魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

文字の大きさ
20 / 112
第一章 レイフの森

第20話 夜間強襲戦④

しおりを挟む

 ゴウを囲むよう、皆がそれぞれ予定していた配置につく。
 味方へぶつける可能性を考慮し、投石部隊の者達もそれぞれ武器を持ち替えて配置に加わる。
 程なくして、ゴウの包囲網は完成した。

 包囲網が完成する前に仕掛けてくる可能性もあったが、俺の読み通りゴウは攻めてこなかった。
 恐らく、俺達ごときがどう攻めてこようと軽くあしらう自信があるのだろう。
 その自信に付け入る事こそが、俺達が勝利する為の糸口になる。

 …しかし、一つ想定外だったのは先程ゴウの見せた技だ。
 確か剛体と言っていたが、あれは一体…?


「…イオ、ゴウの使った『剛体』というのは?」


 俺はゴウから視線を切らさないようにしながら、イオに確認をする。
 先程俺がゴウの体勢を崩した際、イオとライの攻撃は確実にゴウを捉えたように思う。
 にもかかわらず、ゴウにはダメージ受けた様子が一切ない。
 あれがもし、何かの技であるのであれば、厄介極まりない代物だ…


「『剛体』は、魔力の放出で反発する被膜のようなものを作る防御方法です。トロールや獣人にとっては基本的な防御方法ですが、知りませんか?」


「…知らないな。トロールや獣人って事は、イオ達も使えるのか?」


「ええ…。ただ、『剛体』は強力な防御方法ですが、非常に魔力を消費します。その為、トロールの魔力量では基本的に日光の助力なくして使う事ができません。今の私にその余力は…」


「おっと、嘘はいけねぇな。獣人とのハーフであるお前なら、この状況でも剛体は使えるはずだぜ? 小賢しい駆け引きをしてるんじゃねぇよ」


 小声で話していたつもりだが、聞こえていたようだ。
 どうやら、耳も非常に良いらしい。


「…別に、駆け引きをしているつもりはありませんよ。確かに、私は獣人の血を引いている為、通常のトロールよりも魔力総量は多いですからね。『剛体』を使う事自体は問題無いでしょう。…まあ、その余裕があればですがね」


 魔力を消費するのは、何も『剛体』だけではない。
 イオの言う通り『剛体』の使用魔力量が多いのであれば、それだけ他に回せる魔力が減るという事になる。
 確かに、あのゴウを相手にしてその余裕があるかは疑問である。
 ただ、そうだとしても疑問は残る。


「…でも、奴は純粋なトロールなんだろ? 何故夜間でも『剛体』が使えたんだ?」


 イオの言う事を信じるのであれば、魔力総量は種族によってある程度限界が存在するのだろう。
 トロールが本当に魔力総量が少ないのであれば、『剛体』を軽々しく使えるとは思えないが…


「恐らくですが…、ゴウは過剰なエネルギー接種により、使用を可能としているのでしょう」


「過剰…。っ! そういう事か…」


 成程な…
 なんとも胸糞悪い話だが、どうやら奴は経口摂取による過剰な蓄えで、大量の魔力消費を補っているらしい。
 …そうなると、やはり魔力とカロリーには密接な関係があるのかもしれない。


「でもそれなら、使用限界自体はあるって事だよな? …だったら、なんとかなると思う」


 あんなものを常時使われたとしたら、勝ち目など到底ないだろう。
 しかし、限界があるのであればいくらでも対抗策は思いつく。


「ほう? 俺様を倒す算段が有るってか? おもしれぇじゃねぇか」


 岩の大剣を構えなおすゴウ。
 標的を俺に絞ったのか、かかるプレッシャーが先程とは比べ物にならない。


「行くぜ、クソガキ!」


「させません!」「させない!」


 俺を庇うようにイオとライが前に出る。


「ゲツ! 槍で援護だ! 間合いに入るなよ!」


「了解です! 行くぞみんな!」


 ゲツに援護を支持し、俺は再度意識を集中する。
 大量に用意した粘液と土の合成。
 ガウに叩きつけたのと同様の泥玉が生成されていく。


「させるかよ!」


 ライとイオが間合いに入る寸前、ゴウが岩の大剣で地面を救い上げるように振り上げる。


「なっ!?」


 巻き上げられた土砂が、俺を含めた三人に飛礫の如く飛来する。
 俺は辛うじて頭を庇うことは出来たが、洒落にならないくらいの衝撃が体を襲った。


「ぐっ…」


 どれだけの力を籠めれば、土や小石でこれだけの威力が出るのか。
 痛みで集中が乱れ、生成した泥玉が決壊しかけていた。
 しかし、目の前に迫りくる暴威を凌ぐ為には、これを崩すわけにはいかない。
 俺は歯を食いしばり、なんとか泥玉の形状を保ちつつ、ゴウに向けて放つ。


