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第二章 森の平定
第82話 北との戦い① 作戦会議
しおりを挟む「さて、早速だが対策を練ろうか。まずは相手の戦力だけど……、ゾノ、わかっている範囲で説明を頼む」
コクリと頷き、ゾノが大机に地図を広げる。
「まず、大まかな北の戦力だが、数的には多くても2千に満たない程度ということらしい。これは元々北の勢力に属していた西の住民から聞いた話なので、ある程度は信頼できる情報と思っていいだろう」
ゾノの言う西の住民とは、シオウという名の獣人を筆頭とした荒くれ者達である。
シオウ達は古くから北に住み付いていたらしいのだが、あの臥毘とグラが現れたことで、住処を追い出されたらしい。
それ以来、彼らは臥毘達にいつか報復しようと機を窺っていたらしいのだが、膨れ上がる戦力差の前に半ば諦めかけていたそうだ。
そんな背景もあり、今回俺達に協力をしてくれるという話になっている。
「……その西に住民というのは本当に信用できるのか?」
リンカの疑念はもっともである。
シオウ達の事情については確認しようがない為、裏で繋がっている可能性についても考慮しなければならない。
……ただ、俺が見た限りでは、シオウ達に嘘をついている様子は無かった。
「そのことについては、信用できると思っている」
「……? 何か根拠があるのか?」
「……まあ、見ればわかると思うよ」
「それは、どういうことだ?」
正直、これについては俺としても複雑な気持ちであった為、あまり説明をしたくなかった。
(イオに叩きのめされて、変な趣味に目覚めてしまったかもしれないなんて、どんな顔で説明すればいいんだよ……)
シオウ達は、以前イオにボコボコにされたという過去がある。
その際、何かに目覚めてしまったようで、イオのことを女神の如く崇めるようになってしまったのだ。
「……気になるのであれば、あとでイオと一緒に確認してくれ。それよりも、話を戻そう。ゾノ、続きを頼む」
「ああ。それで、北の勢力の主な種族構成だが、リザードマン、オーク、ゴブリン、コボルド、あとは少数だがハーフエルフとトロールもいるようだ」
「トロールがいるのか。厄介だな……」
「ああ。ガウ殿達と同様、部族ごと勢力に属しているようだ」
構成だけ聞くと、ウチと近いものがあるな。
まあ、規模に関しては全く違うだろうが……
「リザードマンやコボルドってのは、どういう種族なんだ?」
「リザードマンは見た目通り、蜥蜴などの爬虫類を祖とした獣人だ」
「獣人なのか? 種族としてはリザードマンなんだろ?」
「一般的に、獣人は獣毛の生えた種族を指すのだ」
俺の疑問対し、リンカが少し不機嫌そうに答える。
その態度から、俺は差別のようなものがあるのかと思ったのだが……
「一応言っておくが、そう主張したのは奴等自身だぞ。自分達は偉大なる龍の血を引く種族だと言い張ってな……」
成程。そういうことか。
リンカが不機嫌そうにしてたのは、一方的に嫌っているとかではなく、むしろリザードマン側から敵意を向けられていることに原因があるようだ。
「リンカ殿が言ったように、リザードマンは自らの血に誇りを持っている者が多い。先程奴が『ジグル・臥毘』と家名を名乗ったのも、貴き血を引くという龍族に倣っているからだろう」
あれは家名だったのか……
龍族に倣ってということは、龍族には貴族のようなものが存在しているというように受け取れる。
……色々と初耳の情報が多いので、聞きたいことが増えてしまった。
とはいえ、この場では聞いてしまうと話が脱線してしまうので控えるとしよう。
「成程。ちなみに、まさか龍族並みに強いなんてことは無いよな?」
「それは無いな。ただ、戦闘力は十分に高いと言える。速度も膂力も、並みの獣人を超えていると思っていい」
ここで嘘を言う理由はないし、事実なのだろう。
中々に厄介そうな存在である。
「ということは、リザードマンが主力と思って良いのかな?」
「シオウ達の情報でもリザードマンはかなりの人数がいると聞いている。そう思って間違いないだろう」
臥毘達が率いて来たリザードマンは、少なくとも百人程度は居た。
あれ以上の数がいるとなれば、対策は必須となるだろう。
「ゾノ、もう少し詳しくリザードマンの特徴を教えてくれるか?」
「俺もそこまで詳しく無いのだが……」
