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第97回 電波に宿る声
都市伝説レポート 第97回
「電波に宿る怪異」
取材・文: 野々宮圭介
放送事故というものは、どんな時代にも起こりうる。プロの世界でも人間が関わる以上、ミスは避けられない。しかし、技術的な説明がつかない「事故」となると話は別だ。今回取り上げるのは、1970年代にNHKラジオで発生した、いわゆる「謎の女の声事件」である。
1975年から78年にかけて、NHKのラジオ放送中、不定期に女性の声が突如として割り込むという奇妙な現象が報告されている。通常の放送内容とは全く関係のない「死ね」「私はここにいる」「助けて」などの言葉が、アナウンサーの声に重なるように挿入されたというのだ。公式な記録は残っていないが、当時のラジオ好きだった人々の間では有名な話だという。
「あれは確かに聞こえましたよ。深夜のクラシック番組を聴いていたときでした」
そう語るのは、当時放送技術課に勤めていたという前田浩二氏(仮名・78歳)だ。私は氏の自宅を訪ね、当時の状況について話を聞いた。
「最初は機材の不具合か、何かの電波干渉だと思ったんです。技術課では大騒ぎになりましてね。機材をすべて点検しました。でも、原因は見つからなかった。不思議なのは、録音されたテープには何も残っていなかったことです。生放送中にだけ現れる声...説明がつきませんでした」
声の主について、様々な噂が飛び交った。自殺した女性アナウンサーの霊だという説、閉鎖された放送室から漏れ出る過去の放送だという説、果ては外国のスパイによる電波妨害説まで。
当時の内部資料を調査しようと、私はNHKアーカイブに問い合わせたが、該当する事件の記録は見つからなかった。公式には存在しない事件なのだ。
興味深いのは、この現象が突如として終息したことだ。1978年末を最後に、「謎の女の声」は二度と放送に混入することはなかったという。
「実は...」と前田氏は声を潜めた。
「最後に聞こえた声は『もう終わりにします』だったんです。それ以来、現象は起きていません」
放送設備の老朽化による不具合か、単なる都市伝説か。あるいは本当に超常現象だったのか。真相は未だに闇に包まれたままである。
インターネット時代となった現代、放送事故は拡散されやすくなった。特にYouTubeには「放送事故まとめ」と称して様々な映像が投稿されている。その中でも私が注目したのは、特定のテレビ局の深夜帯に時折映り込むという「謎の男」の存在だ。
「夜中の2時頃だったと思います。ニュース番組を何となく見ていたら、スタジオの奥を横切る人影が映ったんです。スタッフかと思ったんですが、なんか動きが変でした」
この証言をくれたのは、深夜勤務のタクシー運転手・村上誠司さん(45歳)だ。彼が言う「謎の男」の映像は実際にネット上で確認できる。確かに、ニュース番組の背景に、数秒だけ暗い人影が通過する様子が映っている。スタッフの移動ならば珍しくもないが、不自然なのはその動き方だ。まるで足を引きずっているようにも見える。
さらに興味深いのは、同じ局の深夜帯で起きたという別の奇妙な出来事だ。ニュースを読んでいたキャスターが、突然異常な目の動きを見せたという。映像を確認すると、確かに数秒間、目が左右に揺れ動き、その後無表情になった後、何事もなかったかのように原稿を読み続けている。
これらの現象について、同テレビ局の匿名を条件に話してくれた照明技術者は、次のように説明した。
「夜中は最小限のスタッフで回しているんです。カメラの死角や暗い部分はいくらでもあります。映りこんだのは単なるスタッフでしょうね。キャスターの目の動きについても、長時間の放送での疲れかモニターの不具合を見ていただけかと」
しかし、一部のネット民の間では、これらの映像は「放送事故の呪い」として語り継がれている。それによれば、かつて同局で亡くなった社員の霊が深夜のスタジオに出没し、時にはキャスターに憑依するという。
真偽のほどは定かではないが、私は実際に該当するテレビ局を訪れ、深夜帯のスタジオを見学させてもらった。スタジオ自体には特に不思議な点は感じられなかったが、照明が落とされた深夜のセットには独特の緊張感があった。
「ここで一人で仕事をしていると、時々誰かが見ている気がするんです」と語るADの女性。しかし彼女自身は「謎の男」を見たことはないという。
取材を終えて思うのは、メディアそのものが持つ不思議な力だ。電波や映像という目に見えない情報伝達手段は、古来より人々の想像力を刺激してきた。それは時に恐怖となり、都市伝説として語り継がれる。
1970年代の「謎の女の声」も、現代の「謎の男」も、科学的な説明がつけられるかもしれない。しかし一方で、私たちの理解を超えた何かがそこにあるのかもしれない。
読者の皆さんにはぜひ、深夜のラジオやテレビを視聴する際には、少し注意深く耳と目を凝らしてみてほしい。もしかしたら、あなたも「次の目撃者」になるかもしれないのだから。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