「チィッ!」


 ゴウは妨害出来なかった事に舌打ちしつつ、すぐさま回避の体勢に入る。
 しかし、


「逃がしません!」


 イオが素早く追撃する事で、それを阻止する。


「ケッ! 『剛体』で耐えやがったか!」


 イオの追撃で回避が間に合わず、ゴウに泥玉がさく裂する。


「よし! 各自追撃を!」


 槍部隊の後ろで、俺と同じように泥玉を形成していた術士部隊が一斉に泥玉を放つ。
 ゴウはその追撃から逃れようとするが、イオの凄まじい連撃により縫い留められ、次々と泥玉が被弾する。
 これが他の、例えば炎などの術であれば、ゴウにダメージを与える事は出来たかもしれない。
 しかし残念ながら、ゴブリンにもオークにも、そういった術を扱える者は存在しなかった。

 とはいえ、この泥玉でも動きを阻害するには十分な効果を与えることが出来る。
 その効果は、ガウとの戦いで実証済だ。
 しかし…


「しゃらくせぇ!」


 ゴウは泥の阻害などまるで無いかのように、暴れ始める。
 否、暴れているように見えたのは、その動きが滅茶苦茶だったからであり、実際はただ暴れているわけでは無かった。
 ゴウは両方の大剣を使用して、四方八方へ土砂をまき散らしたのである。
 そんな事をされれば、周囲を取り囲んでいた槍部隊はたまったものでは無い。
 それどころか、その後ろに控えていた術士部隊にまでも被害が及んでしまった。


「で、出鱈目過ぎるだろ…」


 その被害は、もちろん俺達三人にも及んでいる。
 最初の飛礫の際、イオは剛体を使用して防いだようだが、ライは確実に直撃していた。
 二人とも、二回目の飛礫は躱したように見えたが、『繋がり』から感じるライの状態はあまり良くない。


「ライ! 大丈夫か!?」


「大丈夫、ではないけど、とりあえず生きてはいるよ…」


 不味いな…
 この反応では、とてもじゃないが戦える状態とは思えない。
 たったあれだけの攻防で、既にこちらの手勢は崩壊寸前に陥っていた。


(おいおい…、いくら何でも強すぎやしないか?)


 これがゲームか何かなら、絶対に勝てないイベント戦闘的なものなんじゃないだろうか…
 などと、現実逃避を始めてしまうくらいに状況は良くない。
 さらに、状況は加速度的に悪くなっていく…


「残念だなぁ! 日が昇る前にカタを付けたかったんだろうが、どうやら時間切れのようだぜ?」


 そう、既に空は段々と薄明るくなってきているのだ。
 恐らく、そう間もない内に日の出を迎えることになる。
 そうなれば、俺達の勝ち目は完全に無くなってしまうだろう。
 …まあ、このままではそれを待たずに全滅するかもしれないが。


「…ゴウは私が引き受けます。だから、貴方たちは退きなさい」


 イオが立ち上がり、剣を構える。
 ダメージは受けていないようだが、疲労が色濃く見えている。
『剛体』を使用した影響だろうか…


「イオ、無理はするな。俺が前に出るから、フォローに回ってくれ」


 正直、俺のダメージも少なくは無い。
 しかし、距離が離れていた分、ライ程のダメージは受けていなかった。
 恐らくこの三人の中では、俺が一番まともに動ける筈だ。


「待て! その役目は俺達が担わせてもらおう!」


 覚悟を決めて構えを取ると、背後から野太い声が聞こえてくる。


(っ!? 助かった! 来てくれたのか!)


 背後から近づいてくる、大きな三つの気配。
 それはガウ、デイ、ダオの三人であった。
 予定よりも少し早いが、この状況における彼らの登場は、最高のタイミングと言っても良いだろう。

 ガウ達三人が、俺達と入れ替わるようにしてゴウの前に立ちはだかる。
 彼らの参戦により、戦況はこちらが有利に傾き始める。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...