...」
筆者はこの投稿を興味深く思い、田中氏に詳細な聞き取りを行った。また、同様の体験をした人物がいないか、SNS上での情報収集も並行して進めた。
田中氏の証言によると、事件が起きたのは今年3月の深夜2時頃。残業で疲れ切った田中氏は、某大手フードデリバリーアプリでハンバーガーチェーンの商品を注文した。注文確定後、配達員の情報が表示された際、そのプロフィール写真に愕然としたという。
「最初は加工アプリか何かのジョークだと思ったんです。でも、よく見ると写真の質感や影の付き方が妙にリアルで...人間の顔をした犬、というより犬の体に人間の顔が付いているような、そんな不気味な写真でした」
田中氏はすぐにキャンセル手続きを取ろうとしたが、アプリ画面は「配達中」のステータスから一向に変わらない。カスタマーサポートに連絡を試みるも、深夜時間帯のため繋がらなかった。
約30分後、玄関前に荷物が置かれた音が聞こえた。恐る恐る扉を開けた田中氏が見たのは、確かに注文した商品の入った袋と、その周辺に散乱する大量の犬の毛だった。
「茶色くて長い毛が、まるで毛玉が破裂したかのように玄関前に散らばっていました。近所で犬を飼っている人はいませんし、これほど大量の毛は見たことがありませんでした」
筆者は同様の体験談を求め、都市伝説系のコミュニティサイトやSNSを精査した。すると、関東圏を中心に類似の報告が散見されることが判明した。
横浜市在住の主婦・佐藤氏(仮名、41歳)は、昨年12月に同様の体験をしたと証言する。
「子供が熱を出して買い物に行けず、解熱剤と一緒におかゆを注文したんです。配達員の写真を見た時は、アプリの不具合だと思いましたが...翌朝、玄関前を掃除していたら、大量の動物の毛が落ちていて」
興味深いのは、これらの事例がすべて深夜から早朝にかけての時間帯に集中していることだ。また、配達される商品に異常はなく、味や品質に問題はないという点も共通している。
民俗学者の乙羽教授は、この現象について興味深い分析を示した。
「人面犬の目撃談は昭和後期から平成初期にかけて頻繁に報告されていました。当時は主に深夜の住宅街や峠道での遭遇が多かったのですが、現代ではデリバリーサービスという形で都市生活に溶け込んでいるのかもしれません」
一方、某フードデリバリー企業の関係者(匿名希望)は、「配達員の登録には身分証明書の確認を必須としており、このような写真での登録は不可能」と困惑を隠さない。また、「配達員のGPS情報や配達時間は全て記録されているが、該当時間帯に不審な動きは確認されていない」と述べた。
特に不可解なのは、これらの事例において、アプリ上の配達員情報が事後的に確認できなくなることだ。田中氏も佐藤氏も、翌日にアプリの注文履歴を確認したところ、該当する注文記録自体が存在しなかったという。
「注文した記憶は確実にあるし、商品も届いた。でもアプリには履歴が残っていない。友人に話しても『夢じゃないの?』と言われる始末です」
IT関連に詳しい情報筋は、「通常のシステムエラーでは説明がつかない現象」と首をひねる。
筆者は、この「ウーバー人面犬」現象が現代社会の構造と奇妙に符合していることに注目している。
フードデリバリーサービスの配達員は、多くが個人事業主として登録しており、雇用関係の実態は曖昧だ。また、顔の見えない相手からサービスを受ける現代的な商取引の形態は、従来の人間関係の枠組みを超えたところに存在している。
「昭和の人面犬は人里離れた場所に出現していましたが、令和の人面犬は我々の日常の最も身近な場所、玄関先に現れる。これは現代人の孤立感や、顔の見えない他者への不安が投影された現象なのかもしれません」と乙羽教授は語った。
3カ月間の調査を通じて、筆者は5件の類似体験談を収集した。証言者たちに共通するのは、深夜の一人きりの時間帯、そして日常的な行為(食事の注文)の最中に起きているという点だ。
現在のところ、これらの現象を科学的に説明する手がかりは見つかっていない。アプリの不具合、配達員による悪質な悪戯、あるいは目撃者の思い込みや錯覚という可能性も否定できない。
しかし、証言者たちの真摯な態度と、物理的な証拠である「犬の毛」の存在は軽視できない要素である。また、デジタル時代の都市伝説として、従来の怪異譚とは異なる形態を持つ可能性も興味深い。
令和の「ウーバー人面犬」は実在するのだろうか。それとも、便利さの代償として我々が失ったものへの無意識の恐怖が生み出した現代の幻想なのだろうか。
深夜にフードデリバリーを注文する際は、配達員のプロフィール写真をよく確認することをお勧めする。そして、もしもその顔が人間のものでなかったとしても、慌ててアプリを閉じてはいけない。なぜなら、その時こそが現代の怪異と遭遇する貴重な機会なのかもしれないからだ。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
「ウーバー人面犬」
取材・文: 野々宮圭介
事の始まりは、読者からの投稿メールだった。差出人は都内在住の会社員・田中氏(仮名、32歳)。件名には「配達員の写真が変でした」とあり、本文には震える文字でこう綴られていた。
