都市伝説レポート

君山洋太朗

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第53回 瞬かぬ目

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都市伝説レポート 第53回

「瞬かぬ目」

取材・文: 野々宮圭介


本誌編集部には日々、読者から様々な「怪異情報」が寄せられる。その多くは既知の都市伝説の変奏であったり、単なる思い違いであったりするケースが大半だ。しかし先月末、複数の視聴者から寄せられた情報は、私の「編集者の勘」を強く刺激した。

「国会中継で○○議員がまばたきをしていなかった」

通常であれば、テレビの前でそんな些細な点に注目する視聴者はほとんどいないはずだ。しかし不思議なことに、この日の国会中継を見ていた複数の視聴者から、ほぼ同一の指摘がSNSを通じて拡散されていた。単なる偶然だろうか?それとも何か別の理由があるのだろうか?

噂の真偽は別として、取材というのは足で稼ぐものだ。私は早速、この現象について調査を開始した。


まず私は問題の国会中継映像を入手し、綿密に検証することにした。議事録によれば、当日の予算委員会は9時30分から14時15分まで行われており、○○議員(52歳・当選3回目)は主に午後の質疑に登壇していた。

映像を確認すると、確かに奇妙な点が見て取れた。通常、人間は無意識下でも約6秒に1回の頻度でまばたきをするといわれている。しかし映像内の○○議員は、カメラに映っている43分間、一度も目を閉じる様子が確認できなかったのだ。

さらに気になったのは、議論が白熱した場面で、○○議員の瞳孔が一瞬だけ横に細長く変形したように見える瞬間があったことだ。画質の悪さから確定的なことは言えないが、少なくとも不自然な印象を受けた。

この映像について、テレビ技術の専門家・杉山氏(仮名)に意見を求めた。

「カメラの特性やスタジオ照明の具合で、まばたきが映像に記録されないことはあります。また瞳孔の形状変化についても、コンタクトレンズの反射や光の加減で説明可能です」

しかし杉山氏は同時に、こうも付け加えた。「とはいえ、あの映像は確かに違和感がありますね。私も長年この業界にいますが、あそこまで明確に『不自然さ』を感じる映像は珍しい」


次に私は、○○議員の周辺人物への取材を試みた。セキュリティ上の理由から詳細は明かせないが、国会議事堂内で働く清掃スタッフのA氏から興味深い証言を得ることができた。

「あの議員さんは変わっています。他の議員さんが休憩時間に談笑している時も、いつも一人で窓の外を見ています。それと、暑い日でも決して上着を脱がないんです」

さらに、議員秘書を務めていたという匿名の情報提供者からは、さらに奇妙な証言が寄せられた。

「○○議員は、私が在職中の3年間、一度も昼食を取る姿を見たことがありません。『家で食べてくる』と言うのですが、朝から晩まで国会にいる日もありました」

これらの証言は単なる噂の域を出ないかもしれない。しかし、映像の異常と合わせて考えると、何か普通ではない事象が起きている可能性を否定できない。


調査の最終段階として、○○議員の地元事務所を訪れることにした。事前のアポイントは取れなかったが、「現代怪異録」の記者である私の身分を明かし、直接取材を申し込むつもりだった。

事務所に到着したのは、肌を刺すような冷たい雨が降る夕方だった。しかし事務所は施錠されており、中の気配もない。諦めかけた時、背後から声をかけられた。振り返ると、黒いレインコートに身を包んだ年配の男性が立っていた。

「野々宮さんですか。○○のことを調べているそうですね」

男性は自らを「元側近」と名乗り、人目につかないカフェに案内した。そこで彼は小声でこう語った。

「○○が変わったのは、3年前の海外視察からです。北欧のとある地方に視察に行った後、彼は別人のようになった。瞬きをしなくなったのもその頃からです」

「何があったのですか?」と尋ねると、男性は首を横に振った。

「分かりません。ただ、帰国後に彼が持ち帰った古い石版には、『接触』という言葉と共に、人間に似て非なるものの姿が刻まれていました」

私がさらに詳細を聞こうとした時、男性のスマートフォンが鳴った。画面を見た彼は急に表情を変え、「もう行かなければ」と言い残して店を出て行った。その後、連絡先を聞いていなかったことに気づいたが、時すでに遅し。彼の姿は雨の中に消えていた。


以上が、「瞬かぬ目の代議士」に関する私の調査報告である。映像の不自然さ、周囲の証言、そして謎の「元側近」の話。断片的な情報を総合すると、○○議員の背後には何らかの異常が潜んでいる可能性は否定できない。

一部のネット上では、「○○議員は人間の姿をした異星人だ」「古代から地球に潜む『代替種族』の一員だ」など、様々な陰謀論が飛び交っている。もちろん、科学的検証に耐えうる証拠はなく、単なる映像の特性や偶然の産物という可能性も高い。

しかし、現代社会において、私たちがどれだけ「見えているつもりになっている」かを考えさせられる事例ではないだろうか。日常の中に潜む「異常」に気づかないまま、私たちは生きているのかもしれない。

本誌読者の皆様には、この話を鵜呑みにすることも、完全に否定することもせず、「もしかしたら」という想像力を持って受け止めていただければ幸いだ。

なお、本調査を進める中で、私の自宅のポストに「調査中止を求める」匿名の手紙が投函されていたことを付記しておく。差出人は不明だが、消印は○○議員の選挙区のものだった。

都市伝説の真偽はさておき、この世界には、私たちの想像を超える何かが確かに存在している——そう信じて、次回の取材に臨みたい。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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