魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第二章 森の平定

第98話 北との戦い⑰ アギ 対 ガウ

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 ◇ガウ




「ウオォォォラァッ!」


 アギというトロールから放たれる一撃をギリギリのところで躱し、逆に一撃を見舞う。
 アギはそれを剛体で受け止め、さらに反撃する。
 こんなやり取りを、既に数十回と繰り返していた。


「き、貴様ぁ! トロールでありながら攻撃を一々躱すなど、恥ずかしくないのか!」


「恥ずかしいだと?」


「そうだ! お前もトロールなら回避などという軟弱でっ、恥ずべき行為に頼らず、俺のように己の肉体のみで受けきって……、見せろ!」


 息を切らせながらそう言い放つアギ。
 それを見ると、憐れみと恥ずかしさがこみ上げてくる。
 自分もかつては同じような思考をしていたからだ。


「……その軟弱で恥ずべき行為を行う者に、お前は追い詰められているのではないか?」


「っ追い詰められてなど、おらぬ! ガウと言ったか……、貴様、俺を侮辱するつもりか!」


 この期に及んで追い詰められていないだと? 流石にそれは無理があるというものだ。
 昔の自分を見ているようで恥ずかしさを覚えていたが、いくら昔の俺でも、この状況でこのセリフは吐けなかっただろう。

 この戦場は既に詰んでいる。
 アギの率いる部隊は、既に壊滅状態であった。


「この状況でまだ強がりを言う元気が残っているとはな……。気づいていないのか? もうお前以外のトロールは倒れ、無理やり従わされていた者達は皆投降したぞ?」

 それを聞いて慌てて周りを確認するアギ。
 どうやら本当に気づいていなかったらしい。どこまでも愚かな男だ……

 この男が率いていた軍勢はおよそ30名。
 アギを含めたトロールが4、混血種と思われるオークが20、残りがゴブリンという内訳だった。
 オークは獣人との混血が中心で中にはトロール混じりもいたが、どうにも動きが鈍く、ゾノの部隊による先制の土術で大半が脱落した。
 恐らく、初めからそこまでの戦意は無かったのだろう。こちらに殲滅の意思が無いことがわかると、すぐに投降し始めた。
 アギの近衛らしき3人のトロールはかなりの強者であったが、こちらのトロールは俺を除いても6名、それに加えゾノの援護がある為、大した障害ではなかった。


「馬鹿な……!? いくら薄暗い森の中とはいえ、俺の直属の部下達が先に落ちるなど……」


「……お前はトロールの力を過信し過ぎだ。いくら日中のトロールが無尽蔵の体力を誇るとはいっても、魔力も体力も最大限発揮すれば回復が追い付くわけがない。増してやこの薄暗い状況だ。普段通りに動いてはすぐに底を尽きる。それは今のお前が一番理解しているのではないか?」


「……!? 貴様……、俺が、俺の部下達が……、貴様や貴様の部下に劣ると言うつもりか!!」


 そうは言っていない……。どうも話が通じんな……
 行動、言動、全てが粗野で野蛮。一応、トーヤにはこの者の処遇を任されているのだが、これではな……


「ガウ殿」


「ゾノか。どうだった」


「やはり、あのハーフのオーク達は元々この地に流れついた後、この者達に力で従わされていた者達のようだ。それに加え、若い奴らの中には無理やり産まされ、奴隷として育てられた者もいた」


「……痴れ者どもめ」


 ある程度予想はしていた。同じことを兄、いや、俺達もしようとしていたのだから。
 己の恥ずべき過去を、同じように他者がやっているのを見るは、正直堪えるな……
 無理やり子を産ませるようなことはしていないが、いずれそうなっていたかと思うと寒気すら覚える。


「強者が好き勝手振舞って何が悪い! それこそが我らの特権だろうが!」


「……最早、何も言うまい。終わらせてやろう、アギとやら」


「ほざけ! 死ぬのは貴様だ!!!」


 アギがトロール特有の岩の大剣を、大上段に構えて突っ込んでくる。
 しかし、それが振り下ろされることはなかった。
 下半身を残し、アギの上半身が構えを取ったまま宙に舞う。

『咢』

 左右から同時に放たれる斬撃は、疲弊し、回復しきらない魔力を一気に枯渇させ、アギの『剛体』を容易く引き裂いた。
 しかし生命力の強いトロールは、それでもなお即死はしない。

 アギは宙を舞いながら、それでも俺を視認し口を開く。


「くそ……、見事だ……」




 ◇イオ




 キイィィィン!


 甲高い金属音が、深い穴の中に響き渡る。
 完全に入ったと思った斬撃は、男の肌を切り裂くことなく弾かれた。


「……硬いです、ね!」


 例え弾かれようとも連撃は緩めない。


「ハッ!」


「甘いっ!」


 男の方も連撃を簡単には許さず、割り込むようにして剣を振りぬく。
 互いに使用している武器は金属製の剣。
 トロールが選択する武器にしては珍しいが、私もグラというこの男も、トロールとしては体格的に優れているわけではないがゆえに、自然な選択とも言えた。


「フン!」


 突き出された一撃を、飛び退いて躱す。
 今のは……、『喉貫き』か。


「太刀筋からまさかとは思いましたが、亜神流剣術ですか」


「正道ではないがな。そういう貴様も亜神流剣術を少しかじっているのだろう?」


「基本的な部分だけは。まあ、斬撃に関しては私の速度に向かない技ばかりですので、すぐに止めましたが」


「……そうだろうな」


 愉快そうに男が言う。
 何が楽しいのだろうか。


「随分と楽しそうですね?」


「……楽しいさ。純粋な剣での勝負など、滅多にあることではない」


 確かに。そう言われればそうかもしれない。
 私もいつ以来だろうか?


「だが、貴様の剣は太刀筋こそ素晴らしいが、未熟だ」


「……自覚はあります。しかし、勝つのは私ですよ」


「クックック……、だといいがな。折角の機会だ。未熟者に見せてやろう。 貴様の捨てた亜神流剣術の深奥を」




 男が剣を正眼に構える。同時に、雰囲気も変わる。
 どうやら、今までは本気を出していなかったらしい。
 面白い……




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