魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

文字の大きさ
36 / 112
第一章 レイフの森

第35話 対魔王戦④

しおりを挟む

 吹き飛んだ魔王は、そのまま地面に激突して土煙を上げる。
 それを見た術士達から歓声が上がった。
 しかし、魔王を吹き飛ばした当人であるライは浮かない顔をしていた。
 それは当人だからこそ得られた、手ごたえの問題であった。


「はは……、ごめんトーヤ、やっぱり陛下は凄いや……。って、あれ……? トーヤ?」




 ◇




 俺は派手に吹き飛ばされながらも、笑わずにはいられなかった。


(本当に最高だぜコイツ等! 俺にまともに一撃入れやがった!)


 ――約150年前、魔界全土において、ある協定が結ばれた。

 その協定が結ばれるまで、魔界では常にどこかで戦争が行われているような状態だった。
 8人の魔王が、それぞれの領地を巡って争う大戦国時代である。
 この過酷な時代がいつ頃から始まったのかは、正確な記録は残っていない。
 少なくとも俺が生まれた時には既に、世界は戦乱の真っただ中だった。

 長い戦乱の中で、魔王と称される実力者が台頭するようになる。
 魔王はそれぞれ絶大な力を誇り、魔王同士の戦った後には荒野が1つ出来上がるとまで言われていた。
 実際、魔王同士の喧嘩で滅びた国や街は、恐らく千を超えているだろう。
 それ故に魔王達は皆、危惧することになる。
 このまま戦い続ければ、いずれ魔界は崩壊してしまうのではないか、と。

 そして、そんな最中に9人目の魔王が現れる。
 その魔王の出現こそが、戦いに終止符を打つ切っ掛けとなった。

 その後、聖地と呼ばれる世界樹の遺跡にて、9人の魔王による会談が行われた。
 そこで取り決められた協定こそが、魔王の領土間における移動の制限である。

 "魔王は、それぞれの領土から出ることを固く禁じ、それを破った場合、他の全魔王の総力によりこれを殲滅することとする"

 この協定により、魔界は崩壊の危機を免れたと言っていいだろう。
 しかし、それがもたらす平和は同時に、俺にとって退屈な日々の始まりでもあった。

 最初の100年はまだ良かった。
 血気盛んな奴等が多く、国内国外問わず俺の首を狙う輩もいたからだ。
 特に楽しめたのは、数十年前に現れた三頭のトロールだろう。
 あれは最高に楽しかった。
 かつての魔王達には及ばないものの、それに類する程楽しい戦いだった。

 しかし、その戦いを切っ掛けに、国内で俺を打倒しようとする者は激減した。
 国外からの侵略も、ここ数十年は大人しいものである。

 退屈だった。

 そんな中、国内で暴れまわる二頭のトロールの出現は、俺にとっては久しぶりの良いニュースだった。
 そして、ノリノリで討伐準備を整えている最中、部下達から衝撃的な連絡を受ける。
 二頭のトロールが、レイフの森でゴブリンやオーク達に討伐されたと言うのだ。
 俺はそれを聞いて消沈した直後、すぐに気づく。


(ゴブリンや、オーク……?)


 それははっきり言って、異常とも言っていい事態であった。
 ゴブリンやオークでは、種族的にトロールにはまず勝てないからである。
 オルドのような戦士であれば、あるいは可能かもしれないが、そんな者があのレイフの森に残っているとは思えない。
 そう考えた瞬間、俺はいてもたってもいられず、城を飛び出していた。
 そして……、


(俺の直感は間違いじゃ無かった!)


 めり込んだ地面から、体を起こす。
 腰の辺りに鈍い痛みを感じるが、動くのに支障は無さそうだ。
 俺は楽しくて堪らなかった。
 この程度の痛みですら、実に数年ぶりのことだからである。


「ハッハッハッ! ライって言ったな! イイぞお前! だが、まだまだだ! もっと気合入れて打ってこいや!」


 土煙が晴れ、ライ達の姿が現れる。
 その姿を見て、俺の笑みはさらに深くなる。
 ライ達の戦意は未だ衰えていない、それが嬉しかった。
 ただ、一つ気になったのは、その中心に立つライの挙動だ。


「……トーヤ?」


 ライが呟く。
 トーヤ? そういえばトーヤの奴はどこに……?
 そう思った瞬間、背中に何かが触れ、冷やりとした悪寒が走る。


「こっちですよ、陛下」


 爆発的に膨れ上がる悪寒と焦燥。
 それを感じた瞬間、俺はなりふり構わず最大魔力を解き放っていた。




 ◇




 魔王の周囲で盛大な爆発が起こり、俺は今、空を舞っている。


(うわぁ、地面が遠いなぁ……。これ、このまま落ちたら絶対死ぬよな……)


 声をかけた瞬間、瞬時に膨れ上がる魔力を感じ取り、俺は攻撃用に練っていた魔力を全て防御にまわした
 結果としてなんとか防ぐことはできたのだが、衝撃までは殺せず、ご覧の有様である。
 魔力はほとんど空であり、俺はもうこのまま自由落下することしかできない。

 浮遊感に下腹をくすぐられながら、段々と遠のく意識。


(このまま意識を失った方が楽に死ねるのかな……)


 そんな事を考えていると、急速に地面が近づいてくる。
 うお!? このままじゃ本当に何の覚悟もできないまま死んでしまう!?
 迫りくる地面に恐怖し、思わず目をつぶる。


(…………ってあれ? 衝撃が無い。もしかして楽に死ねたのか?)


 ってんなわけあるか!
 俺はすぐさま目を開く。


「大丈夫か!? トーヤ!」


 目の前には、ゾノの厳つい顔があった。


「……大丈夫みたい」


 どうやら、俺はゾノに抱き止められたらしい。
 衝撃が無かったのは、なんらかの魔力操作のせいだろうか?
 まあそれはともかくとして、どうやら俺は助かったらしい。


「トーヤ!!! 生きてやがるか!? 今のは何だ! 何をやろうとした!」


 そしてそんな俺に、もの凄く嬉しそうな顔をして叫んでくる魔王様。
 何故そんな嬉しそうな顔をしているのか、さっぱりわからない。


「カッカッカッ! お前ら本当にどいつもこいつも最高だぜ! オラ! 次だ次! 俺をもっと楽しませやがれ!」


(……本当楽しそうだなぁ)


 そんな楽しそうな魔王の傍に、いつの間にか一人の男が立っているのに気づく。


「いえ、キバ様。次はありません。契約違反です。キバ様の負けですよ」


「ゲっ……、ソウガ……、見てやがったのか……」


「当然です」


 魔王はしょんぼりとしながら、先程まで猛威を振るっていた魔力を引っ込める。
 少し拍子抜けだが、どうやらこの戦いはこれで終わりということらしい。
 実の所、この結末は予想していたとのだが、一歩間違えば死ぬ所だったので全く笑えない。


(うっ……)


 安堵したせいか、一気に疲れが来た気がする。
 急速に意識が沈んでいくのを感じる。


 このままではゾノの腕に抱かれたまま眠りにつくことになってしまうが、残念ながら眠気に逆らうことはできそうもなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...