都市伝説レポート

君山洋太朗

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第61回 13回目の世界

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都市伝説レポート 第61回

「13回目の世界」

取材・文: 野々宮圭介


私が最初にこの話を耳にしたのは、六本木の片隅にある古びた喫茶店でのことだった。取材で訪れていた別件の情報提供者が、会話の終わりに「ところで、野々宮さんは『世界の終わり』についてどう思います?」と唐突に切り出したことから始まる。

「世界の終わり?」と私が首を傾げると、彼は周囲を見回し、声を潜めて続けた。「この世界は既に12回滅んでいるらしいんです。私たちが生きているのは13回目の世界だと。」

普段なら取り合わないような話題だが、その男の眼差しには確信のようなものが宿っていた。私は革製のメモ帳を取り出し、ペンを走らせ始めた。都市伝説の取材という仕事に10年も携わっていると、些細な兆候で「これは掘り下げる価値がある」と感じる勘が働くものだ。


調査を進めると、「世界のリセット」という概念は、様々な文化や宗教に存在することが明らかになった。古代インドの輪廻転生、北欧神話のラグナロク、アステカの五つの太陽神話など、世界が滅びては再生するという思想は人類の歴史に深く根付いている。

しかし、今回の都市伝説が特異なのは、その具体性と現代的な解釈だ。「私たちは13回目の世界に生きている」という数字の特定、そして「次の終末は完全な消滅になる」という終末論的な予言が付随している点である。


匿名の大学教授(仮名:T氏)

「私は夢の中で何度も同じ世界の終わりを見てきました。津波、隕石、疫病、核戦争...終わり方は様々ですが、いつも同じ感覚があります。そして目覚めると、前の世界の記憶が断片的に残っているのです。」

T氏は量子物理学を専門とする研究者だが、公式な場ではこの話題に触れることはないという。「学術界での信用を失いたくないので」と前置きしつつ、彼は自身の理論を私に説明した。

「多世界解釈によれば、すべての可能性は並行して存在しています。しかし、私が感じるのはもっと循環的なものです。同じ歴史が微妙に異なる形で繰り返されるのです。」


霊能者・星野ミチル(本名)

東京郊外で鑑定所を営む星野氏は、クライアントの中に「前世ではなく、前の世界の記憶」を持つ人々が増えていると証言する。

「通常の前世記憶と違って、これらは現代的な風景や出来事を含んでいます。スマートフォンや高層ビルがある世界、しかし微妙に私たちの知る世界と異なる...そんな記憶です。」

星野氏によれば、これらの記憶は人生の重要な局面で突如として現れ、しばしば強烈なデジャヴとして体験されるという。


匿名の元政府関係者(仮名:K氏)

最も驚くべき証言は、ある国の情報機関に所属していたというK氏からもたらされた。彼は特定の場所での勤務経験を匂わせながらも、具体的な言及は避けた。

「特定の人物が持つ『記憶の継続性』を研究するプロジェクトがありました。彼らは『記憶者』と呼ばれ、世界の終末後も前の世界の情報を保持できる稀有な存在です。」

K氏によれば、この記憶は国家安全保障上の理由から研究されていたという。「次の終末がいつ、どのような形で来るかを予測するためです。」


この都市伝説を科学的に解釈しようとする試みもある。脳科学者の中には、デジャヴを「記憶の形成過程における一時的な神経回路の混乱」と説明する人もいれば、量子物理学の分野では「多世界解釈」や「量子のもつれ」といった概念を用いて説明を試みる研究者もいる。

民俗学の乙羽教授は、この伝説について独自の見解を示した。「現代の都市伝説は、しばしば科学と宗教の境界を曖昧にします。この『13回目の世界』という概念は、進歩と循環という相反する時間観の融合であり、現代人の抱える実存的不安の反映と言えるでしょう。」


取材を進める中で、私はSNSを通じて「前の世界の記憶」を持つという人々のコミュニティを発見した。彼らが共有する体験には、いくつかの共通点があった。

1. 強烈なデジャヴ(既視感)が特定の場所や出来事で発生する
2. 夢に現実とは微妙に異なる世界が登場する
3. 実際には起きていない災害や出来事の鮮明な「記憶」がある
4. 人生の重要な選択において「以前も同じ選択をした」という感覚がある

これらの体験者の多くは、医療機関での診断では特に異常は見つからなかったという。「統合失調症でも解離性障害でもない」と医師に言われたという証言もあった。


この都市伝説で最も不気味な要素は、「13回目の世界は最後である」という点だ。なぜ13回目が特別なのか、その理由については様々な説がある。

数秘術では13が不吉な数字とされる西洋の伝統があり、「13回目の世界」という概念にも影響を与えているのかもしれない。また、別の説では「世界のエネルギーが徐々に減少し、13回目でついに再生不能になる」というものもある。

T氏は物理学的な解釈を提案する。「エントロピーは常に増大します。世界が再生するたびに、基本的な物理法則はわずかに変化し、13回目でついに安定した構造を維持できなくなる可能性があります。」


この都市伝説に関連して、東京都内のある地下鉄駅構内で「異常なデジャヴ体験」が多発しているという情報を得た。私は数日間、その駅で聞き込み調査を行った。

駅員の一人は匿名を条件に話してくれた。

「確かに、この通路で立ち止まって混乱している人をよく見かけます。『ここで何かあったはずなのに』と言う人もいます。」

実際に私も、特定の改札口付近で不思議な感覚に襲われた。それは既視感というよりも、「別の可能性の残響」とでも呼ぶべきものだった。しかし、これが単なる思い込みなのか、それとも何か別のものなのかは判断できない。


「13回目の世界」という都市伝説は、現代人の抱える不安や、科学では説明しきれない現象への人間の意味付けの欲求を反映している可能性がある。あるいは、これは単なる思い込みや創作の産物かもしれない。

しかし、取材を通じて出会った人々の多くは、この体験が彼らの人生に深い影響を与えていることは間違いない。彼らは自分たちの感覚を真剣に受け止め、その意味を探り続けている。

デジャヴや既視感が本当に「前の世界の記憶」なのか、それとも単なる脳の誤作動なのか。そして、私たちが本当に「13回目の世界」に生きているのか、そしてそれが「最後の世界」なのかどうか。

答えは読者の皆さんの判断に委ねたい。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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