魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第二章 森の平定

第68話 つかの間の平穏 それぞれの思い①

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「え……、アンネちゃんが?」


「はい……。先日から塞ぎこんでおりまして……」


 やっと落ち着いてきたと思った頃になって、タイミングを見計らったかのようにアンナから相談を持ち掛けられた。
 なんでも、バラクルの件以降、アンネの元気が無いらしい。

 ……しかし、これは予想できたことである。
 なにせ、奴等の狙いは彼女達姉妹だったのだから。
 余程図太い者でもなければ、責任を感じてもおかしくはないだろう。
 アンナが思った以上に平気そうだったので安心していたが、アンネの方は普通にショックを受けてしまったようだ。


「……アンネちゃんは部屋にいるのか?」


「ええ、ここ数日、部屋から出ようとしません。食事もあまり取ってくれなくて……」


 思った以上に重症らしい。
 それに、アンナも平気そうにはしているが、気にしていないワケでは無いようだ。
 落ち着いて彼女のことを観察してみると、少し無理をしている様子が伺える。


「……わかった。少し様子を見て来るよ」


「お願いします……。トーヤ様だったら、きっとあの子を救ってくれると信じています」


「……買いかぶり過ぎだよ」


 そんなに期待されても、正直あまり自信は無い。
 出来る限りのことはやってみるつもりだが……




 ◇




 コンコン


「アンネちゃん、トーヤだけど入っても良いかな?」


「…………どうぞ」


 少しの間を置き、返事が返ってくる。
 うーむ、これは相当に沈んでいるな……


「じゃあ、失礼するよ……って、真っ暗だね」


「……すいません。普段から明かりはあまり点けないので……。今つけます」


「あ、いいよこのままで。俺も君たち程じゃないけど、感知には長けているからね」


「……ありがとうございます。できればその方が助かります。余り人に見られたくない状態なので……」


 そうは言っても、暗視法が使える俺には概ね彼女の状態が理解できてしまう。
 ……恐らく、ほとんど寝れていないのだろう。
 彼女の美しい髪も肌も、活気を失って少し痛々しい。


「元気が無いね。やっぱり、あの件が堪えているのかな?」


「……姉さんから聞いたのですか?」


「いや、君達が責任を感じるだろうことは予想していたよ。それもあって、あの件については戒厳令を出したんだけどね」


 バラクルの狙いについては、俺は各自に絶対口外しないように命令を出した。
 コルト達はとても良い子達だが、それでもまだ子供である。
 子供の無邪気さが、時に悪い方向に働くこともあるだろう……
 事実を知るのは、彼らがもう少し大人になってからでも遅くはない。


「……そうですか」


「……アンネちゃん。気に病むなとは言わないよ。というよりも、言えないが正しいかな……。同じ立場に立って、自分が気にしないでいられる自信もないしね。……ただ、君が沈むことで、周りの皆も心配するってことは理解して欲しい。俺も、君が心配になったからここに来たんだよ」


「……すいません」


「別に謝ることじゃないよ。ただ、一人で抱えないで俺やアンナにも、アンネちゃんの気持ちを少しは吐き出して欲しいな。俺は君達のことを家族だと思っているし、悩みがあるなら共有したいと思っている。あ、もちろん迷惑だったら控えるつもりだけどね?」


