魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

文字の大きさ
31 / 112
第一章 レイフの森

第30話 宣戦布告

しおりを挟む

「ま、おう……?」

 魔王ってあれだよな。あの魔王だよな?
 想像ではもっと悪魔的な容姿だったんだけど……、ってそんな事はどうでもいい!
 なんで魔王がこんな所に?


「悪かったなぁ。本当は隠すつもりなんて無かったんだぜ? ただ、俺のことを知らないって奴等に会うのが新鮮でな! 目的を忘れて騒いじまったぜ……」


 目的? 目的って……、まさかガウ達か?
 ゴウは獣人達相手に、かなり暴れまわったというし、もしかしたらその報復なのかもしれない。
 いや……、それにしたって魔王直々に出向くなんてちょっとおかしいと思うが……


「あ、ちなみに芸人って言うのも別に嘘じゃないぜ。こんな立場になる前は芸で稼いでいたからな。悪くなかったろ?」


 咄嗟に声が出なかったため、俺はコクコクと頷いて返す。


「キバさ……、陛下は、どうしてこちらへ?」


 ライが尋ねる。それは、ここにいる誰もが気になっていることだ。
 固まっている俺達を気遣ってか、ライが代表して確認してくれるらしい。


「偵察……、になるのか? 元々は違ったんだがな。まぁ、とりあえず座れよ。おい、そこのトロール達も突っ立てないで、コッチ来て座れよ! 別に暴れたりしないからよ!」


 そんな事を言われても到底信じられないが、逆らえば何をされるかわかったものではない。
 ガウ達もそれを感じてか、何も言わずに素直に応じる。


「本当はな? 部下達が手を焼いているっていう、二頭のトロールの討伐が目的だったんだよ。だが、俺が意気揚々と戦闘準備をしていたら、先行していた部下から二頭のヤツが討たれたと報告が入ってな。最初は俺の楽しみを奪いやがって! と思ったりもしたんだがよ、よくよく考えてみりゃ数人がかりとはいえ、多頭のトロールをやったってのは大したもんだ。俄然興味をひかれた俺は、単身ここに乗り込んで調査を開始したってワケだ」


 心底楽しそうに語る魔王様。
 いやいや、それがどうして単身乗り込むことになるのさ……
 恐らく、部下の人は止めたのだと思うけど……
 見たことも無いはずの部下達の心労が、ひしひしと伝わってくる気がする。


「しかし、先程のような演舞を披露する必要は無かったのでは?」


 魔王の奔放さに緊張がほぐれたのか、俺もようやく声を出すことができるようになった。


「いやいや、俺も初めはそんなつもりは無かったんだが、めでたい席だそうじゃねぇか。そりゃあ盛り上げるしかないだろ?」


 盛り上げるしかないって……
 この人、本当に魔王なのか……?
 ちょっと流石に自由すぎやしないだろうか。


「まあ、それはそれとしてだ、情報を集めるのは今も昔も飲みの席が一番ってやつだ。実際、俺の知りたかった情報はたんまり手に入れられたぜ?」


 確かに、酒が入れば口も軽くなるし、信頼関係も築きやすくなってくる。
 ゲームや小説でも、情報収集の場といえば酒場というイメージがあるが、実際理に適っていると言えるだろう。
 ……ただ、それを王様がやるってのはどうなんだろうか?
 実際、魔王なんて有名人じゃなければ、正体もバレずに最後まで偵察出来た気がする……
 ……あれ、何だろうこの疲労感は?
 俺が困っているわけじゃ無いんだけど、部下の心労を考えるとなんだか胃の辺りがキュルキュルする。


「……では、此度の陛下の目的は、集落の偵察ということですね? ……陛下は、結論としてこの集落をどう判断されたのでしょうか?」


 ライの表情が少し険しくなる。
 確かに、魔王の判断次第では俺達に何か要求される可能性もあるのだ。。
 魔王の最初の目的は二頭、ゴウの討伐だったと言っていた。
 それに従っていたガウ達を引き渡せと言われる可能性は、十分にある。
 それ所か、最悪の場合討伐対象になっていてもおかしくは無いのだ。


「……そうだな。とりあえず他のトロール達は、二頭のような危険思想に捕らわれているワケでもないようだし、問題ないだろ」


 ……良かった。
 最大の心配ごとが取り除かれ、少し安堵する。


「が、しかしだ。この森は前々から結構危険視されていてなぁ……、その勢力が増強されるってのは、やはり俺達にとっちゃ脅威なんだよ。ってことで、悪いがこの集落は攻め落とさせて貰うぜ?」


「っ!?」


 さっきまで和やかな雰囲気を発していた魔王が、突如威圧感を放ち始める。
 余りの圧力に、俺の体に震えが走る。


「……まあ、俺も鬼ってワケじゃないし、折角の宴をぶち壊すことはしねぇよ。攻めるのは明日にしてやる。だから今日の所は、十分に楽しむと良いぜ? ま、最後の晩餐になっちまうかもしれないがな!」


 がっはっはっ! と笑いながら話す魔王。
 先程の安堵から、急転直下で一気に絶望感が増していく。


「ちなみに安心していいぞ? 今回攻めるのは俺だけだ。お前達がしっかり準備すりゃ、もしかしたら俺を返り討ちにすることもできるかもしれねぇ。……だが、逃げるのはお勧めしないぜ? 逃がす気は無ぇからな」


 ……無茶苦茶だ。
 はっきり言って、この魔王が言っていることは無茶苦茶である。

 宴を壊す気は無いと言うが、この時点で宴など続けられる空気ではなくなっていた。
 しかも、しっかり準備しとけと言いながら、猶予はたった一日だって?
 余りにも支離滅裂過ぎる。

 一人で攻めるという話だって、本当かどうか怪しいところだ。
 そんなこと、普通に考えてあり得ない。
 まず間違いなく、他の戦力も出張ってくるハズだ。


(……いや、この滅茶苦茶な魔王であれば、その可能性は十分あるか?)


 そもそも、ここに単騎で偵察に来ている時点でおかしいのだ。
 部下に話を通していない可能性は十分にあり得る。
 明日攻めるという短い時間設定も、あるいはそれが関係しているのかもしれない。
 それ以上時間を空ければ、本人の意思とは関係無く、部下が合流してしまうだろうからな。

 ……この魔王は、どこまでも自分が楽しむことだけを考えているのだろう。
 全く、頭が痛い話だ……
 俺は思わず頭を抱え込んでしまった。


「お、そのポーズ! 俺の部下も良くやってるぜ」


 でしょうね!


「んじゃ、そういうことなんで、また明日な! 夜更かしし過ぎて戦力がた落ちとかになるんじゃねぇぞ! 楽しみが減るからな!」



 そう言い残し、魔王は去っていった。
 まるで嵐のように、静けさを残して……


「何をやっているんですか? あなた達は?」


 合流したイオ達がその沈黙を破るまで、俺達は一言も喋ることができなかった。
 その間も俺の頭は回転をし続けていたが、未だ良い解決策は浮かんでいない。

 さて、本当にどうしたものか……



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...