都市伝説レポート

君山洋太朗

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第163回 徐福伝説

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都市伝説レポート 第163回

「徐福伝説」

取材・文: 野々宮圭介


文禄・慶長の役(1592~1598年)について、筆者は長年一つの疑問を抱いていた。なぜ天下統一を成し遂げた豊臣秀吉は、莫大な国力を投じてまで朝鮮半島への出兵を強行したのか。従来の説では「明国征服の野望」「国内武士の不満逸らし」などが挙げられるが、どれも決定的な説得力に欠ける。

そんな折、民俗学者の乙羽教授から興味深い話を聞く機会があった。

「野々宮君、秀吉の朝鮮出兵には別の目的があったという説があるのを知っていますか」

教授が持参した古い文献には、驚くべき記述があった。朝鮮出兵の真の目的は、徐福伝説に登場する「不老不死の薬」を求めるものだったというのである。


徐福とは、秦の始皇帝の命により不老不死の薬を求めて東海の三神山へ旅立った方士(道士)である。この伝説は中国から朝鮮半島、そして日本へと伝わり、各地に徐福にまつわる史跡や言い伝えが残されている。

秀吉が徐福伝説を知っていたであろうことは、当時の文化的背景を考えれば十分に推測できる。戦国時代、禅僧や茶人を通じて中国の古典文化が広く流入しており、秀吉自身も教養ある文化人として知られていた。

乙羽教授の説明によれば、朝鮮半島、特に済州島周辺には古くから道教の影響を受けた不老長寿の伝説が数多く存在するという。

「済州島には『三神山』の一つとされる漢拏山があります。そして朝鮮王朝の記録を見ると、秀吉軍は軍事的合理性を欠く奇妙な進軍ルートを取っているのです」


筆者は教授の指摘を受けて、文禄・慶長の役における日本軍の進軍ルートを詳しく調べてみた。確かに軍事的観点から見ると不可解な点が多い。

第一次朝鮮出兵では、小西行長率いる一番隊が釜山から漢城(現ソウル)へ向かう途中、わざわざ慶州を経由している。慶州は新羅の古都であり、仏教文化の中心地ではあるが、軍事上の要衝ではない。

さらに奇妙なのは、加藤清正率いる二番隊の行動である。清正は咸鏡道まで進軍した際、現地の道士や薬草採取に詳しい人物を積極的に保護し、日本に連行したという記録が残されている。

「これは単なる労働力確保とは思えません」と語るのは、朝鮮史に詳しい在日韓国人研究者のK氏である。

「清正が連行した人々の中には、明らかに医術や道教に関わる知識人が含まれていました」


秀吉の晩年の行動にも、不老不死への執着を示唆する兆候が見られる。

文禄元年(1592年)、秀吉は57歳で朝鮮出兵を開始した。当時としては十分に高齢であり、既に体力的な衰えも指摘されていた。にもかかわらず、彼は「明国皇帝になる」「インド征服」といった現実離れした野望を口にするようになる。

特に注目すべきは、秀吉が朝鮮から持ち帰らせた品々である。金銀財宝や美術品に混じって、大量の薬草や鉱物、そして「霊験あらたか」とされる石や土が含まれていたという記録がある。

元関西大学の史学研究者で、現在は在野で研究を続けるT氏は次のように証言する。

「豊臣家の古文書を調査していた時、興味深い記述を見つけました。秀吉が朝鮮から持ち帰った品物の中に『仙薬の材料』と記されたものがあったのです。もちろん、これが実際に不老不死の薬だったかどうかは分かりませんが...」


朝鮮半島における道教の影響は、一般に考えられているよりもはるかに深い。特に高句麗時代から続く神仙思想は、不老長寿への憧憬と密接に結びついている。

筆者が韓国の民俗学者L教授に取材したところ、興味深い事実が判明した。

「文禄・慶長の役の際、日本軍が特に執着したのは寺院や道観(道教寺院)でした。彼らは仏像や経典だけでなく、薬草園や錬金術に関する器具も持ち去ったのです」

L教授によれば、当時の朝鮮には中国から伝来した錬丹術(道教の錬金術)の伝統があり、特に金剛山や智異山周辺では「仙人の薬」を作る秘法が伝承されていたという。


慶長3年(1598年)、秀吉は伏見城で没した。享年62歳。死因については諸説あるが、晩年は「不老の薬」を求めて様々な怪しげな薬物を服用していたという記録が残されている。

秀吉の死に際して、一つの奇妙な逸話が伝わっている。彼は死の直前、「朝鮮にある三つの山の秘密を解き明かせなかった」と述べたというのである。この「三つの山」が徐福伝説の三神山を指していたのではないかと推測する研究者もいる。

また、秀吉の遺品の中には朝鮮半島の地図があり、特定の山岳地帯に朱で印が付けられていたという証言もある。これらの地域は、いずれも古くから霊山として崇められ、不老長寿の伝説が残る場所だった。


筆者は実際に韓国を訪れ、文禄・慶長の役の痕跡を辿ってみた。済州島の漢拏山、全羅南道の智異山、江原道の金剛山──これらの霊山には今でも不老長寿にまつわる民間信仰が息づいている。

済州島で出会った古老のP氏は、祖父から聞いた話として次のように語った。

「昔、日本の武将たちがこの島にやって来て、山の薬草を根こそぎ持って行ったという話があります。彼らは金や米よりも、山に自生する特別な草木を欲しがったそうです」

智異山麓の村でも、似たような伝承を聞くことができた。日本軍が「仙人の住む洞窟」を執拗に探し回ったという話や、山中の道観から古い薬方を持ち去ったという話である。


これらの証言や記録をどう解釈すべきだろうか。

確かに朝鮮出兵における日本軍の行動には不可解な点が多い。軍事的合理性を欠く進軍ルート、道教関連施設への異常な関心、大量の薬草類の略奪──これらは単なる偶然では説明しきれない。

一方で、これらの「証拠」は状況証拠に過ぎず、秀吉が明確に不老不死の薬を求めていたという直接的な史料は存在しない。徐福伝説との関連についても、後世の創作である可能性は否定できない。

ただし、一つ言えることは、戦国時代の権力者たちが不老長寿への強い関心を抱いていたという事実である。織田信長も長寿の秘法を求めて様々な薬物を試していたし、徳川家康に至っては「薬の時代」を築くほど健康長寿に執着していた。

秀吉が朝鮮出兵において不老不死の秘薬を求めていたかどうか──それは歴史の霧の中に隠された謎のままである。しかし、人間の「永遠への憧憬」という普遍的な欲望を考えれば、この説が完全に荒唐無稽とは言い切れないのかもしれない。


文禄・慶長の役から400年以上が過ぎた今も、朝鮮半島と日本列島には当時の記憶が様々な形で残されている。それは政治的な対立の記憶であり、文化交流の記憶でもある。

そして、もしかすると──秀吉という一人の老いた権力者の、永遠への密やかな憧憬の記憶でもあるのかもしれない。

真実は歴史の彼方に沈んでいる。信じるか否かは、読者諸氏の判断に委ねたい。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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