「め、迷惑だなんて……、そんなことは……」


 少し卑怯な言い回しをしたが、それでもやはり抵抗があるようだ。
 でも、もう一押しといった所かな……


「アンネちゃん、責任は俺も感じているんだよ。もっと良い方法があったんじゃとか、もっと早く動いていれば、救えた人もいたんじゃとかね」


「そんな……! トーヤ様は良くしてくれています! 私達は、本当に救われました!」


「そう。他の人達は皆そう言ってくれるし、多分本当にそう思ってくれている。でも、それでも自分で自分が許せない。アンネちゃんも同じなんじゃないかな?」


「それは……」


「例えば、アンネちゃんだけは普通のエルフだったとしよう。そして、今回のような事件が起きた。君はアンナを恨むかな?」


「……………………恨む、かもしれません」


「それは嘘だよね?」


「……………………」


「今の嘘はアンナに対する侮辱にもなる。アンネちゃんだって気のいいものじゃなかったろ?」


「……はい。すみません。……でも、駄目なんです! 私達が……、いえ、私がもっとあの人たちに協力的だったら! 他の子達は犠牲にならなかったかもしれない! 姉さんの目が閉ざされることもなかったかもしれない! そう思わずにはいれないんです!」


 成程……
 彼女の自責の念は、何も今回の件だけが原因ではないようだ。
 アンナの目が閉ざされたことも、自分のせいだと思っていこんでしまっているらしい。
 しかし、俺はアンナから目が閉ざされた切っ掛けについては聞いているし、その原因についても解決済である。
 つまり、彼女が気負う必要は全くにないということだ。


「アンネちゃんの気持ちはわかるよ。でも、それって本当に自分のせいだと言えるかな?」


「言えます! だって私が……」


「アンナの目が閉ざされたの原因が何か、本当に知っている? 病気? それとも精神的な影響から?」


「それは……」


「俺は知っているよ。ちゃんと調べたし、確証もある」


「っ!? ほ、本当に……?」


「ああ、本当だよ。少なくともアンネちゃんが原因じゃないことは間違いないね」


「……………………」


 俺の言葉に、彼女が息を呑むのがわかる。
 どうやら、本当に考えてもみなかったようだ。


「それに、君がこうして塞ぎ込んでいる間にも、既に状況は色々と変わってきている。例えば、君らを狙っていた商人、ドグマの捕獲とかね」


「……え?」


「これで、少なくとも君達を狙う存在の排除はできた筈だよ。他にも同じようなことをしている商人達がいないかは、現在調査中だけどね」


「どう、して……? どうして、そこまでしてくれるんですか?」


「もちろん、家族を守る為だよ」


 他にも理由はあるが、ここで言うのは無粋だろう。


「君達の過去については、アンナから聞いてるよ。でも、本来家族っていうのはこういうものだ。……一人じゃ抱えきれないものも、家族で支え合えば抱えられる。だから、アンネちゃんはもっと皆に頼れば良いと思うな」


「……っ! やっぱり、わかりません! だって、私達はこれからも狙われる可能性があるんですよ!? そんな厄介者、本当に家族を守る為なら捨てた方が良いに決まってます! 母さん達だって、私達を遠ざけることで自分達を守った! 姉さんだって……、自分の目が塞がった時、私に何も言ってくれなかった……。きっと、恨んでいるに決まってるんです!」


 嗚咽混じりの悲痛な叫びは、紛れもなく彼女の本心なのだろう。
 アンナや俺達の気遣いすら、あるいは彼女の悩みの一旦だったのかもしれない。


「……全く。でも、これはアンナも悪いな。アンナ! 聞いているんだろ! 入ってこい!」


 扉の向こうから、ビクリと反応するの気配が伝わってくる。
 直後、恐る恐るといった感じでアンナが扉から顔を覗かせた。


「……隠形が見破られたのは初めてです」


「いやいや、相変わらず完璧な隠形だったよ。ただ、アンナならそこに居ると思っただけさ」


「姉さん……」


「アンネ……


 気まずそうに言葉を詰まらせる二人。
 近しい存在だったからこそ、言葉にしない思いがすれ違ったのかもしれない。


「察しが良いせいで余り言葉にしないのは、アンナの悪い癖だな。それがアンネちゃんをここまで卑屈にしたのかもしれないぞ?」


「……はい。面目ありません」


「……俺はもう行くよ。二人で十分に話し合うと良い」




 例えお互いを信頼しあっていたとしても、言葉にしないと伝わないものもある。
 この機に、腹を割って気持ちを吐露しあうと良いだろう。


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