「深夜にフードデリバリーを注文したところ、配達員のプロフィール写真が明らかに人間ではありませんでした。人間の顔をした犬のような生き物で、キャンセルしようとしましたが、なぜかアプリが『配達中』から進まなくなり...」
筆者はこの投稿を興味深く思い、田中氏に詳細な聞き取りを行った。また、同様の体験をした人物がいないか、SNS上での情報収集も並行して進めた。
田中氏の証言によると、事件が起きたのは今年3月の深夜2時頃。残業で疲れ切った田中氏は、某大手フードデリバリーアプリでハンバーガーチェーンの商品を注文した。注文確定後、配達員の情報が表示された際、そのプロフィール写真に愕然としたという。
「最初は加工アプリか何かのジョークだと思ったんです。でも、よく見ると写真の質感や影の付き方が妙にリアルで...人間の顔をした犬、というより犬の体に人間の顔が付いているような、そんな不気味な写真でした」
田中氏はすぐにキャンセル手続きを取ろうとしたが、アプリ画面は「配達中」のステータスから一向に変わらない。カスタマーサポートに連絡を試みるも、深夜時間帯のため繋がらなかった。
約30分後、玄関前に荷物が置かれた音が聞こえた。恐る恐る扉を開けた田中氏が見たのは、確かに注文した商品の入った袋と、その周辺に散乱する大量の犬の毛だった。
「茶色くて長い毛が、まるで毛玉が破裂したかのように玄関前に散らばっていました。近所で犬を飼っている人はいませんし、これほど大量の毛は見たことがありませんでした」
筆者は同様の体験談を求め、都市伝説系のコミュニティサイトやSNSを精査した。すると、関東圏を中心に類似の報告が散見されることが判明した。
横浜市在住の主婦・佐藤氏(仮名、41歳)は、昨年12月に同様の体験をしたと証言する。
「子供が熱を出して買い物に行けず、解熱剤と一緒におかゆを注文したんです。配達員の写真を見た時は、アプリの不具合だと思いましたが...翌朝、玄関前を掃除していたら、大量の動物の毛が落ちていて」
興味深いのは、これらの事例がすべて深夜から早朝にかけての時間帯に集中していることだ。また、配達される商品に異常はなく、味や品質に問題はないという点も共通している。
民俗学者の乙羽教授は、この現象について興味深い分析を示した。
「人面犬の目撃談は昭和後期から平成初期にかけて頻繁に報告されていました。当時は主に深夜の住宅街や峠道での遭遇が多かったのですが、現代ではデリバリーサービスという形で都市生活に溶け込んでいるのかもしれません」
一方、某フードデリバリー企業の関係者(匿名希望)は、「配達員の登録には身分証明書の確認を必須としており、このような写真での登録は不可能」と困惑を隠さない。また、「配達員のGPS情報や配達時間は全て記録されているが、該当時間帯に不審な動きは確認されていない」と述べた。
特に不可解なのは、これらの事例において、アプリ上の配達員情報が事後的に確認できなくなることだ。田中氏も佐藤氏も、翌日にアプリの注文履歴を確認したところ、該当する注文記録自体が存在しなかったという。
「注文した記憶は確実にあるし、商品も届いた。でもアプリには履歴が残っていない。友人に話しても『夢じゃないの?』と言われる始末です」
IT関連に詳しい情報筋は、「通常のシステムエラーでは説明がつかない現象」と首をひねる。
筆者は、この「ウーバー人面犬」現象が現代社会の構造と奇妙に符合していることに注目している。
フードデリバリーサービスの配達員は、多くが個人事業主として登録しており、雇用関係の実態は曖昧だ。また、顔の見えない相手からサービスを受ける現代的な商取引の形態は、従来の人間関係の枠組みを超えたところに存在している。
「昭和の人面犬は人里離れた場所に出現していましたが、令和の人面犬は我々の日常の最も身近な場所、玄関先に現れる。これは現代人の孤立感や、顔の見えない他者への不安が投影された現象なのかもしれません」と乙羽教授は語った。
3カ月間の調査を通じて、筆者は5件の類似体験談を収集した。証言者たちに共通するのは、深夜の一人きりの時間帯、そして日常的な行為(食事の注文)の最中に起きているという点だ。
現在のところ、これらの現象を科学的に説明する手がかりは見つかっていない。アプリの不具合、配達員による悪質な悪戯、あるいは目撃者の思い込みや錯覚という可能性も否定できない。
しかし、証言者たちの真摯な態度と、物理的な証拠である「犬の毛」の存在は軽視できない要素である。また、デジタル時代の都市伝説として、従来の怪異譚とは異なる形態を持つ可能性も興味深い。
令和の「ウーバー人面犬」は実在するのだろうか。それとも、便利さの代償として我々が失ったものへの無意識の恐怖が生み出した現代の幻想なのだろうか。
深夜にフードデリバリーを注文する際は、配達員のプロフィール写真をよく確認することをお勧めする。そして、もしもその顔が人間のものでなかったとしても、慌ててアプリを閉じてはいけない。なぜなら、その時こそが現代の怪異と遭遇する貴重な機会なのかもしれないからだ。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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