「それなら、俺が説明しますよ」
そう名乗りを上げたのはシュウである。
リンカ達の隊は今まで色々な戦場を経験しているので、種族ごとの特徴についても詳しいのだという。
「リザードマンは魔力が少ない為、『剛体』は基本的に使用できません。ただ、竜種程ではありませんが頑強な鱗に守られている為、防御力はそれなりに高いです。それから、ちょっとした再生能力がありますが……、これについては戦闘中は気にしないでいいでしょう。首以外なら大体再生可能みたいですが、完全に再生するにはかなりの時間を要するみたいですので」
どうやらリザードマンには再生能力もあるようだが、トロールのように戦闘中でも回復するような代物ではないらしい。
しかも剛体も使えないとなると、トロールよりは大分くみしやすい相手と言えるだろう。
「シュウはリザードマンとの戦闘経験があるのか?」
「リンカ様の近衛は全員戦闘経験がありますよ」
「じゃあ、その視点から何か対策とかはあるかな?」
「そうですねぇ……。奴等は確かに硬いが、傷を負わないワケじゃないで、力でねじ伏せるのが良いかと」
おいおい……、それは対策とは言えないだろ……
俺がそんなことを思っていると、一瞬で距離を詰めたリンカがシュウの頭をはたいていた。
「馬鹿者め……。お前がそのようなことを言うと、私達全員がお前のような馬鹿と思われるだろう!」
「け、結構本気で殴りましたね!? もう俺、リンカ様の近衛じゃないんですよ!?」
「関係あるか! そのような馬鹿なことを言い出す奴は、例え相手が父様でも殴っている!」
リンカのことだから本当にやりそうだな……
「えーっと、じゃあリンカの方から聞こうかな?」
「あ、ああ、任せてくれ。私はこ奴とは違って、しっかりと対策を考えている」
頼られたのが嬉しかったのか、リンカは少し顔を赤らめつつ胸を張る。
それを見て不覚にも少し可愛いな、などと思ってしまったが、張られた胸が可愛さとはかけ離れた主張をしていたため、目を逸らしてしまう。
「まず基本的なことは先程シュウが言った通りで、奴らは『剛体』使えないゆえに膂力が優れた者であれば攻撃を通すことは容易いだろう。それ以外の者は、外精法を含めた水での攻撃が有効だ」
「水? 水に弱いってことか?」
「いや、リザードマンは体温調節が困難な為、基本的に寒さに弱いのだ」
そういうことか……
地竜もそうだったが、爬虫類を祖としているだけあり、変温動物寄りなのだろうな。
「成程ね。この季節に水を被れば、一気に体温を奪われるってことだな」
「そうだ。奴らは体温が下がると著しく戦闘力が低下する。その状態であれば、ゴブリンやオークでも容易に倒すことができるだろう」
「……ありがとう。その情報は使えそうだよ」
「あ、ああ」
照れたように顔を背けるリンカは、やはりいつになく可愛く見える。
いつもこうであれば、もう少しとっつきやすいんだけどなぁ……
「そ、それから、ついでにコボルドについても説明するぞ。奴らは、獣の血が濃く出た獣人と思って問題無い。獣に近い分、身体能力自体は高いが、基本的に小柄で少し頭が悪い。真っ向から戦えば苦戦する可能性はあるが、罠などを用いれば造作もない相手だ」
調子づいたのか、リンカがそのままコボルトに関する説明もしてくれる。
聞く限りだと、そちらについても問題は無さそうであった。
「助かったよリンカ。それだけわかれば、十分対策が練れそうだ」
「そ、そうか。それは良かったな!」
リンカは余程嬉しかったのか尻尾をブンブンと振っている。
彼女は狐系の獣人だが、その習性はより犬に近いのかもしれない。
「それじゃあ、早速だけど準備にとりかかろう。ザルアさんは、術士達を集めて広場の方に待機させておいて下さい。ゾノは装備を含む物資の準備を、それから――」
俺は皆に指示を出しながら、頭の中でシミュレーションを開始した。
これが初の戦になるということもあり、少なからず緊張はしていたが、焦燥感や悲壮感のようなものはほとんど無かった。
ゴウや魔王、地竜といった災害級の化け物と戦ったことが、少なからず俺の自信に繋がっているようだ。
……しかし、そういった中途半端な自信は、時に気の緩みを生み出すことにもなる。
俺はこの時、まだそれに気づいていなかった――
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