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第41話 境界のエレベーター
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都市伝説レポート 第41回
「境界のエレベーター」
取材・文: 野々宮圭介
灰原探偵からこの話を聞いたのは先月のことだった。
「野々宮さん、不気味な事件が起こったらしい」
不可思議な事件に対する彼の嗅覚は正確だ。彼から貰った情報を元に私は調査を進めることにした。
以下、警視庁の公式発表をまとめた、今回の事件のあらましである。
東京都心にそびえる某オフィスビル。深夜、ひとりの女性事務員が姿を消した。防犯カメラの映像には、彼女がエレベーターに乗る様子が映っていた。しかし、その映像には奇妙な点があった。
エレベーターのボタンを何度も押すも、ドアは閉まらない。苛立つような仕草を見せた後、ふと、誰かと話しているような動きをする。だが、そこには誰もいない。
次の瞬間、彼女は驚いたようにエレベーターから飛び出し、映像はここで途切れている。だが、編集部が入手した未公開の映像には、さらに不可解なものが映っていた。
エレベーターの奥から、ありえない方向に折れ曲がった「手」がすっと伸びてきたのだ——。
彼女の失踪から数日後、オフィスビルの屋上に設置された給水タンクの内部で、彼女の遺体が発見された。死因は溺死。しかし不可解なのは、タンクの蓋がしっかりと閉じられており、外部から侵入した形跡がなかったことだ。
一体、彼女はどのようにしてタンクの中へ入ったのか。そして、あの「手」は何だったのか。
私は、事件の詳細を探るため、問題のオフィスビルへと足を運んだ。エントランスには警備員が立っており、深夜の不審な出来事について話を聞くことができた。
「正直、深夜の見回りはしたくないんですよ。あのエレベーター、たまに誰もいないのに動くんです。夜勤の事務員がいたフロア、何かいるんじゃないかって、皆噂してますよ」
野々宮はさらに、失踪した女性事務員の同僚にも取材を試みた。仮名を希望した同僚の証言はこうだ。
「彼女、最近様子がおかしかったんです。『夜勤中、知らない人の声が聞こえる』って怯えてました。エレベーターに乗るときも、いつも慎重で……あの日、何か見たんでしょうか?」
ビルの管理会社にも問い合わせたが、「特に異常は報告されていない」との回答。しかし、ある清掃員は耳打ちするようにこう話した。
「エレベーターには“乗せてはいけない”何かがいるんです。昔からね……」
このオフィスビルでは、過去にも奇妙な出来事が報告されている。清掃員が深夜に「誰もいないはずのフロアで足音を聞いた」と証言し、別の事務員は「夜遅くまで残業していると、エレベーターに知らない人影が映る」と語る。
さらに遡ると、この土地には戦前、精神病院が建っていたという記録がある。患者たちが非人道的な扱いを受けていたという噂もあり、何かしらの因果があるのかもしれない。
果たして、これは単なる事故なのか、それとも何か超常的な存在が関与しているのか。
今回の事件報告を見て、2013年、アメリカ・ロサンゼルスのホテルで起きた「エリサ・ラム事件」を思い出す読者もいるかもしれない。彼女もまた、不審な行動を取った後、ホテルの給水タンクで遺体となって発見された。
このような事例は、単なる偶然なのだろうか。それとも、人知を超えた何かが、エレベーターという「境界」に潜んでいるのだろうか。
この話をどう受け止めるかは、読者の判断に委ねたい。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
「境界のエレベーター」
取材・文: 野々宮圭介
灰原探偵からこの話を聞いたのは先月のことだった。
「野々宮さん、不気味な事件が起こったらしい」
不可思議な事件に対する彼の嗅覚は正確だ。彼から貰った情報を元に私は調査を進めることにした。
以下、警視庁の公式発表をまとめた、今回の事件のあらましである。
東京都心にそびえる某オフィスビル。深夜、ひとりの女性事務員が姿を消した。防犯カメラの映像には、彼女がエレベーターに乗る様子が映っていた。しかし、その映像には奇妙な点があった。
エレベーターのボタンを何度も押すも、ドアは閉まらない。苛立つような仕草を見せた後、ふと、誰かと話しているような動きをする。だが、そこには誰もいない。
次の瞬間、彼女は驚いたようにエレベーターから飛び出し、映像はここで途切れている。だが、編集部が入手した未公開の映像には、さらに不可解なものが映っていた。
エレベーターの奥から、ありえない方向に折れ曲がった「手」がすっと伸びてきたのだ——。
彼女の失踪から数日後、オフィスビルの屋上に設置された給水タンクの内部で、彼女の遺体が発見された。死因は溺死。しかし不可解なのは、タンクの蓋がしっかりと閉じられており、外部から侵入した形跡がなかったことだ。
一体、彼女はどのようにしてタンクの中へ入ったのか。そして、あの「手」は何だったのか。
私は、事件の詳細を探るため、問題のオフィスビルへと足を運んだ。エントランスには警備員が立っており、深夜の不審な出来事について話を聞くことができた。
「正直、深夜の見回りはしたくないんですよ。あのエレベーター、たまに誰もいないのに動くんです。夜勤の事務員がいたフロア、何かいるんじゃないかって、皆噂してますよ」
野々宮はさらに、失踪した女性事務員の同僚にも取材を試みた。仮名を希望した同僚の証言はこうだ。
「彼女、最近様子がおかしかったんです。『夜勤中、知らない人の声が聞こえる』って怯えてました。エレベーターに乗るときも、いつも慎重で……あの日、何か見たんでしょうか?」
ビルの管理会社にも問い合わせたが、「特に異常は報告されていない」との回答。しかし、ある清掃員は耳打ちするようにこう話した。
「エレベーターには“乗せてはいけない”何かがいるんです。昔からね……」
このオフィスビルでは、過去にも奇妙な出来事が報告されている。清掃員が深夜に「誰もいないはずのフロアで足音を聞いた」と証言し、別の事務員は「夜遅くまで残業していると、エレベーターに知らない人影が映る」と語る。
さらに遡ると、この土地には戦前、精神病院が建っていたという記録がある。患者たちが非人道的な扱いを受けていたという噂もあり、何かしらの因果があるのかもしれない。
果たして、これは単なる事故なのか、それとも何か超常的な存在が関与しているのか。
今回の事件報告を見て、2013年、アメリカ・ロサンゼルスのホテルで起きた「エリサ・ラム事件」を思い出す読者もいるかもしれない。彼女もまた、不審な行動を取った後、ホテルの給水タンクで遺体となって発見された。
このような事例は、単なる偶然なのだろうか。それとも、人知を超えた何かが、エレベーターという「境界」に潜んでいるのだろうか。
この話をどう受け止めるかは、読者の判断に委ねたい。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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