都市伝説レポート

君山洋太朗

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第178回　幻のアカウント

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都市伝説レポート第178回

「幻のアカウント」

取材・文: 野々宮圭介

筆者が今回の調査に着手したきっかけは、一通の読者からの投書だった。差出人は都内在住の会社員・田中悟氏（仮名、28歳）。彼の投書には、現代のデジタル社会における奇妙な体験談が綴られていた。

「野々宮さんの記事をいつも楽しみにしています。今回は私が体験した不可解な出来事についてお聞かせしたいのです。マッチングアプリで出会った『完璧すぎる女性』の話です」

田中氏によると、某大手マッチングアプリで、まるで自分の理想を具現化したような女性のプロフィールが表示されたという。容姿端麗で、趣味嗜好も価値観も驚くほど一致していた。しかし、やり取りを重ねて実際に会う約束を取り付けようとした瞬間、そのアカウントは忽然と消失したのだという。

筆者はまず、マッチングアプリ業界の実態を調査することにした。都内某所にある中堅マッチングアプリ開発会社を訪問し、開発責任者の山田氏（仮名）に話を聞いた。

「確かに、ユーザーのアクティビティを維持するための様々な手法は存在します」

山田氏は慎重に言葉を選びながら語った。

「しかし、架空のアカウントを意図的に作成することは、利用規約違反であり、何より詐欺行為にあたります。弊社ではそのような行為は一切行っておりません」

一方で、同氏は興味深い技術的事実も教えてくれた。

「AIを使った画像生成技術や、ユーザーの行動パターンを分析してマッチング率を向上させる技術は、確かに存在します。また、アカウントの表示順序を調整することで、特定のユーザーを優先的に表示させることも技術的には可能です」

田中氏の証言だけでは単なる偶然の可能性もあるため、筆者はSNSや掲示板を通じて類似体験者を募集した。すると、驚くべきことに10人以上の男女から連絡があった。

「本当に運命の相手だと思いました」と語るのは、IT企業に勤める佐藤美香氏（仮名、31歳）。

「彼は私の好みのタイプそのもので、メッセージのやり取りも完璧でした。でも、電話番号を聞いた途端にアカウントが消えたんです。まるで最初から存在しなかったかのように」

興味深いのは、証言者たちの多くが「課金直前」または「課金直後」にこの体験をしていることだった。無料プランでは制限のあるメッセージ機能を使い切った時点で、より良いコミュニケーションを求めて有料プランに移行しようとした矢先に、理想的な相手が現れるパターンが多く見られた。

筆者は、IT関連の知識を深めるため、AI技術に詳しい某大学の情報工学部准教授・渡辺氏（仮名）に話を聞いた。

「現在のAI技術では、既存の大量のプロフィールデータを分析し、特定のユーザーが好むであろう理想的なプロフィールを自動生成することは十分可能です」

渡辺氏は説明した。

「また、チャットボット技術を使えば、人間らしい自然な会話を維持することも困難ではありません」

さらに同氏は、マッチングアプリの収益構造について言及した。「基本的にこれらのアプリは、ユーザーの滞在時間と課金額によって収益が決まります。理想的な相手を匂わせることで課金を促し、実際の出会いに至る前に別の相手を提示するという手法は、ビジネスモデルとして合理的と言えるでしょう」

筆者は主要なマッチングアプリ運営会社数社に取材を申し込んだが、多くの会社が「企業秘密」や「個人情報保護」を理由に詳細な回答を避けた。しかし、ある中堅企業の広報担当者は興味深い発言をした。

「弊社では、ユーザー体験の向上のため、AIを活用したマッチング最適化システムを導入しています。しかし、架空のアカウントは一切作成しておりません。もし消失したアカウントがあるとすれば、それは該当ユーザーが自らアカウントを削除したか、利用規約違反により弊社が削除したかのいずれかです」

筆者が2か月間にわたって収集した証言と技術的事実を総合すると、以下のような可能性が浮かび上がる。

第一に、技術的に「理想的なアカウント」を自動生成し、ユーザーの課金を促すことは十分可能である。第二に、アカウントの消失については、運営側の意図的な操作、ユーザー側の自主的な削除、システム上の不具合など、複数の要因が考えられる。第三に、ユーザーの心理的バイアスにより、実際は平凡な相手を「理想的」と錯覚している可能性もある。

筆者は最後に、心理学の専門家である某大学教授・田村氏（仮名）に話を聞いた。

「人間は『手に入らないもの』により強く惹かれる傾向があります。突然消失したアカウントは、まさにその心理を刺激します。また、マッチングアプリという限られた情報の中で理想の相手を見つけた時の興奮は、冷静な判断力を奪う可能性があります」

田村氏はさらに続けた。「現代のデジタル社会では、現実と虚構の境界が曖昧になりがちです。特に恋愛という感情的な分野では、その傾向が顕著に現れるでしょう」

筆者の調査により、マッチングアプリの「幻のアカウント」について、技術的可能性と心理的要因の両面から一定の理解を得ることができた。しかし、実際に運営会社が意図的に架空のアカウントを作成しているかどうかについては、明確な証拠を得ることはできなかった。

重要なのは、この現象が単なる都市伝説なのか、それとも現実に存在するビジネス手法なのかを問うことではなく、デジタル時代の恋愛において、我々が何を求め、何に騙されやすいのかを自省することかもしれない。

田中氏は筆者に最後にこう語った。

「結局、本当の出会いは画面の向こうではなく、現実の世界にあるのかもしれませんね」

マッチングアプリの「幻のアカウント」の真相は、今もなお闇の中にある。読者諸氏は、この現象をどのように受け止められるだろうか。

（了）

＊本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。

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