「電波に宿る怪異」
取材・文: 野々宮圭介
放送事故というものは、どんな時代にも起こりうる。プロの世界でも人間が関わる以上、ミスは避けられない。しかし、技術的な説明がつかない「事故」となると話は別だ。今回取り上げるのは、1970年代にNHKラジオで発生した、いわゆる「謎の女の声事件」である。
1975年から78年にかけて、NHKのラジオ放送中、不定期に女性の声が突如として割り込むという奇妙な現象が報告されている。通常の放送内容とは全く関係のない「死ね」「私はここにいる」「助けて」などの言葉が、アナウンサーの声に重なるように挿入されたというのだ。公式な記録は残っていないが、当時のラジオ好きだった人々の間では有名な話だという。
「あれは確かに聞こえましたよ。深夜のクラシック番組を聴いていたときでした」
そう語るのは、当時放送技術課に勤めていたという前田浩二氏(仮名・78歳)だ。私は氏の自宅を訪ね、当時の状況について話を聞いた。
「最初は機材の不具合か、何かの電波干渉だと思ったんです。技術課では大騒ぎになりましてね。機材をすべて点検しました。でも、原因は見つからなかった。不思議なのは、録音されたテープには何も残っていなかったことです。生放送中にだけ現れる声...説明がつきませんでした」
声の主について、様々な噂が飛び交った。自殺した女性アナウンサーの霊だという説、閉鎖された放送室から漏れ出る過去の放送だという説、果ては外国のスパイによる電波妨害説まで。
当時の内部資料を調査しようと、私はNHKアーカイブに問い合わせたが、該当する事件の記録は見つからなかった。公式には存在しない事件なのだ。
興味深いのは、この現象が突如として終息したことだ。1978年末を最後に、「謎の女の声」は二度と放送に混入することはなかったという。
「実は...」と前田氏は声を潜めた。
「最後に聞こえた声は『もう終わりにします』だったんです。それ以来、現象は起きていません」
放送設備の老朽化による不具合か、単なる都市伝説か。あるいは本当に超常現象だったのか。真相は未だに闇に包まれたままである。
インターネット時代となった現代、放送事故は拡散されやすくなった。特にYouTubeには「放送事故まとめ」と称して様々な映像が投稿されている。その中でも私が注目したのは、特定のテレビ局の深夜帯に時折映り込むという「謎の男」の存在だ。
「夜中の2時頃だったと思います。ニュース番組を何となく見ていたら、スタジオの奥を横切る人影が映ったんです。スタッフかと思ったんですが、なんか動きが変でした」
この証言をくれたのは、深夜勤務のタクシー運転手・村上誠司さん(45歳)だ。彼が言う「謎の男」の映像は実際にネット上で確認できる。確かに、ニュース番組の背景に、数秒だけ暗い人影が通過する様子が映っている。スタッフの移動ならば珍しくもないが、不自然なのはその動き方だ。まるで足を引きずっているようにも見える。
さらに興味深いのは、同じ局の深夜帯で起きたという別の奇妙な出来事だ。ニュースを読んでいたキャスターが、突然異常な目の動きを見せたという。映像を確認すると、確かに数秒間、目が左右に揺れ動き、その後無表情になった後、何事もなかったかのように原稿を読み続けている。
これらの現象について、同テレビ局の匿名を条件に話してくれた照明技術者は、次のように説明した。
「夜中は最小限のスタッフで回しているんです。カメラの死角や暗い部分はいくらでもあります。映りこんだのは単なるスタッフでしょうね。キャスターの目の動きについても、長時間の放送での疲れかモニターの不具合を見ていただけかと」
しかし、一部のネット民の間では、これらの映像は「放送事故の呪い」として語り継がれている。それによれば、かつて同局で亡くなった社員の霊が深夜のスタジオに出没し、時にはキャスターに憑依するという。
真偽のほどは定かではないが、私は実際に該当するテレビ局を訪れ、深夜帯のスタジオを見学させてもらった。スタジオ自体には特に不思議な点は感じられなかったが、照明が落とされた深夜のセットには独特の緊張感があった。
「ここで一人で仕事をしていると、時々誰かが見ている気がするんです」と語るADの女性。しかし彼女自身は「謎の男」を見たことはないという。
取材を終えて思うのは、メディアそのものが持つ不思議な力だ。電波や映像という目に見えない情報伝達手段は、古来より人々の想像力を刺激してきた。それは時に恐怖となり、都市伝説として語り継がれる。
1970年代の「謎の女の声」も、現代の「謎の男」も、科学的な説明がつけられるかもしれない。しかし一方で、私たちの理解を超えた何かがそこにあるのかもしれない。
読者の皆さんにはぜひ、深夜のラジオやテレビを視聴する際には、少し注意深く耳と目を凝らしてみてほしい。もしかしたら、あなたも「次の目撃者」になるかもしれないのだから。
(了)
*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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